「 肝星細胞による炎症機構の解明と肝硬変の治療へとつながる発見 」【柿沼晴 教授、朝比奈靖浩 寄附講座教授】
― 慢性肝炎、肝硬変の治療薬に期待 ―

ポイント
- 肝硬変には現在根治的な治療法はなく、肝硬変の形成に重要な役割を担う肝臓内の肝星細胞※1が、治療の新たな標的として注目されています。
- 肝臓で炎症が持続することで肝星細胞の性質が変化して、肝硬変に寄与することが知られていますがその詳細は解明されていません。本研究では肝星細胞の中でも、特に炎症を進行させる星細胞(炎症性星細胞)について詳細な解析を行いました。
- 研究の結果から、‘A20’という分子が炎症性星細胞への変化を抑制することを同定しました。さらにA20欠損星細胞における解析から、星細胞で炎症を進行させるリン酸化酵素 ‘DCLK1’を同定しました。DCLK1を抑制することで、炎症性因子が改善されました。
- 本研究では、現在は有効な治療薬が乏しい、慢性肝炎から肝硬変への進行を抑止するための治療薬となりうる標的としてDCLK1を同定しました。
研究の背景
肝臓を構成する細胞の一つである肝星細胞は、炎症下で性質を変えて活性化し、線維化を引き起こし、肝硬変に深く関与することが知られています。そこで研究グループはこの肝星細胞※1および様々な炎症における重要な調節因子と考えられているA20(別名:TNFAIP3)に注目しました。肝星細胞におけるA20の機能を研究することで慢性肝炎、肝硬変に対する治療法の発見に繋がるのではないかと考えました。

研究成果の概要
さらに、A20欠損肝星細胞の詳細な解析を行って、肝星細胞からのケモカイン増加を引き起こす分子としてDCLK1が重要であることを発見しました。さらに、DCLK1を阻害することによって、炎症性星細胞におけるケモカイン誘導を抑制しました。これらの結果は、DCLK1を標的とした治療薬が、慢性肝炎で炎症性星細胞が肝硬変に向かって病気を進めてしまうことを阻止できる可能性を示しています。
研究成果の意義
慢性肝炎の新しい治療標的として、肝星細胞の意義を示すことができ、本研究で発見したDCLK1を介したケモカイン誘導を阻害することで、肝硬変になる前段階、慢性肝炎の時期から早期に治療介入を行うことで肝内の炎症を抑制し、肝硬変への進展を抑制できることが期待されます。
現在は治療薬が乏しいタイプの慢性肝炎が肝硬変へ伸展してしまうことを阻止する治療標的としてA20、DCLK1があることがわかり、ともに治療薬の開発が期待されます。
用語解説
論文情報
論文タイトル:A20 in hepatic stellate cells suppresses chronic hepatitis by inhibiting DCLK1–JNK pathway-dependent chemokines
DOI: https://doi.org/10.1096/fj.202400109R
研究者プロフィール
柿沼 晴 (カキヌマ セイ) Kakinuma Sei
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
疾患生理機能解析学分野 教授
・研究領域
肝炎・肝硬変・肝線維化
朝比奈 靖浩 (アサヒナ ヤスヒロ) Asahina Yasuhiro
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
肝臓病態制御学講座 教授
・研究領域
肝炎・肝硬変・肝癌
三好 正人 (ミヨシ マサト) Miyoshi Masato
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野 助教
・研究領域
肝臓疾患・肝再生・肝線維化
渡壁 慶也 (ワタカベ ケイヤ) Watakabe Keiya
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野 大学院生
・研究領域
肝臓疾患・肝線維化
岡本 隆一 (オカモト リュウイチ) Okamoto Ryuichi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野 教授
・研究領域
再生医療
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
疾患生理機能解析学分野 柿沼 晴 (カキヌマ セイ)
E-Mail: skakinuma.gast[@]tmd.ac.jp
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
肝臓病態制御学講座 朝比奈 靖浩 (アサヒナ ヤスヒロ)
E-Mail: asahina.gast[@]tmd.ac.jp
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