「 IL10RA欠損症に対する国内治療成績 」【金兼弘和 寄附講座教授】
公開日:2024.9.13
「 IL10RA欠損症に対する国内治療成績 」
― 早期マネジメントの重要性 ―
― 早期マネジメントの重要性 ―
ポイント
- 本邦においてIL10RA欠損症の患者はこれまでに7例同定されており、そのうち5例に造血細胞移植が実施されていました。
- 造血細胞移植は全て2歳以下で実施されており、全例で生存が確認され、パフォーマンスステータスも改善していました。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄附講座教授と発生発達病態学分野の友政弾大学院生の研究グループは、東北大学、成育医療センター、大阪母子医療センター、京都大学、神奈川県立こども医療センター、群馬大学、九州大学との共同研究で、IL10RA欠損症に対する国内治療成績を明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(22K07887)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Journal of Clinical Immunology に、2024年9月12日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
IL10RA欠損症は乳児期早期に炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease. IBD) ※1を引き起こす常染色体潜性遺伝※2の先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI)※3 です。その臨床経過はしばしば致死的で、唯一の根治療法は造血細胞移植 (hematopoietic cell transplantation. HCT)※4です。これまでの本邦からの報告は症例報告に限られており、治療成績の実態については明らかになっておりませんでした。金兼教授らの研究グループは、国内のIL10RA欠損症患者に関する情報を集約し、その臨床的特徴と予後について後方視的研究を実施しました。
研究成果の概要
日本ではこれまでにIL10RA欠損症の患者が7例確認されており、そのうち5例がHCTを実施されていました。HCTを受けていない患者のうち1例は保存療法で生存、もう一例はHCT前にインフルエンザ脳症で亡くなりました。HCTは全例2歳以下で実施されていました。感染症がIL10RA欠損症に対するHCTの死因で最多とされています。1例がカテーテル関連血流感染症、1例がサイトメガロウイルス感染症を合併しましたが、適切なマネジメントにより重症例は認められませんでした。移植片対宿主病 (graft versus host disease. GVHD) ※5もHCTにおける重要な予後不良因子ですが、重症例は認められませんでした。全例生存し、パフォーマンスステータスの改善が得られました
研究成果の意義
海外の報告ではIL10RA欠損症に対するHCT成績は生存率60-70%程度とされています。少数ではあるものの、本邦のHCT成績は特筆すべきものと考えます。HCTなしで長期生存が得られている症例も報告されていますが、寛解を得られることは稀です。合併症によりHCTの機会を逃さないために、早期診断の重要性が示唆されました。
用語解説
※1 炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease) ・・・・・消化管に炎症を起こし、下痢、血便、体重減少などを引き起こす疾患。
※2 常染色体潜性遺伝 ・・・・・常染色体上にある遺伝子にバリアントを一つもつ保因者の両親から、そのバリアントをもつ遺伝子をそれぞれ引き継ぐことで発症する遺伝形式のこと。
※3 先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI) ・・・・・従来原発性免疫不全症と呼ばれていたが、易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併も多くみられることから、疾患概念の変化とともに用語も変更されるようになり、500近くの原因遺伝子が知られている。
※4 造血細胞移植 (hematopoietic cell transplantation. HCT) ・・・・・造血細胞を移植して、患者さんの免疫系をドナー由来のものに置き換える治療法。
※5 移植片対宿主病 (graft versus host disease. GVHD) ・・・・・・移植した細胞が患者さんの体を他人と認識して起こす免疫反応のこと。
※2 常染色体潜性遺伝 ・・・・・常染色体上にある遺伝子にバリアントを一つもつ保因者の両親から、そのバリアントをもつ遺伝子をそれぞれ引き継ぐことで発症する遺伝形式のこと。
※3 先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI) ・・・・・従来原発性免疫不全症と呼ばれていたが、易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併も多くみられることから、疾患概念の変化とともに用語も変更されるようになり、500近くの原因遺伝子が知られている。
※4 造血細胞移植 (hematopoietic cell transplantation. HCT) ・・・・・造血細胞を移植して、患者さんの免疫系をドナー由来のものに置き換える治療法。
※5 移植片対宿主病 (graft versus host disease. GVHD) ・・・・・・移植した細胞が患者さんの体を他人と認識して起こす免疫反応のこと。
論文情報
掲載誌: Journal of Clinical Immunology
論文タイトル: Successful Allogeneic Hematopoietic Cell Transplantation for Patients with IL10RA Deficiency in Japan
DOI: https://doi.org/10.1007/s10875-024-01795-6
論文タイトル: Successful Allogeneic Hematopoietic Cell Transplantation for Patients with IL10RA Deficiency in Japan
DOI: https://doi.org/10.1007/s10875-024-01795-6
研究者プロフィール
金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ) Hirokazu Kanegane
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
先天性免疫異常症
小児感染症
血液・腫瘍学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
先天性免疫異常症
小児感染症
血液・腫瘍学
友政 弾(トモマサ ダン) Tomohiro Udagawa
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
先天性免疫異常症
血液・腫瘍学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
先天性免疫異常症
血液・腫瘍学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ)
E-mail:hkanegane.ped[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。