「特発性炎症性筋疾患においてPD-1/PD-L1は病態形成に寄与する」【保田晋助 教授】
― PD-1+CD8+T細胞による攻撃と筋線維のPD-L1を介した反撃 ―
ポイント
- 通常、慢性的な抗原刺激下では、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、機能を喪失していきますが、特発性炎症性筋疾患患者さんの末梢血では疲弊することなく、活性化していました。
- 筋炎のマウスモデルを用いて、PD-1+CD8+T細胞が筋傷害に関与する病的なサブセットであることを発見しました。
- PD-1+CD8+T細胞からの攻撃に対して、筋線維はPD-L1を使って反撃していることを明らかにしました。
- 特発性炎症性筋疾患におけるPD-1+CD8+細胞を標的とした新規治療法の可能性、免疫疲弊を回避するメカニズムに関する新たな知見となります。
研究の背景
PD-1は主に活性化したT細胞※1の細胞表面上に発現します。PD-1を発現したT細胞(PD-1+T細胞)はPD-1のリガンド※2であるPD-L1と結合すると、T細胞内に活性化を抑制する信号が伝わり、攻撃する機能を失っていきます。PD-1とPD-L1が結合しないようにして、PD-1+T細胞を持続的に活性化させる免疫チェックポイント阻害療法は癌の治療で有効ですが、治療例の一部で筋炎を発症することがあります。また、IIM患者さんの筋組織ではPD-1+細胞の浸潤と筋線維のPD-L1発現が見られます。こうした現象はあたかもPD-1+細胞が筋肉を攻撃し、筋線維がPD-L1という武器で対抗しているように見えます。
一方で、癌の微小環境※3や慢性ウイルス感染といった慢性的に抗原(敵)が存在し、T細胞が刺激されている状況では、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、攻撃する力を失ってしまいます。IIMでは、T細胞が自己の筋を誤って敵と認識して攻撃していると考えられます。この場合、自己の抗原(筋)により慢性的に刺激されている状況であると考えられ、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、攻撃する機能を喪失していてもおかしくありません。つまり、IIMにおいて、PD-1+CD8+細胞が筋傷害に寄与するサブセットなのか、あるいは疲弊しているのかは不明と言えます。
研究成果の概要
研究成果の意義
IIMにおけるPD-1+T細胞を標的にした新規治療法の可能性に関する新たな知見となります。これまでIIMを含む自己免疫疾患におけるT細胞の疲弊メカニズムは十分にわかっていませんでした。この研究により、IIM患者ではPD-1+CD8+T細胞は疲弊せず、むしろ病態形成に関与していることがわかりました。このことは、IIMにおいてT細胞が疲弊を回避するメカニズムが存在することを示唆しています。IIMのみならず、慢性的に自己の抗原により免疫細胞が刺激されていると考えられる多くの自己免疫疾患の病態の理解に重要な知見となると考えられます。
用語解説
※1 T細胞
免疫系における主要な細胞の一つで、体内の感染症や異常な細胞(癌細胞など)に対する免疫応答を調節し、制御する役割を果たす白血球である。T細胞は感染細胞や癌細胞を特定し、破壊する役割を担うキラーT細胞、免疫応答を調節し、他の免疫細胞に指示を出すヘルパーT細胞、免疫応答を制御し、過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞といったサブセットが知られている。
※2 リガンド
ある細胞膜表面のタンパク質に対して特異的に結合する分子であり、細胞膜タンパクとリガンドが結合すると、細胞内へ信号が送られる。
※3 癌の微小環境
癌細胞を取り囲む癌周囲の環境のこと。癌細胞に加え、T細胞を含む様々な免疫細胞、線維芽細胞、血管により構成される。癌の微小環境内で生じる免疫応答が癌の進展に関与する。
論文情報
掲載誌:Journal of Autoimmunity
論文タイトル:Pathogenicity of functionally activated PD-1+CD8+ cells and counterattacks by muscular PD-L1 through IFNγ in myositis
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jaut.2023.103131
研究者プロフィール
保田 晋助 (ヤスダ シンスケ) Shinsuke Yasuda
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 教授
・研究領域
リウマチ性疾患、自己炎症性疾患、免疫学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 助教
・研究領域
リウマチ性疾患、免疫学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 氏名 保田 晋助 (ヤスダ シンスケ)
氏名 佐々木 広和 (ササキ ヒロカズ)
E-mail:syasuda.rheu[at]tmd.ac.jp(保田)
sasaki.rheu[at]tmd.ac.jp (佐々木)
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