プレスリリース

「 がんの骨転移をCT画像から自動で検出するAIモデルの開発 」【佐藤信吾 講師】

公開日:2024.3.15
「 がんの骨転移をCT画像から自動で検出するAIモデルの開発 」

ポイント

  • 「がんの骨転移」の画像診断は専門家であっても難しく、骨転移の見逃しは時に骨折や下肢の麻痺といった重篤な運動機能の低下を引き起こし、がん患者の生活の質を著しく低下させてしまいます。
  • 本研究では、東京医科歯科大学病院の骨転移患者のCT画像データを活用し、独自の深層学習※1アルゴリズム(AIモデル)を開発することで、CT画像から自動で「がんの骨転移」を検出することに成功しました。
  • 開発したAIモデルを医療の現場で活用することで、医師(特に若手医師)の画像診断精度が向上し、骨転移の見逃しが減少することが期待されます。
  • 「がんの骨転移」を早期に発見できれば、早期から適切な治療を開始でき、骨折や下肢の麻痺によって生活の質が低下するがん患者を減らすことができます。
 東京医科歯科大学病院 がん先端治療部・緩和ケア科 佐藤信吾講師、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 整形外科学分野 吉井俊貴教授、画像診断・核医学分野 立石宇貴秀教授らの研究グループは、株式会社NTTデータグループとの共同研究で、CT画像から「がんの骨転移」を自動で検出可能な新たなAIモデルを開発することに成功しました。また、開発したAIモデルが整形外科および放射線科の専門医と同等の検出精度を示し、若手医師の画像診断精度を向上させることも検証しました。本研究成果は、国際科学誌Spineの2024年3月15日発行号に掲載されました。

研究の背景

 超高齢社会を迎えたわが国において、2人に1人が生涯でがんになる時代となっています。一方で、がん治療の進歩に伴い、がん患者の5年生存率は増加傾向にあり、がんと診断されても長期間生存することが可能になっています。このようながん治療の長期化に伴い、骨転移を発症するがん患者数も増え続けています。骨転移は、適切に診断・治療がなされなければ、病的骨折※2や脊髄麻痺※3などの有害事象を引き起こし、時にはがん患者の生活の質(QOL)を著しく低下させてしまいます。
 病的骨折や脊髄麻痺を防ぐためには、骨転移を早期に発見し、早期から適切な治療を開始することが重要です。しかしながら、骨転移の画像診断は整形外科や放射線診断科の専門医であっても難しいことが多く、骨転移の見逃しが病的骨折や脊髄麻痺の発症につながるケースが少なくありません。このような骨転移の見逃しを減らすことができれば、進行期がん患者のQOLの低下を防ぐことができ、また、病的骨折や脊髄麻痺に関連する治療費や介護費を削減することができます。
 そこで本研究では、東京医科歯科大学病院における骨転移患者のCT画像データを活用し、「がんの骨転移」を自動で検出する新たなAIモデルを開発し、その画像診断精度を検証しました。

研究成果の概要

 本研究では、2016年から2022年にかけて東京医科歯科大学病院において撮影された骨転移患者のCT画像データを利用しました。255名のがん患者(骨転移あり)から得られた283の骨転移ありCT画像データ(計5991スライス)と、192名のがん患者(骨転移なし)から得られた192の骨転移なしCT画像データ(計88,799スライス)がAIモデルの学習に使用されました。
 アノテーション※4は複数の整形外科専門医の合意の元に手作業で行われ、アノテーションが付与された骨転移ありCTスライスと骨転移なしCTスライスを教師データとして利用しました。また、学習モデルにはセマンティック・セグメンテーションモデル※5の1つである「DeeplabV3+」を利用しました(図1)。

