医局員便り
手記を通して,当分野での学生生活の雰囲気をお届けできればと思います.
山に魅せられて2 ~冬山登山への挑戦と感じたこと~ (森 2026年5月)
前回医局員だよりを書いた松井先生とはよく一緒に山登りをしているので続編のような形になってしまいますが、自分が今年挑戦した雪山登山と、感じたことなどについてお伝えできたらと思います。
山頂へ向かう道 雪と空のコントラストが美しい
1.天狗岳年越し登山 ~黒百合ヒュッテ宿泊~
2025年から2026年への年越しに、八ヶ岳の天狗岳へ年越し登山に行きました。
天狗岳の特徴としては冬山の環境の違う2つの面を体験できることです。
登山口か途中の黒百合ヒュッテまでは樹林帯と呼ばれる森の中を2時間ほど歩きました。
この区間では、雪が山全体を覆い、夏とは同じ山とは思えないほど景色が変化します。木々には霧氷がつき、登山道も白く染まり、雪が音を吸収することで山全体が非常に静かになる。その静寂の中では、自分の服が擦れる音やアイゼンが雪を踏む音だけが聞こえ、冬山特有の澄んだ空気を感じることができました。
黒百合ヒュッテを超えたあたりから木が生存できない森林限界という高度になってきます。
森林限界を超えると視界が一気に開けると同時に、今までは木々に遮られていて感じなかった強風にさらされることになります。実際にこの日も予報通り風が強く、稜線へ出た途端に風の音が大きくなり、雪煙が舞うこともありました。
そんな厳しい環境を歩いた後の山頂は空気もいつもよりも澄んでいて、登山者数も少ない分より自然を感じられました。
黒百合ヒュッテ名物のビーフシチュー
満点の星空と黒百合ヒュッテ 極寒の中撮影 小屋ではミニコンサート
日の出前のマジックアワー
この上の空がほんとの空です
2026年2月下旬、晴天の中、安達太良山へ登りました。
安達太良山 は福島県中部に位置する日本百名山の一つで、標高1700mの火山性の山として知られています。磐梯朝日国立公園に属する火山群の一つで比較的勾配がなだらかな稜線と荒々しい火口地形(通称:爆裂火口)をあわせ持つ景観が特徴の山です。
もう1つの特徴としては詩人の高村光太郎の妻・智恵子への思いを綴った詩集『智恵子抄』に登場する「ほんとの空」の舞台として知られています。
詩の中では、「阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ」と書かれており、安達太良山は東京での生活に疲れた智恵子にとって心の原風景として表現されています。
その背景を知ったうえで見る冬の空は非常に印象深かったです。
実際に山頂から見上げた空は、冬季で空気中の水分や霞が少ないこともあり、非常に透明感がありました。深い青色の空がどこまでも広がり、街中では見ることのできない澄み切った空気を感じることができ、「ほんとの空」という表現が自然と理解できるような景色であり、冬山ならではの魅力をさらに感じた瞬間でした。
二方向から見た安達太良山山頂
樹林帯から見た常念岳山頂
もう少し進むと森林限界を超えて岩と背の低いハイマツのみになる
私はまだ一昨年くらいから登山を始めたばかりですが、登山や冬山を通して面白いと思った「森林限界」と「レイヤリング」という2つのキーワードについてお伝えしようと思います。
森林限界とは、標高が高くなることで気温や風雪環境が厳しくなり、背の高い樹木が生育できなくなる境界のことです。これより上では森林が消え、背の低いハイマツや草原、岩場が広がる高山環境になります。
森林限界ができる主な理由は、標高が上がるほど気温が低下するためです。一般的に気温は標高100m上がるごとに約0.6℃下がるとされ、樹木が成長に必要な温度を確保できなくなると、大きな木は育てなくなります。また、強風、積雪、土壌の薄さ、乾燥なども樹木の成長を妨げるため、日本でも緯度や地域によって森林限界の高さが異なり、北海道では1500m前後、北アルプスなどの中部山岳では2500m付近が森林限界となります。
夏に山を登っているときは、森林限界を越える事を目標に登っていき、その先に広がる絶景は登りの疲れを吹き飛ばしてくれます。しかし、冬山になると森林限界を越えると遮るものがなくなり、天気によっては強風にさらされることになります。もちろん冬でも森林限界を超えたところに絶景が広がっているのですが、天気や風などをしっかりと確認する必要があります。そして、その対策が2つ目のキーワードに繋がっていきます。
