プレスリリース

「 X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に対する造血細胞移植の国際調査結果 」【金兼弘和 寄附講座教授】

公開日:2023.7.24
X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に対する造血細胞移植の国際調査結果
造血細胞移植がXLAの代替的な根治治療となりうる

ポイント

  • X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)は先天性免疫異常症であり、造血細胞移植によって根治しうることを国際共同研究で明らかにしました。
  • XLA患者は生涯にわたる免疫グロブリン補充療法を必要としますが、造血細胞移植を受けた多くのXLAの症例はこの補充療法を行う必要がなくなることが分かりました。
  • この成果は、免疫グロブリン補充療法のみでは重篤な合併症を抑えることができないXLA患者の代替的な根治治療として、造血細胞移植の安全性と有効性を示しています。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 小児地域成育医療学講座の金兼弘和教授と発生発達病態学分野の森尾友宏教授、および同分野の西村聡助教の研究グループは、英国Newcastle大学のAndrew Gennery教授を始めとするアジア・欧州・米国の諸施設との共同研究で、X連鎖無ガンマグロブリン血症に対する造血細胞移植の国際調査結果を発表し、免疫グロブリン補充療法のみでは重篤な合併症を抑えることができない患者に対する代替的な根治治療として造血細胞移植の安全性と有効性を示しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに各国の研究助成金の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunology(ジャーナルオブクリニカルイムノロジー)に、2023年7月16日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)※1は、先天性免疫異常症のひとつであり、抗体産生不全※2によって頻回に感染症にかかる病気です。このため、XLA患者は生涯にわたって抗体の成分である免疫グロブリン補充療法(IgRT)を必要とします。また、IgRTを行っていても重篤な感染症などの合併症にかかることがあります。この重篤な合併症にかかる場合には同種造血細胞移植(HCT)の適応となりえます。これまでXLAにおけるHCT経験は症例報告に留まり、その詳細は明らかではありませんでした。

研究成果の概要

 本研究では、日本だけでなく、アジア・欧州・米国の13施設との共同研究によってXLA患者でHCTを受けた患者の特徴、移植方法や移植成績を解析しました。
 本研究では、HCTを受けたXLA 22症例を解析しました。HCTが必要と判断された理由は、16例が再発または生命を脅かす感染症、3例が悪性腫瘍、3例がその他の要因でした。ドナーの細胞が生着※3するために必要な前処置には、骨髄破壊的前処置(MAC)、毒性減弱骨髄破壊的前処置(RT-MAC)、強度減弱前処置(RIC)がそれぞれ4例、10例、8例で選択されました。
 ドナー細胞の安定した生着は21例(95%)で達成されました。2年間の全生存率(OS)※4は86%、無イベント生存率(EFS)※5は77%でした。欧州免疫不全症/欧州血液骨髄移植学会がガイドラインで推奨しているトレオスルファン、ブスルファン、またはメルファランを用いたRT-MACまたはRICを受けた症例では、2年OSは82%、EFSは71%でした。最終的に、XLA 21例(95%)が完全または安定した高レベル混合キメラ※6(50-95%)を獲得し、1年間でのIgRT中止率は89%でした。
 IgRTがXLAに対する標準治療であるという基本方針に変わりはありませんが、以上の結果からHCTはXLA患者に対する安全かつ有効な代替根治療法であることが示されました。

研究成果の意義

 国際的にXLAにおけるまとまった移植経験が公表されていなかったため、XLA患者に移植を実施するタイミングや、実施した際の安全性や有効性は明らかにされていませんでした。本研究によって世界で初めて多数例のXLAの移植経験が報告され、感染症や悪性腫瘍などの要因によって移植を実施する必要がある症例が多いこと、合併症によって臓器障害が起こる前に移植を実施することが望ましいことを明らかにしました。また、ガイドラインに基づいた前処置を用いることによって、有効で安全な移植を実施出来ることをさらに明らかにしました。
 本研究は、合併症によって治療の判断が難しいと考えられている世界中のXLA患者に対して、客観的根拠に基づいた代替的な根治治療の選択肢を提示しました。また、本研究は今後のさらなる移植方法の改変に伴うXLA患者での移植成績の向上や移植後の免疫環境の研究の礎となるものと考えられます。

用語解説

※1X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)
 ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)という遺伝子の異常によって、血液中の抗体を作るB細胞がほとんど消失する先天性免疫異常症のひとつである。
※2抗体産生不全
 特定の異物のタンパク質に結合して異物を生体内から除去するものが抗体である。さまざまな理由からこの抗体を産生することができなくなる病態を指す。
※3生着
 提供されたドナーの細胞が、患者の骨髄内で機能し始めて、造血 (血液細胞を作ること)を始めることを指す。
※4全生存率(OS)
 移植を実施されてから特定の時点で生存している患者の割合を指す。
※5無イベント生存率(EFS)
 イベントとは、研究によって事象が異なるが、本研究では、死亡とドナー細胞が生着しなかった生着不全をイベントと定義した。移植を実施されてから特定の時点で、これらのイベントがなく生存している患者の割合を指す。
※6キメラ
 元の意味は異なる遺伝情報を持つ細胞が混在することである。移植医療においては、ドナーと患者細胞が混在することやその割合を示す。ドナー細胞のキメラ割合が高いほど、ドナー細胞が患者の体内で機能していることを示す。

論文情報

掲載誌Journal of Clinical Immunology

論文タイトル:An international survey of allogeneic hematopoietic cell transplantation for X-linked agammaglobulinemia

DOI:https://doi.org/10.1007/s10875-023-01551-2

研究者プロフィール

金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ) Hirokazu Kanegane
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 教授
・研究領域
免疫不全症
血液・悪性腫瘍
感染症

森尾 友宏 (モリオ トモヒロ) Tomohiro Morio
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 教授
・研究領域
小児血液・腫瘍・免疫
再生医療

西村 聡 (ニシムラ アキラ) Akira Nishimura
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 助教
・研究領域
小児血液・腫瘍
免疫不全症

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 氏名 金兼 弘和(カネガネ ヒロカズ)
E-mail:hkanegane.ped[@]tmd.ac.jp


<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp


※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

関連リンク

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