図1 AIモデルの開発概略図

 開発したAIモデルの感度※6および陽性的中率※7を評価したところ、スライス毎の評価で感度0.78、陽性的中率0.68と、これまでに他施設で開発されたAIモデルと遜色ない結果が得られました(図2)。また、開発したAIモデルの医療現場での有用性を評価するために、12名の読影医(整形外科:専門医3名・若手医師3名、放射線診断科:専門医3名・若手医師3名)による読影試験を実施し、ヒトとAIモデルの読影精度を比較しました。その結果、開発したAIモデルの感度は、専門医の感度に匹敵し、若手医師の感度よりも高いことが明らかになりました。さらに、若手医師にはAIモデルの予測結果を参照しながら2度目の読影試験を実施してもらったところ、AIモデルを用いることで読影精度が上昇することが示されました。

図2 AIモデルによるがんの骨転移の検出

研究成果の意義

 本研究では、東京医科歯科大学病院の骨転移患者のCT画像データを活用し、独自のAIモデルを開発することで、CT画像から自動で「がんの骨転移」を検出することに成功しました。今後、開発したAIモデルの医療現場への実装が実現すれば、医師(特に若手医師)の画像診断精度が向上し、骨転移の見逃しが減少することが期待されます。また、これまで診断や治療開始が遅れてしまうことが少なくなかった「がんの骨転移」を早期に発見し、早期から適切な治療を開始できるようになることで、病的骨折や脊髄麻痺の発症を予防でき、QOLが低下するがん患者を減らすことができます。

用語解説

※1深層学習(ディープラーニング)
人間の脳の神経細胞(ニューロン)の構造と働きを模した「ニューラルネットワーク」を多層に重ねて、複雑なパターン認識や予測を行う技術のこと。画像認識や音声認識など多くの分野で利用されている。

※2病的骨折
通常の外傷や怪我による骨折ではなく、骨の病気が原因で骨が通常よりも脆弱になった結果生じる骨折のこと。がんが骨に転移すると、骨の強度や構造が損なわれ、軽微な外傷でも骨折が起こりやすくなる。

※3脊髄麻痺
脊髄の損傷により運動や感覚などの機能が部分的または完全に失われている状態のこと。脊椎の骨転移病変が大きくなると、脊髄を圧迫し、脊髄の損傷部以下の機能喪失が発生する。麻痺の治療は難しく、一旦麻痺が発生してしまうと、その麻痺は一生続くことになる。

※4アノテーション
教師データ(正解データ)作成の際に、使用するデータ(本研究では画像データ)にタグやラベルを付与する作業のこと。

※5セマンティック・セグメンテーション(領域分類)
画像全体や画像の一部の検出ではなく、画像データをピクセル(画素)単位でタグ付けやカテゴリ分けを行うモデルのこと。

※6感度
この文脈では「実際の骨転移病変のうちAIモデルが検出できた病変の割合」を指す。

※7陽性的中率
この文脈では「AIモデルが検出した病変のうち実際の骨転移病変の割合」を指す。
 

論文情報

掲載誌:Spine

論文タイトル:A New Deep Learning Algorithm for Detecting Spinal Metastases on Computed Tomography Images

DOI:https://doi.org/10.1097/brs.0000000000004889

研究者プロフィール

佐藤 信吾(サトウ シンゴ) Sato Shingo
東京医科歯科大学病院 がん先端治療部 講師
緩和ケア科長、骨転移診療ユニット長
・研究領域
骨代謝、骨転移、骨軟部腫瘍、緩和医療学、
臨床腫瘍学、分子腫瘍学
本橋 正隆(モトハシ マサタカ) Motohashi Masataka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
整形外科学分野 大学院生
・研究領域
骨転移、骨軟部腫瘍
船内 雄生(フナウチ ユウキ) Funauchi Yuki 
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
整形外科学分野 助教 
・研究領域
骨軟部腫瘍、骨転移

 
足立 拓也    (アダチ タクヤ) Adachi Takuya
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
画像診断・核医学分野 助教
・研究領域
軟部画像診断

 
藤岡 友之(フジオカ トモユキ) Fujioka Tomoyuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
先端人工知能医用画像診断学講座 准教授
・研究領域
乳房画像診断、画像ガイド下生検、人工知能

 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学病院 がん先端治療部・緩和ケア科
佐藤 信吾(サトウ シンゴ)
E-mail:satoshin.phy2[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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