2つ目のキーワードはレイヤリング(重ね着)です。
山では標高が上がるにつれて気温が低下し、さらに風速が風速1m/s増えるごとに体感温度は約1℃下がると言われており、風によっても体温が急速に奪われます。特に冬山では、汗で濡れた衣服が冷えることで熱が失われやすく、疲労やエネルギー不足によって体内で熱を作れなくなることで、深部体温が35℃未満になると低体温症と呼ばれる状態になり、登山では命に関わる重大な遭難原因の一つです。
そこで役に立つのがレイヤリングです。
レイヤリングとは、単に厚着をするのではなく、それぞれ役割の異なる衣服を組み合わせることで、汗や風、寒さに対応しやすくする考え方です
基本的にはベース、ミドル、アウターの3種類のウェアでで構成されています。
最も肌に近い「ベースレイヤー」は、汗を吸収して素早く拡散・乾燥させる役割を持ちます。登山中は行動によって大量の汗をかくため、汗が肌に残ると休憩時や強風下で急激に体温が奪われます。そのため、綿素材ではなく、速乾性の高い化学繊維やメリノウールが多く使用されます。日常で使われる ヒートテック は保温性がありますが、発汗量の多い冬山では湿気を含みやすく、乾きにくくなるため、汗冷えして体温低下の原因になってしまいます。
その上に着る「ミドルレイヤー」は保温と汗の拡散を担う層です。フリースや化繊インサレーション、ダウンなどを用いて、体の熱を逃がさない空気の層を作りながらかいた汗の水分を拡散するように透湿性の素材が好ましいです。また、汗をかかないように気温や運動量に応じて脱ぎ着しながら調整することも重要になります。
さらに外側には「アウターレイヤー」を着用します。これは雨、雪、風を防ぐ役割を持ち、悪天時や冬山では特に重要です。森林限界を超えた稜線では強風によって体感温度が大きく低下するため、防風性・防水性を持つハードシェルが低体温症予防に直結します。
天候の悪い日や冬季の登山では寒さ対策のためヒートテックなどの温かい服をしっかり着込んでいく事をイメージされるかもしれませんが、環境が変わりやすく、風も強い山ではそれはあまり良い選択とは言えません。実際に私も−5℃程度の気温でも登り樹林帯を歩く登りの際は長袖のベースレイヤー1枚で登ることがほとんどです。
最後に
冬山では、夏山以上に装備や知識、天候判断が求められる環境です。その一方で、森林限界を超えた先に広がる雪景色、澄み切った空、静寂、星空、そして日の出など、冬山でしか味わうことのできない魅力が数多く存在していました。厳しい自然環境と向き合うことで、景色の美しさだけではなく、自然そのものへの敬意や、人の温かさのありがたみを強く感じられる良い経験となりました。
登山をする際は、自分の現状の体力や技術を知り、山の難易度、天気、撤退の基準などを事前に調べて計画を立てて、実際に登りながらポイントごとに判断して計画を修正してゴールを目指す。その目標は毎回山頂というわけではなく、その過程の中でその季節にしか見られない生物や自然の美しさを楽しむのが山の魅力であり、人生や日常の中にも似た部分があるのかなと感じています。
これからもアウトドアを通じて心身共に日常が豊かになるように色々な山を歩きたいと思います。
2025年、山に魅せられて(松井 2026年1月)
2025年も終わり,2026年が始まったと思ったら,1月がもう半分終わろうとしている状況に時間の流れの速さを感じます.
さて,2025年に僕は山登りによく行っておりました.
2024年に医員の先輩,同期と富士山に登頂してから,登山の楽しさを知り,2025年はいくつかの山を登りましたので,今回はそれらを紹介したいと思います.
富士山頂周りをまわるお鉢まわりの様子
6時間歩いた後のビールとカレーは格別です
場所は長野県松本市安曇にあるカール(氷河によって時間をかけて岩盤が削られてできた地形),涸沢カールを目指して友人と登山しました.有数の紅葉で有名な場所で,10月の紅葉シーズンには富士山並みの登山者の行列ができるほどです.
上高地自体は比較的アクセスがよく,新宿からの高速バスがあるほどです.(僕たちは松本駅まで特急,レンタカーで上高地周辺駐車場にアクセスしました.) 標高1500mに位置し,夏でも25℃ほどでとても過ごしやすい気候で,ちょっとしたプチ旅行や自然散歩,キャンプで来ている人が多くいました.
