「 内臓脂肪の増加がCOVID-19のリスクとなるメカニズムを解明 」【保田晋助 教授】

保田 晋助(やすだ しんすけ) 大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野 教授(中)
細矢 匡 (ほそや ただし) 大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野 講師(左)
大庭 聖也 (おおば せいや) 大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野 大学院生(右)
― 内臓型肥満はかくれ炎症状態? ―
ポイント
- 肥満関連指標のうち、内臓脂肪量※1がCOVID-19の予後を最もよく予測することを見いだしました。
- マウスの検討では、内臓型肥満マウスはSARS-CoV-2が肺全体に感染し、サイトカインストーム※2をもたらすことが分かりました。
- 肥満を予防するとSARS-CoV-2感染後の生存率が改善したことから、健康的なライフスタイルを啓発することでCOVID-19罹患時の重症化のリスクを減らせる可能性が期待できます。
研究の背景
不思議なことに、肥満の程度とCOVID-19の重症化リスクとの関連には人種差が大きいことが知られています。英国の医療データベースを用いた研究では、肥満の一般的な指標であるBMI(Body mass index)※3を用いて肥満のリスクを見積もると、欧米人のリスク増加は2倍程度であるのに対して、南アジア人では5倍以上重症化や死亡のリスクが上昇しました(Nat Commun. 2022 Feb 2;13(1):624.)。人種による体格差のなかで、アジア人は同程度のBMIでも内臓型の肥満を呈する頻度が高いことはよく知られております。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、動脈硬化などの生活習慣病と強い関連を有しますが、これらは内臓脂肪組織から産生される炎症性サイトカインが関与することが知られています。
研究グループはこれらの知見から、内臓脂肪の蓄積が炎症の増強因子になって、COVID-19の重症化や予後に関連するのではないかとの仮説を立てて、検討を重ねました。
研究成果の概要

図1:肥満のタイプには、内臓脂肪が蓄積しやすいリンゴ型肥満と皮下脂肪の蓄積が主体となる洋ナシ形肥満がある。
COVID-19で東京医科歯科大学病院に入院した患者の生存率を解析すると、内臓脂肪高値の患者の生存率が低いことが分かった。

図2:やせマウスと肥満マウスの写真と19週時の体重の分布。(左)レプチンシグナル欠損肥満マウス(ob/ob, db/db)、野生型(やせ)マウスにSARS-CoV-2を感染させた。内臓脂肪の蓄積が多いob/obマウスのみSARS-CoV-2感染後早期に死亡することがわかった。(中央)炎症性サイトカインであるIL-6を阻害すると生存率が改善した。(右)

図3:ob/obマウスにレプチンを投与すると肥満を抑制したやせob/obマウスを作成できる。
SARS-CoV-2感染の前日からレプチンを投与した肥満マウスと、無治療の肥満マウスは死亡するが、
やせob/obマウスの生存率は改善した。レプチンの作用ではなく、肥満を改善させることが生存率の改善に重要だったことがわかる。
研究成果の意義
これまで見いだされたCOVID-19のリスク因子のうち、年齢や動脈硬化性疾患などのリスク因子は高齢者に重複しやすい特徴がありましたが、COVID-19に関する肥満のリスクはむしろ壮年から初老の男性において高いことが知られており、本研究からも同様の傾向が見いだされました。内臓脂肪量は運動習慣や食習慣などのライフスタイルと密接に関連するので、いわゆる生活習慣病の対策にも健康的なライフスタイルが励行されております。特に働き盛りの年代の過体重の男性に対して、体重の減少だけを目的とするのではなく、健康的なライフスタイルを送るモチベーションの一つとして、COVID-19の重症化リスクの軽減につながる可能性を提示した点において、本成果の社会的な意義は大きいと思われます。
用語解説
※2サイトカインストーム:病原微生物の感染に対する生体の防御反応として、IL-6やTNFα、インターフェロンαなどのさまざまなサイトカインが産生されます。これらのサイトカインは免疫細胞の活性化をもたらして、病原微生物の排除を促しますが、重症のCOVID-19では、しばしばこれらのサイトカインが過剰となるサイトカインストームと呼ばれる現象が生じます。サイトカインが過剰となると、高熱が続いたり、肺の呼吸機能が悪化したりと、生体に悪影響が生じることが知られており、COVID-19の重症化メカニズムのひとつとして重要と考えられています。
※3BMI(Body mass index):体格の指標として広く用いられる広く用いられる指標で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出されます。計算方法は世界共通ですが、肥満の判定基準は国によって異なり、WHO(世界保健機構)の基準では30以上を”Obese”(肥満)としています。日本肥満学会の定めた基準では18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」で、肥満はその度合いによってさらに「肥満1」から「肥満4」に分類されます。本研究ではBMI 30以上をBMI高値として解析しました。
※4レプチン:食欲を抑制するホルモンで、欠落すると食欲が亢進して肥満となります。また、T細胞など一部の免疫細胞はレプチン受容体を介して活性化することが知られています。レプチンのようなホルモンは受容体に結合することで作用を発揮しますが、ホルモンと受容体の関係は鍵と鍵穴の関係にたとえられます。肥満におけるレプチンの役割は、主にマウスでの解析が進んでおりますが、ヒトでの重要性については限定的とする意見も多く、さらなる検討が必要とされています。
※5ob/obマウスとdb/dbマウス:ob/obマウスはレプチンリガンド(鍵)を欠損しており、db/dbマウスはレプチン受容体(鍵穴)を欠損しているため、どちらもレプチンシグナルを欠落し、過食によって肥満となります。また、ob/obマウスのレプチン受容体は正常のため、図3の実験のように、レプチンを投与するとレプチンシグナルが伝達され、食欲を抑制することができます。これらのマウスが発見されたのは50年以上前で、インスリンの産生能が異なるほかは、免疫学的にはほとんど違いがないとされていました。近年、脂肪分布や腸内細菌叢にも違いがあることが報告されましたが、その違いが生物学的にどのような現象と関連するのかについては十分な解析がなされていません。
中のフッ化物イオン濃度を調整する施策で、効果と安全性が科学的に証明され、米国やオーストラリアなど諸外国では広く実施されている(米国歯科医師会. 2018)。
論文情報
論文タイトル:Apple-shaped obesity: a risky soil for cytokine-accelerated severity in COVID-19
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2300155120
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 教授
・研究領域
リウマチ性疾患、自己炎症性疾患、免疫学

細矢 匡 (ホソヤ タダシ) Hosoya Tadashi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 講師
・研究領域
リウマチ性疾患、自己炎症性疾患、免疫学

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 大学院生
・研究領域
リウマチ性疾患、免疫学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科学分野 保田 晋助(ヤスダ シンスケ)
細矢 匡(ホソヤ タダシ)
E-mail:syasuda.rheu[@]tmd.ac.jp (保田)、hosoya.rheu[@]tmd.ac.jp (細矢)
<報道に関すること>
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