プレスリリース

骨髄不全と免疫不全に関わるRAD50の異常を発見【金兼弘和 寄附講座教授】

公開日:2023.10.6
骨髄不全と免疫不全に関わるRAD50の異常を発見
― 新奇先天性免疫不全症としてRAD50欠損症を提唱 ―

ポイント

  • 長らく謎であった骨髄不全と免疫不全を伴う疾患の原因が、RAD50の異常によることをつきとめました。
  • 新奇先天性免疫不全症としてRAD50欠損症を提唱しました。
  • ヒト骨髄および免疫細胞におけるRAD50の重要性が再認識されました。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県小児・周産期地域医療学講座の髙木正稔寄附講座教授、小児地域成育医療学講座の星野顕宏寄附講座講師と金兼弘和寄附講座教授、発生発達病態学分野の森尾友宏教授の研究グループと、ドイツのHannover医科大学のKristine Bousset、Thilo Dörkらのグループは、国際医療福祉大学、近畿大学、国立がん研究センター、京都大学、名古屋大学との共同研究で、骨髄不全と免疫不全を伴う疾患の原因が、RAD50の異常によることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金(難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業)ならびにClaudia von Schilling Foundation for Breast Cancer Researchの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunology(ジャーナル・オブ・クリニカル・イムノロジー)に、2023年10月5日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 RE11-RAD50-NBN(MRN)複合体※1は、DNA二本鎖切断の認識とシグナル伝達に重要や役割を果たしています。NBNとMRE11の異常はそれぞれヒトにおいて常染色体潜性遺伝形式をとるNijmegen染色体不安定症候群(NBS)※2と毛細血管拡張性運動失調症様疾患(ATLD)※3の原因としてすでに知られていますが、RAD50の異常はこれまで世界でも3例しか知られておらず、臨床的ならびに血液免疫学的にどのような意義を有するかは、十分にわかっていませんでした。新たに同定された骨髄不全と免疫不全を伴うRAD50欠損症の臨床的・血液免疫学特徴を明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

 小頭症、精神発達遅滞、鳥様顔貌、低身長、骨髄不全、B細胞性免疫不全症を有する女児について、全エクソーム解析※4を行ったところ、RAD50遺伝子にこれまでに報告がない2つのバリアントが同定されました。患者由来細胞の細胞生物学的な表現型を解析したところ、RAD50タンパク質の発現とMRN複合体の形成は認められましたが、DNA損傷によるATMキナーゼの活性化は著しく低下していました。しかし、患者由来細胞株は、ATMキナーゼの活性化が低下しているにも関わらず放射線感受性は明らかではありませんでした。また、野生型のRAD50を患者由来細胞に導入することで、細胞生物学的な異常の回復を確認しました。

研究成果の意義

 MRN複合体のひとつであるRAD50はヒトの骨髄細胞と免疫細胞において重要な働きを果たしていることが明らかとなり、RAD50の異常によって毛細血管拡張性運動失調症(AT)※5、NBS、ATLDと同様に先天性免疫異常症を発症することが明らかとなりました(表1)。

用語解説

※1 MRE11-RAD50-NBN(MRN)複合体
MRN複合体は、MRE11、RAD50、NBNから構成されるタンパク質複合体である。真核生物では、MRN複合体は相同組換えや非相同末端結合による修復過程に先立って行われる、DNA二本鎖切断修復の開始段階に重要な役割を果たす。

※2 Nijmegen染色体不安定症候群(NBS)
染色体不安定性を基盤とした特徴的な身体所見と放射線感受性を呈する先天性免疫異常症であり、悪性腫瘍合併率が多い。

※3毛細血管拡張性運動失調症様疾患(ATLD)
毛細血管拡張性運動失調症様疾患(ATLD)はATM遺伝子異常による毛細血管拡張性運動失調症の類縁疾患であり、MRE11遺伝子異常を伴い、常染色体潜性遺伝形式をとる。

※4全エクソーム解析
ゲノムのエクソンと呼ばれるタンパク質翻訳領域だけを対象にシーケンスを行う技術である。エクソンは、ヒトゲノム全体の約1-2%を占めているに過ぎませんが、遺伝子疾患の原因となる変異の多くがこの領域に存在することが知られています。そのため、コストや解析時間を削減しつつ、遺伝子疾患の原因解明に重要な情報を提供できます。

※5毛細血管拡張性運動失調症(AT)
DNA修復機構の異常により生じる神経系、免疫系などの多系統の障害を呈する常染色体潜性遺伝の疾患である。

論文情報

掲載誌:Journal of Clinical Immunology

論文タイトル: Bone marrow failure and immunodeficiency associated with human RAD50 variants

DOI:https://doi.org/10.1007/s10875-023-01591-8

研究者プロフィール

髙木 正稔 (タカギ マサトシ) Masatoshi Takagi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
茨城県小児・周産期地域医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
血液・悪性腫瘍、ゲノム解析

星野 顕宏 (ホシノ アキヒロ) Akihiro Hoshino
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座講師
・研究領域
先天性免疫異常症
金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ) Hirokazu Kanegane
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
先天性免疫異常症


 
森尾 友宏 (モリオ トモヒロ) Tomohiro Morio
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 教授
・研究領域
先天性免疫異常症、再生医療

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 金兼 弘和(カネガネ ヒロカズ)
 E-mail:hkanegane.ped[at]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[at]tmd.ac.jp

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関連リンク

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