上高地から涸沢ヒュッテ(山小屋)まで約6時間のコースタイム.また前半3時間はほぼ平坦なコース.山登りを始めたてのビギナーには少しきつい部分もありましたが,小屋についてのビールとカレーは格別においしかったことは覚えています(笑)
3000m級に囲まれた広大な自然に圧倒されました.小屋は2310m,ここから約700m上昇,コースタイムとしては+約5時間必要となります.今のレベルでは圧倒的に経験と体力不足でしたが,一つの目標を見つけた気もしました.
幻想的な大自然
涸沢カールを一望
山頂付近から五色沼と友人と断崖絶壁
後述する初縦走(山から山へ尾根を歩くこと)を見据えて,友人と体力づくりを兼ねて登りました.場所は栃木県日光市と群馬県利根群との県境にある標高2578mの山です.観光地として有名な日光,中禅寺湖や展望台として一度は聞いたことのある戦場ヶ原などが近くにあります.
ロープウェイがあるため,スタート時点で2000m近くあり,約2時間程度で山頂まで到着できます.今回の登山では山ご飯にチャレンジするという目的もあり,休憩中にコーヒーを淹れたり,カレーメシを作ったり,ラーメンを作ったり...個人的にはコーヒーの美味しさに気づいた登山となりました.
五色沼にてコーヒーとカレーメシで休憩
3.三俣サーキット(三俣登山口-前常念岳-常念岳-蝶槍-蝶ヶ岳-三俣登山口)
初縦走は常念岳から蝶槍,蝶ヶ岳.場所は長野県松本市と安曇市境にある北アルプスの山で,標高は2600mから2800mからなります.三俣サーキットと呼ばれる所以はスタートとゴールが同じ登山口でぐるっと回れるコースだからだそうです.
コースとしては今までで一番きつく,かなりへこたれましたが,森林限界を超えたところでひらけた絶景がなければあきらめていたと思います.また一つ苦しかったのが,山頂に登り切った後,次の日に山頂へ登り返さなくてはいけないという心のダメージが思った以上に効き,小屋に到着するや否や1時間ほど動けませんでした…
山頂で日の出を見るため早朝に出発,雲海の中の日の出と遠くに見える幻想的な富士山を見ながらのコーヒーと朝ごはんは格別でした.そして待ちに待った稜線歩き,友人たちと辛かったらあきらめてそのまま下山しようと言っていましたが,山頂ご飯後には元気になり,常念岳-蝶槍-蝶ヶ岳の稜線歩きを楽しみました.天候にも恵まれ,きれいに燕岳や槍ヶ岳が見えました.
紅葉が始まっている北アルプス
常念岳 ここからが長かった…
真ん中に薄―く見える富士山
槍ヶ岳を望む友人たち
〇最後に
初心者であり登山には危険が伴うこともあり,2025年はすべて複数人での登山でした.というか全部誘われていきました….いつかは一人で行けるように装備品や計画,体力作りなど準備に必要なことが多くありますが,それを超えたからこそある感動や景色があると思います.
怪我や事故に気を付けて,2026年も山に登ろうと思います.
灼熱の大阪、涼風の富士山麓 - 二つの顔を持つ夏(中根 2025年10月)
皆さま,こんにちは.入局3年目の中根と申します.私は日々義歯科にて診療に励ませていただいて奮闘しております.
今年の夏は例年以上の記録的な猛暑となり,連日の暑さに悩まされた方も多かったのではないでしょうか.
すっかり秋らしくなってきて過ごしやすくなっているのではないかと想像しますが,皆さまいかがお過ごしでしょうか.
今回の医局員便りとしましては、暑い(熱い)ながらも、涼しさ(冷たさ)も混在した私が訪れた場所や体験した出来事についてご紹介させていただきます.
ミャクミャクカラーの通天閣
この夏,「食い倒れの街」大阪に行ってきました.
メインは大阪万博(expo2025)に行くことだったのですが,三連休の中日にあたる日程であったため,会場は多くの来場者で大いに賑わっており,パビリオンの抽選は全て落ちてしまっていたため、国内外の熱気に包まれた空間の雰囲気のみ味わってきました.
偶然にも,当分野の村上先生も同日にご来場されていたと後に伺いましたが,残念ながらその場ではお会いできませんでした.
