プレスリリース

「Doctor to Doctor (D to D)の遠隔集中治療のニーズを解明」 【医学部学生 森本みずきさん、那波伸敏 准教授、山脇正永 教授】

公開日:2023.12.1
「 Doctor to Doctor (D to D)の遠隔集中治療のニーズを解明 」
― 医学科学生の研究室配属実習での研究成果 ―

ポイント

  • 遠隔集中治療※1のニーズを、現場医師の視点に基づいて分析しました。
  • 医師が遠隔集中治療に求めるニーズとしては、治療に関する助言を求めることが最も多く、次いで患者のトリアージと搬送、診断、診断的検査と結果の評価の順であることが明らかになりました。
  • これらの知見は、今後の遠隔集中治療の普及に必要な情報を提供するものになることが期待できます。
  • 本研究は医学科学生の研究室配属(プロジェクト・セメスター)での成果となっています。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野に研究実習配属された医学科第4学年の森本みずきさんと同分野山脇正永教授、及び国際健康推進医学分野の那波伸敏准教授の研究グループは、遠隔集中治療のニーズとして、治療に関する助言が最も多く、次いで患者のトリアージと搬送、診断、診断的検査と結果の評価の順に挙げられることをつきとめました。この研究成果は、医学雑誌BMJ Openに、2023年11月19日(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

プロジェクトセメスターとは
 医学部医学科4年次の6月から11月に、授業の一環で設定されている約6ヶ月間の研究コースです。主な講義や試験、及び基礎実習を終えたのち、興味を持った分野の研究について集中的に学ぶことによって、科学的視点を有する医師としての基盤を養成することを目的としています。
(本学HP:https://www.tmd.ac.jp/international/prospective/66_5e6ec8d0a50c2/

研究の背景

 医師が医師の診療をサポートする急性期向け、遠隔相談サービスとして、遠隔集中治療が注目されています。遠隔集中治療は、米国では約28%の病院が導入しており、致死率の低下や入院期間の短縮などの有効性が明らかになっています。一方、日本で遠隔集中治療を導入している病院はわずかであり、日本での遠隔集中治療の有効性の検討もまだ不十分です。本研究では、今後の日本での遠隔集中治療の普及のために、現場の医師が相談に至った理由や、遠隔相談側に求めたアドバイス内容を質的研究の手法を用いて解析し、医療現場における遠隔集中治療のニーズを明らかにしました。

研究成果の概要

 研究グループは、遠隔集中治療を提供しているT-ICU社(現Vitaars社)によって録音された、集中治療を専門としない現場医師(関西中部地方の5つの二次医療機関、計26人)と相談側医師の電話・ビデオ相談の音声データ(2019/12~2021/4、合計70件、計15時間)に対して逐語記録を行いました。その後、主題分析により相談理由と現場医師が求めたアドバイス内容をコード化し、医療現場における遠隔集中治療のニーズを検討しました。

 相談理由は「治療や対応に関する個人的因子」と「現場医師と他人との関係性因子」の2つのカテゴリーに分けることができました。
 「治療や対応に関する個人的因子」に関しては、当直などで専門外の患者を診療する場合や、患者事情によって対応や治療方針がより複雑化する場合に相談に至るケースが多く認められました。
 「現場医師と他人との関係性因子」からは、相談できる相手が現場にいなかったこと、または相談できる相手が物理的にいても、その相手に相談できないという状況があり、現場医師が遠隔相談に至ったケースが多く認められました。遠隔相談の結果、現場医師はいつでも専門家の医師に相談できることを非常に心強く感じ、安心感を感じているようでした。

 現場医師が相談側医師に求めたアドバイス内容は、治療に関するものが一番多く、その内容は全体的なものから投薬や電解質補正方法など細かい調整が必要なものまで多岐に渡っていました。しかし一方で、治療の中でも「手技」に関する質問は少ないことが分かりました。
また、対応方法(搬送やコンサルトの必要性、入院と外来のどちらで対応すべきか等の対応方法に関するもの)や診断に関する知識を求めるケースも一定数存在していました。対応方法では、高次医療機関への搬送の有無に関する相談、診断では画像読影などに関する相談も多く認められました。

 患者病態とアドバイス内容の関係については、感染症、消化器は診断に関する知識を問うものの占める割合が高い一方、循環や脳神経系、呼吸器などは治療に関する知識・手技の相談、外傷に関しては対応方法を問う相談が多く認められました。
 

研究成果の意義

 集中治療専門医のリソースが限られている医療現場の解決策として、Doctor to Doctor(D to D)の遠隔医療のニーズは高まりつつあります。一方で、医療安全の視点も含め遠隔医療における診療の質を担保してゆくことも喫緊の課題です。本研究を通して、医療現場のニーズを解明し、わが国の遠隔医療及び医療現場の現状と課題を明らかにしました。これらの知見は、今後の遠隔集中治療の普及と質の向上に必要な情報を提供することが期待されます。

用語解説

※1遠隔集中治療
遠隔集中治療は遠隔ICUとも呼ばれ、(以下は日本集中治療医学会 ad hoc 遠隔ICU委員会、遠隔ICU設置と運用に関するガイドライン改訂版-2023年5月-:https://www.jsicm.org/pdf/Guidelines_of_Tele-ICU_JSICM2023.pdfを参照)遠隔医療のひとつであり、集中治療に成熟した医療従事者が協力して重症患者における医療体制を提供する、ビデオ音声通話やコンピュータシステムなどを用いた集中治療における診療支援システムである。遠隔ICUは現場医療に代わるものではなく、医療資源の活用とプロセスの標準化を通じて現場医療を強化するよう設計されている。
 

論文情報

掲載誌BMJ Open

論文タイトル:Elucidation of the needs for telecritical care services in Japan: a qualitative study 

DOI:http://dx.doi.org/10.1136/bmjopen-2023-072065

研究者プロフィール

森本みずき (モリモト ミズキ) Mizuki Morimoto
東京医科歯科大学 医学部学生
・研究領域
医学教育学
 

那波 伸敏 (ナワ ノブトシ) Nobutoshi Nawa 
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 准教授
・研究領域
公衆衛生学、社会疫学、医学教育学
山脇 正永 (ヤマワキ マサナガ) Masanaga Yamawaki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
臨床医学教育開発学分野 教授
・研究領域
医学教育学、脳神経内科学、内科学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
臨床医学教育開発学分野 山脇 正永 (ヤマワキ マサナガ)
国際健康推進医学分野 那波 伸敏 (ナワ ノブトシ)
E-mail:myammerd[@]tmd.ac.jp(山脇)
E-mail:nawaioe[@]tmd.ac.jp(那波)

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5018 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 「Doctor to Doctor (D to D)の遠隔集中治療のニーズを解明」