「 X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)における腎炎の合併 」【金兼弘和 寄附講座教授】
公開日:2024.8.8
「 X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)における腎炎の合併 」
― XLAの免疫学的病態と腎炎の病理組織学的所見の関連 ―
― XLAの免疫学的病態と腎炎の病理組織学的所見の関連 ―
ポイント
- X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)※1において腎炎合併はまれですが、今回腎炎を合併したXLAの9例を解析しました。
- 免疫グロブリン※2産生能がわずかに残存するXLAでは糸球体腎炎を合併し、免疫グロブリン産生能を認めないXLAでは尿細管間質性腎炎を合併することを今回の研究で明らかにしました。
- XLAの免疫学的病態と腎炎の病理組織学的所見に関連があることを世界で始めて明らかにしました。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄付講座教授と発生発達病態学分野の金森透大学院生、宇田川智宏非常勤講師(武蔵野赤十字病院小児科副部長)らの研究グループは、九州大学、近畿大学、大分大学、獨協大学、Kaohsiung Medical University、University of Alabama、University of Washingtonとの共同研究で、X連鎖無ガンマグロブリン血症の患者が腎炎を合併すること、患者の免疫学的病態と腎炎の病理組織学的所見に関連がある可能性があることを始めて明らかにしました。これにより本疾患における腎炎発症の早期発見のため定期的な尿検査が推奨されることを示しました。研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunology (ジャーナル・オブ・クリニカル・イムノロジー)に、2024年7月25日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)は、先天性免疫異常症のひとつであり、免疫グロブリンを産生するB細胞※3の欠損によって頻回に感染症にかかる病気です。このため、生涯にわたる免疫グロブリンの補充療法が必要となりますが、経過中に慢性呼吸器感染症や自己免疫疾患などを合併しうることが知られています。XLAの経過中に腎炎を合併する症例については少数の報告がありますが、その実態は明らかではありませんでした。
研究成果の概要
本研究は、日本・アジア・米国等で、XLAの経過中に腎炎をきたした全9例の症例を収集し、その臨床情報、B細胞数や免疫グロブリンなどの免疫学的情報、腎炎の経過および病理組織学的所見について解析を行いました。その結果、XLAに合併する腎炎は糸球体腎炎※4と尿細管間質性腎炎※5に大別されました。XLAにおける糸球体腎炎はIgA腎症や膜性増殖性糸球体腎炎などの糸球体におけるメサンギウム増殖および免疫複合体の沈着を伴う腎炎でした。これらを発症した患者はXLAとしては非典型的であり、末梢血中にB細胞が1%程度検出され、またわずかながら免疫グロブリンを産生している特徴がみられました。一方、尿細管間質性腎炎では尿細管間質の線維化に加え、間質へのリンパ球浸潤及び免疫グロブリンの沈着をみとめていました。尿細管間質性腎炎を発症した患者はXLAとして典型的な、B細胞の枯渇・免疫グロブリンの産生の枯渇などを呈していました。

研究成果の意義
今までXLAに腎炎を合併した症例のまとまった報告はありませんでした。本研究は初の症例集積研究であり、これによりXLAでは糸球体腎炎または尿細管間質性腎炎を合併しうることが明らかになりました。また今回の研究で糸球体腎炎群のXLA患者では非典型的な免疫グロブリン産生の残存を認めており、これらの免疫学的特徴が糸球体腎炎の発症と関連がある可能性が示唆されました。さらにこれらのXLAに腎炎を発症した患者は多くが自覚症状を持たず、腎炎発症の早期発見のためには定期的な尿検査が推奨されることが示唆され、XLAの患者の診療にも還元される結果が示されました。
用語解説
※1 X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)・・・・・・・ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)という遺伝子の異常によって、血液中の抗体を作るB細胞がほとんど消失する先天性免疫異常症のひとつである。世界で1000例以上の患者が存在し、わが国でも250人以上の患者が存在する。
※2 免疫グロブリン・・・・・・・・細菌やウイルスなどの異物を生体内から除去するための蛋白質である抗体の機能と構造をもつタンパク質のことで、血液中や体液中に存在する。
※3 B細胞・・・・・・・・免疫をつかさどるリンパ球の1種でB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK細胞などがあり、B細胞は細菌やウイルスなどが侵入してくると抗体を作り、排除する働きを持つ。
※4 糸球体腎炎・・・・・・・・腎における糸球体(血液をろ過し尿を作り出す組織)に炎症が生じ蛋白尿や血尿を呈する疾患の総称。病理組織所見からIgA腎症や膜性増殖性腎炎などに分けられる。
※5 尿細管間質性腎炎・・・・・・・・腎における尿細管(尿の濃縮や電解質調整にかかわる組織)およびその周辺組織(間質)に炎症が生じ腎機能障害などを呈する疾患。薬剤や感染症、自己免疫疾患など様々な原因がある。
※2 免疫グロブリン・・・・・・・・細菌やウイルスなどの異物を生体内から除去するための蛋白質である抗体の機能と構造をもつタンパク質のことで、血液中や体液中に存在する。
※3 B細胞・・・・・・・・免疫をつかさどるリンパ球の1種でB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK細胞などがあり、B細胞は細菌やウイルスなどが侵入してくると抗体を作り、排除する働きを持つ。
※4 糸球体腎炎・・・・・・・・腎における糸球体(血液をろ過し尿を作り出す組織)に炎症が生じ蛋白尿や血尿を呈する疾患の総称。病理組織所見からIgA腎症や膜性増殖性腎炎などに分けられる。
※5 尿細管間質性腎炎・・・・・・・・腎における尿細管(尿の濃縮や電解質調整にかかわる組織)およびその周辺組織(間質)に炎症が生じ腎機能障害などを呈する疾患。薬剤や感染症、自己免疫疾患など様々な原因がある。
論文情報
掲載誌: Journal of Clinical Immunology
論文タイトル:Discordant Phenotypes of Nephritis in Patients with X-linked Agammaglobulinemia
DOI: 10.1007/s10875-024-01766-x
論文タイトル:Discordant Phenotypes of Nephritis in Patients with X-linked Agammaglobulinemia
DOI: 10.1007/s10875-024-01766-x
研究者プロフィール

金森 透 (カナモリ トオル) Toru Kanamori
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
小児腎臓病学

宇田川 智宏(ウダガワ トモヒロ) Tomohiro Udagawa
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 非常勤講師
武蔵野赤十字病院 小児科 副部長
・研究領域
小児腎臓病学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 非常勤講師
武蔵野赤十字病院 小児科 副部長
・研究領域
小児腎臓病学

金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ) Hirokazu Kanegane
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
免疫不全症
血液・悪性腫瘍
感染症
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 寄附講座教授
・研究領域
免疫不全症
血液・悪性腫瘍
感染症
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 金兼 弘和 (カネガネ ヒロカズ)
E-mail:hkanegane.ped[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。