実際に私が食べた,食い倒れてしまうほどの数々の美食をご紹介いたします.
新世界にある人気串カツ店にて,揚げたての串カツをいただきました.当分野先輩からソースを2度付けしないようにキャベツでソースを掬うという知識は学んでいたので,しっかりと美味しい串カツを堪能できました.
新世界の通天閣は夜になるとミャクミャクカラーの照明に彩られ,2025年にしか見ることのできない限定的な景色が見れたこともいい体験となりました.
上:現在のグリコサインは6代目
左:「美津の」のモダン焼き 右:「八重勝」の牛ヘレ
道頓堀では,大阪の代名詞であるお好み焼きをいただきました.外カリッ,中ふんわりの生地に,特製ソースが絶妙に絡み合い,大変熱々でした.
鶴橋駅周辺には無数の焼肉店が立ち並びコリアンタウンとして賑わいます,鶴橋駅に到着するや否や,焼肉の香ばしい香りが漂ってきて,気づけば焼肉屋に吸い込まれていました.
大阪の持つ熱気と熱々の食べものの魅力を存分に味わえた,充実した旅となりました.
鶴橋駅前の様子
◆ 富士山の湧水と自然に癒される 三島・源平川
静岡県東部にあります、三島市をご紹介いたします.
三島市は富士山南麓に位置し、「水の都」と呼ばれるほど、富士山の伏流水や湧水がいたるところにあり、清らかな水辺風景が見られます。また三島市は、美食の街として知られています。
富士山の湧水が流れ込む、源平川周辺では、天然水を使ったうなぎの養殖が行われており、特に地元の老舗の鰻屋は高い評価を得ています。
源平川は,川底まで見えるほどの透明度の川の中に、飛び石や木道が整備されており,まるで水面の上を歩いているかのような感覚を楽しむことができます.源平川の水温は年間を通して15度程度となっており、川沿いは真夏でありながら非常に涼しく散策することができます.
川沿いには豊かな自然が広がっており,春は桜,初夏にはホタルの光,夏は水遊び,秋は紅葉と,四季折々の風情を楽しむことができる癒しの空間となっています
「まるでジブリ映画の一場面のようだ」と評されるのも頷ける,美しい景観でした.
源平川の風景
桜家の鰻
最後にご紹介しますのは,山中湖畔にあるサウナ施設「CYCL」です.
この施設はサウナ界のミシュランに相当する,サウナシュラン2024を受賞しており、富士山の「笠雲」をモチーフとした屋根が特徴的です.
サウナ室は赤を基調とした「マグマ」をイメージしたデザインで,フィンランドHARVIA社製のストーブが使用されています.
自らサウナストーンに水をかけ、体感温度を上昇させる、セルフロウリュも可能です.
サウナ室温は80~85度と心地よく,光や風,湿度まで緻密に計算されており,五感を通じてリラックスできる空間でした.
水風呂には富士山の天然地下水が掛け流しで使用されており,深さは120cmとたっぷりした設計で,全身をゆったりと沈めることができます.
水質は非常に柔らかく、水風呂に使われる水はそのまま飲用できます.
外気浴スペースでは,富士山を眺めながらリクライニングチェアでのんびりと過ごすことができ,日常の喧騒を忘れて心身をリセットできる貴重なひとときとなりました.
日本のサウナでは珍しく,サウナ室内での会話が許されているため,サウナを通じた交流の文化を垣間見ることができたのも印象的でした.
サウナ後はガラス張りの展望ラウンジで整います.富士山と山中湖の景色を一望でき,自然との一体感を味わえる設計となっておりました.
CYCLの外観
休憩スペースからの眺望
※編集者より
本エッセイでは「食い倒れた関西万博旅」が語られていますが、なぜか万博の写真が一枚もなく…(笑)。
そこで、同日に現地を満喫していた編集者が、勝手ながら“おせっかい”で万博の様子を少しだけ添えてみました。
雰囲気だけでもお楽しみいただければ幸いです!
~サン・パウ モダニズム地区訪問記~ (谷本深雪 2025.7月)
2025年6月25日から28日にかけて,スペイン・バルセロナにて開催された国際歯科研究学会(International Association for Dental Research, IADR)に参加いたしました.
