プレスリリース

「 過敏性肺炎の正確な有病率、罹患率を推計 」【宮﨑泰成 教授、岡本師 准教授】

公開日:2024.8.20
 
「 過敏性肺炎の正確な有病率、罹患率を推計 」
― 日本における線維性および非線維性過敏性肺炎の初の疫学研究 ―

ポイント

  • 日本における線維性および非線維性過敏性肺炎の有病率および罹患率を初めて推計しました。
  • 線維性および非線維性過敏性肺炎は北部に少なく、南西部に多いという地域性を明らかにしました。
  • 非線維性過敏性肺炎は12月に少ないという季節性を認めました。
  • 極めて稀と言われている小児の症例数が判明しました。
  • 本研究結果をもとに今後疫学研究を継続することで、疾患動向の把握が可能となることが期待されます。
  • 疫学調査の二次調査にて症例情報を収集することにより、世界最大のコホートを構築することができ、疾患特性の解明および診療指針の改定を行うことが可能となります。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学の宮﨑泰成教授と東京医科歯科大学病院長寿・健康人生推進センターの岡本師准教授の研究グループは、過敏性肺炎の全国疫学調査一次調査を実施し、日本で初めて線維性過敏性肺炎および非線維性過敏性肺炎の正確な有病率および罹患率を推計しました。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもとでおこなわれたもの(JP22ek0410101)で、その研究成果は、国際科学誌 Allergology International に2024年8月19日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 過敏性肺炎は特定の抗原を反復吸入することにより発症する間質性肺炎です。1991年、1999年、2013年に厚生労働省政策班主導で過敏性肺炎の疫学研究が行われました。しかし、これらはびまん性肺疾患を専門的に診療している特定の施設からの症例を収集したものであり、有病率および罹患率は不明でした。その後約10年間は正確な疫学調査は実施されませんでした。さらに、小児過敏性肺炎の調査報告は世界的にも少数ですが、線維性過敏性肺炎により肺移植を受ける児もいます。日本における小児過敏性肺炎の疫学調査は今までにありません。
 2020年にアメリカ胸部学会より過敏性肺炎のガイドラインが初めて発表され、日本呼吸器学会からも2022年に「過敏性肺炎診療指針」が発刊され、診断が標準化されました。欧米を中心に過敏性肺炎の疫学研究が発表されてきました。そこからは過敏性肺炎の有病率が増加していることが推測されました。宮﨑と岡本の研究グループは、2011年~2017年における過敏性肺炎の入院症例をDPC※1データベースをもとに解析した結果、徐々に増加していることが明らかとなりました。2017年以降も本疾患の認知度が向上し、過敏性肺炎に関連する検査が実施されるようになったこと、診断基準が整備されたことから、さらに有病率が増加していることが考えられます。日本における本疾患の有病率や地域性、さらには季節性が明らかになることは、診断あるいは発症予防に重要であると考えられます。


 

研究成果の概要

 2021年1月1日~12月31日に通院歴を有し、過敏性肺炎診療指針の低確診度以上を対象としました。成人例においては、「難病の患者数と臨床疫学像把握のための全国疫学調査マニュアル第3版」に基づき、抽出率が約20%となるように病床数による層別化を行いランダムに対象医療施設を抽出しました。小児例においては稀であり、診断は主要医療機関のみであると考えられるため、日本小児呼吸器学会員、日本小児アレルギー学会員を対象としました。これら対象医療施設にアンケート調査を実施しました。
 質問項目は、①施設情報、②2021年に受診した線維性過敏性肺炎、非線維性過敏性肺炎の症例数、③2021年に新規診断された線維性過敏性肺炎の症例数、④2021年に新規診断された非線維性過敏性肺炎における発症月別の症例数、⑤二次調査ご協力のお願いの5項目としました。これらをGoogle Formを利用し回答していただきました。
 合計1580施設に調査を実施し、575施設(36%)より回答をいただき、線維性および非線維性過敏性肺炎の有病率、罹患率を下記の表1のように算出しました。診断のより難しい線維性過敏性肺炎のほうが、非線維性過敏性肺炎よりも高いことが明らかとなりました。

表1;過敏性肺炎の有病率と罹患率

図1;気象庁の気候区分に従い10の地域に分けたところ、北海道や北陸地方に少なく、南西部により多いことがわかりました。

図2;非線維性過敏性肺炎は症状を持つことが多いため、発症月を調査したところ、2月や6月に多く、12月に少ないことがわかりました。

 小児例については、127の医療施設より回答を回収し、線維性過敏性肺炎3例と非線維性過敏性肺炎5例が通院中であることが明らかとなりました。

研究成果の意義

 本研究が日本における線維性および非線維性過敏性肺炎の有病率罹患率を推計した最初の疫学研究です。線維性過敏性肺炎は非線維性過敏性肺炎よりも多く認めました(有病率:人口10万人あたり6.3例対人口10万人あたり3.6例)。この疫学データは、日本の過敏性肺炎患者数が欧州(有病率:人口10万人あたり1.9~14.3例、罹患率:人口10万人あたり0.3~3.2例)と同程度であり、アメリカ(有病率:人口10万人あたり1.67~2.71例、発生率:人口10万人あたり1.28~1.94例)よりも多いことを示しています。さらに、過敏性肺炎の地理的分布および季節変動も明らかにしました。過敏性肺炎は小児では非常に稀と考えられていますが、日本における小児過敏性肺炎の症例数も判明しました。
 本疫学調査の結果を足掛かりとして、今後も継続して疫学研究を実施する必要があります。さらには、二次調査として詳細な臨床情報を収集し、本疾患の特徴を明らかにする計画があります。世界で最大の過敏性肺炎コホートが構築されると考えられます。今後の過敏性肺炎の診療に有用となるばかりではなく、診療指針の改定にも役立つデータとして活用されることを期待します。

用語解説

※1 DPC・・・・・平成15年に導入された、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度のこと。

論文情報

掲載誌: Allergology International

論文タイトル: Estimated prevalence and incidence of hypersensitivity pneumonitis in Japan

DOI: https://doi.org/10.1016/j.alit.2024.06.002

 

研究者プロフィール

宮﨑 泰成 (ミヤザキ ヤスナリ)Miyazaki Yasunari
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
統合呼吸器病学分野 教授
・研究領域
間質性肺炎、過敏性肺炎
 

岡本 師 (オカモト ツカサ) Okamoto Tsukasa
東京医科歯科大学 長寿・健康人生推進センター
准教授
・研究領域
間質性肺炎、過敏性肺炎、MUC5B、III型アレルギー
 

問い合わせ先

<研究に関すること>東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
統合呼吸器病学分野 宮﨑泰成(ミヤザキ ヤスナリ)
E-mail:miyazaki.pilm[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp


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