IADRは歯科医学分野における世界最大規模の国際学術団体であり,今回の学会には各国から多くの歯科系研究者が集い,活発な発表と議論が行われました.世界各地の研究者による最新の研究成果を間近で見ることができ,刺激にあふれた大変貴重な経験となりました.
学会の合間に,バルセロナ市内の世界遺産の一つである サン・パウ モダニズム区域(Recinte Modernista de Sant Pau)を見学する機会がありました.
この施設は1902年から2009年まで実際に稼働していた サンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院(以下,サン・パウ病院)を中心に構成されています.
設計を手がけたのは,カタルーニャ音楽堂の建築でも知られる リュイス・ドメネク・イ・ムンタネーです.
サン・パウ病院の外観
この施設は1997年にユネスコ世界遺産に登録され,「世界で最も美しい病院」と称されることもあります.
自然豊かな中庭と美しい病棟
また,入院病棟の壁や天井には色とりどりのタイル装飾が施され,光が差し込む設計も相まって,患者の視点に立った心地よい空間となっていました.入院中に白く無機質な天井を見上げるよりも,美しいタイルの模様に癒やされる空間は,心に安らぎを与えてくれるに違いありません.
分館内部の様子 当時の病棟を再現したエリア
さらに,経営陣が使用していた管理事務棟は,ひときわ華やかな装飾が施されており,モデルニスモ様式の魅力を象徴するような建築として強く印象に残りました.
(以下,管理事務棟の写真)
左:経営者執務室,中央:タイル装飾とステンドグラスが美しい廊下,右:ドメネク・イ・ムンタネルの間
今回の滞在中には,サグラダ・ファミリアやグエル公園など,ガウディ建築をはじめとするバルセロナの文化遺産にも触れることができました.異国の歴史や芸術にふれることで,感性が刺激され,視野がいっそう広がったように感じます.今後もこうした機会を大切にしながら,人間性や創造力を豊かに育み,日々の臨床や研究に活かしていきたいと思います.
大学院生活での英語 (毛利有紀 2025.2月)
こんにちは.大学院2年の毛利です.
先日,大学院の後期入試が行われました.受験された皆さん,本当にお疲れ様でした.
大学院の入試では,英語能力試験(TOEFL ITP),小論文,面接の3つで評価されます.そのため,一番点数が伸ばしやすいかつ時間がかかる英語の対策から始める方が多いかと思います.私が大学院入試に向けて英語を勉強していたときは,正直大学院生がどのような学生生活を送るのか想像できなかったというのもありますが(実際所属分野や研究テーマによって様々なので一概には言えない),英語の試験は時代の潮流として課されているに過ぎないと思っていました.
しかし,大学院に入学して2年が経とうとしている今,これまでの生活を振り返ってみると様々な場面で英語を使ってきました.そして大学院に入る前に英語学習に取り組み,入試でその能力を問う意味を実感しています.
今回の医局員便りでは,大学院生活のどのような場面で英語を使うのかについて紹介します.分野によっても状況は違うと思いますので,あくまで生体補綴歯科学分野の一大学院生である私の観点から考えてみます.
1.大学院講義
学部生の頃,覚えている限り1回は英語で講義を受講したことがあるのですが,大学院では英語で講義を受ける場面が格段に増えます.必修科目や選択科目の講義が英語で行われることがあります.レポート課題がある場合,日本語で書く場合と英語の場合両方あります.どの科目を受講するかにもよりますが,当時の必修科目では英語を話すことが求められることはありませんでしたが,今後はそういった講義も出てくるかもしれません.
また,本学では大学院特別講義と呼ばれる,他の分野の学生でも自由に受講することができる講義が不定期で開催されるのですが,海外から講師を招いて行われることがあります.その他,過去に行われた講義をe-ラーニング教材として視聴する機会があったのですが,中には英語の教材もありました.
2.分野内勉強会
当分野では新人向けの勉強会や症例検討会を定期的に行っており,論文や書籍を読んで学んだ内容を共有する機会があります.日本語の文献を読むことも勿論ありますが,歯科補綴学の名著を原文で読んだり,自分の興味のあるトピックについて書かれた論文を読んだりします.
3.当分野の留学生との交流
研究グループ(教員の先生一人につき指導を受ける大学院生は複数人います)内に留学生がいればよりコミュニケーションをとる機会が多くなります.また,留学生の中には外来でアシスタント業務に従事している方もいるので,外来でも英語を話す機会があります.当分野は義歯科あるいは顎顔面補綴外来で診療しますが,私が診療している顎顔面補綴外来では,留学生と外来で診察した患者さんの治療方針について話し合ったり,顎顔面補綴学について一緒に学んだりしているので,日常的に英語を話す機会があります.
4.海外からの見学者の対応
当院には海外からの見学者が大勢いらっしゃいます.当分野(義歯科・顎顔面補綴外来)で行っている診療内容や設備,日本の医療システムなどについて説明します.場合によっては自分の研究内容を紹介することもあります.頻度はコロナ禍が落ち着いて以降増えていると思われますが,私が入学してからの2年間で10回近くあり.大学院生で分担して対応しています.
5.論文執筆
学位を取得するためには,大まかに①筆頭著者で論文を執筆し,掲載される②研究発表について学会で発表する③学位審査に合格する の3ステップがありますが,このうち①の論文執筆は英語で行う必要があります.論文執筆においては,その研究分野でこれまでに分かっていることを理解し,実験結果から導き出される考察や結論に説得力を持たせるために他の論文を引用する必要があります.
情報収集で論文や書籍を読むとき,翻訳ソフトを使うこともあるのですが,日本語訳がイマイチなときは原文を読んだ方がむしろわかりやすいことがあります.例えば,咬合調整は英語でequilibrationと表現されることがありますが,一般的な英訳は「平衡」や「釣り合い」であるため,そのたった1単語のために意味の通じない日本語訳ができてしまうことがあります.普段から英語の文章も目を通して,専門用語が英語でどのように表現されているのかを知っておくことが大事だと個人的には思っています.
このように,論文執筆には英語を読み書きする力が求められます.
6.学会発表
研究した内容は学会でポスターもしくは口演形式で発表します.国内で行われる学会に参加して日本語で発表するだけでなく,国際学会が日本で開催される場合は英語で発表する機会があります.海外で行われる国際学会で発表することもあります.
7.研究
私はフィンランドのTurku大学の研究施設であるTurku Clinical Biomaterials Centre (TCBC)との共同研究で,3Dプリンティング材料の強度に関する研究を行っています.そして先日,学会での情報収集と実験を行うためフィンランドへ行ってまいりました.TCBCでのボスとのやり取りはすべて英語のため,英語の4技能がすべて鍛えられます.私は読み書きの方が得意なので文章を通じたコミュニケーションはまだ何とかなるのですが,研究などの発展的な内容を聞いて話すことは段違いに難しいです.指導してくださる和田先生によるフルサポートのもと,日々苦戦しながら取り組んでいます.
フィンランドの公園での一枚.この日は雪が降っていて気温は-6℃でした.
いかがでしたでしょうか.全員がすべての項目を経験するわけではありませんが,おそらく2-3個は該当する大学院生が多いのではないかと思います.
私は大学院入学後も細々と英語学習を続けてきましたが,それは英語が好きだからというより,必要に迫られてというところが大きいです(笑).英語能力試験で一定のスコアがあると,海外留学のための奨学金に応募する助けにもなりますし,海外留学と言わず大学院生対象の奨学金でもアピールポイントの一つになります.また,留学生と話すときの“言いたいことを必要十分に伝えられない”もどかしい気持ちが,もっと聞いて話すことができるようになりたいと思う原動力になっています.
英語を勉強してきたことで,得られた経験もたくさんあります.例えば,昨年7月に行った学会発表では,偶然補綴学会とAAPが共催となり,補綴学会員であればAAP会員でなくても発表することができるというシステムでした.英語も勉強しているし,日本にいながら国際学会での発表を経験できる良い機会だったため,英語で発表することにしました.自分が勉強した言語で表現したことを,それが100%でなくとも,日本語話者でない相手に伝わるって不思議な感覚でうれしいです.
現在行っているTCBCとの共同研究も,英語を学んでこなければ得られなかった経験だと思っています.貴重な機会を与えてくださった先生方,本当にありがとうございます.
結局のところ,私がお伝えしたいのは,大学院入試を受けた方も,これから受けるという方も,試験のために勉強した英語は決して無駄にはなりません!むしろとても役に立ちます!!ということです.この文章を読んで「こんなに英語使うのか…(絶望)」と,逆にモチベーションを下げてしまったら申し訳ないのですが(笑),ぜひポジティブにとらえてもらえるとうれしいです.皆さんと一緒に学べることを心待ちにしております!

