「 高齢嚥下障害患者に対するとろみ付き炭酸飲料の効果の検証 」【戸原玄 教授】
公開日:2023.2.1
「 高齢嚥下障害患者に対するとろみ付き炭酸飲料の効果の検証 」
-とろみ付き炭酸飲料には嚥下改善効果がある-
-とろみ付き炭酸飲料には嚥下改善効果がある-
ポイント
- 高齢嚥下障害患者を対象に、とろみ付き炭酸飲料と炭酸のないとろみ付き飲料摂取時の嚥下動態を比較することで、とろみ付き炭酸飲料中の炭酸の嚥下に与える効果を明らかにしました。
- とろみ付き炭酸飲料を摂取した時の方が咽頭残留が減少し、嚥下反射がより早期に惹起され、とろみ付き炭酸飲料中の炭酸には嚥下改善効果があることが明らかになりました。
- 嚥下障害患者に対するとろみ付き炭酸飲料の有効性が示唆されました。
研究の背景
嚥下障害患者は、加齢や様々な疾患により嚥下機能が低下します。水分など粘度の低いものは、摂取時に一気に咽頭に流入するために、嚥下反射とのタイミングが合わず誤嚥が生じやすくなります。そのため、一般的に水分にとろみを付与することにより粘度を増加させることで誤嚥を防ぐという方法がしばしば用いられます。
近年、炭酸飲料は水分と比較し少量で嚥下反射を惹起させることが可能であること、さらに炭酸飲料摂取時の方が、嚥下反射惹起時間が短縮することが報告されています。これは、炭酸飲料の発泡性が咽頭粘膜を刺激することで、嚥下運動を促進するためであるとされており、炭酸飲料には嚥下改善効果があります。
一方で、とろみ付き炭酸飲料の嚥下動態への効果を検証した研究はあるものの、とろみ付き炭酸飲料中の炭酸の効果を検証した研究は報告されていません。
近年、炭酸飲料は水分と比較し少量で嚥下反射を惹起させることが可能であること、さらに炭酸飲料摂取時の方が、嚥下反射惹起時間が短縮することが報告されています。これは、炭酸飲料の発泡性が咽頭粘膜を刺激することで、嚥下運動を促進するためであるとされており、炭酸飲料には嚥下改善効果があります。
一方で、とろみ付き炭酸飲料の嚥下動態への効果を検証した研究はあるものの、とろみ付き炭酸飲料中の炭酸の効果を検証した研究は報告されていません。
研究成果の概要
本研究グループは、とろみ付き炭酸飲料中の炭酸の嚥下に与える効果を検証するため、とろみ付き炭酸飲料と、炭酸を抜いたとろみ付き炭酸飲料摂取時の嚥下動態を比較しました。とろみ付き炭酸飲料は、冷却したペットボトル入り炭酸飲料にとろみ剤を添加し、ペットボトルの蓋を閉め、ただちに振りとろみ剤を混和した後、一晩冷蔵庫にて冷却して作製しました。比較対象として、炭酸を抜いた同種類の炭酸飲料にも同じ濃度のとろみを付与しました(以下、炭酸なしとろみ付き飲料)。
対象者38名を、先にとろみ付き炭酸飲料を摂取する群と、先に炭酸なしとろみ付き飲料を摂取する群の2群にランダムで割り付けました。嚥下内視鏡を挿入した状態で、それぞれの試料を摂取させ、摂取状況を評価しました(図1)。
対象者38名を、先にとろみ付き炭酸飲料を摂取する群と、先に炭酸なしとろみ付き飲料を摂取する群の2群にランダムで割り付けました。嚥下内視鏡を挿入した状態で、それぞれの試料を摂取させ、摂取状況を評価しました(図1)。
![](/files/topics/59179_ext_05_4.jpg)
嚥下内視鏡検査(VE)画像より、誤嚥・喉頭侵入※2を8段階、咽頭残留※3を5段階で評価しました。嚥下反射惹起部位は、VE上で嚥下反射が惹起する直前の食塊先端の位置を5部位に分類し評価しました。
とろみ付き炭酸飲料は、炭酸なしとろみ付き飲料と比較し、咽頭残留が減少しました(図2)。また、嚥下反射がより早いタイミングで生じました(図3)。とろみ付き炭酸飲料中の炭酸には嚥下改善効果があることがわかりました。なお、誤嚥・喉頭侵入は、とろみ付き炭酸飲料と炭酸なしとろみ付き飲料で有意な差は認められませんでした。
とろみ付き炭酸飲料は、炭酸なしとろみ付き飲料と比較し、咽頭残留が減少しました(図2)。また、嚥下反射がより早いタイミングで生じました(図3)。とろみ付き炭酸飲料中の炭酸には嚥下改善効果があることがわかりました。なお、誤嚥・喉頭侵入は、とろみ付き炭酸飲料と炭酸なしとろみ付き飲料で有意な差は認められませんでした。
![](/files/topics/59179_ext_05_45.jpg)
研究成果の意義
とろみ付き炭酸飲料中の炭酸には嚥下改善効果があることがわかりました。得られた知見から、とろみ付き炭酸飲料は、水分で誤嚥する嚥下障害患者の嚥下訓練に有効な可能性があります。すでに臨床現場でも炭酸水を用いた嚥下訓練が行われており、今後は、とろみ付き炭酸飲料を用いた嚥下訓練の効果を検証したいと思います。
用語解説
-
※1誤嚥
唾液や飲食物が気管に入ること。
※2喉頭侵入
食物が喉頭内に侵入すること。気管内には侵入しない状態。
※3咽頭残留
嚥下後の、喉での食物の残留。残留量が多いと誤嚥のリスクが高い。
論文情報
掲載誌:Scientific Reports
論文タイトル: Effects of thickened carbonated cola in older patients with dysphagia
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-25926-4
研究者プロフィール
![](/files/topics/59179_ext_05_24.jpg)
齋木 章乃 (サイキ アキノ) Saiki Akino
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
![](/files/topics/59179_ext_05_48.jpg)
吉見 佳那子 (ヨシミ カナコ) Yoshimi Kanako
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 特任助教
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 特任助教
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
![](/files/topics/59179_ext_05_49.jpg)
中川 量晴 (ナカガワ カズハル) Nakagawa Kazuharu
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 准教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 准教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
![](/files/topics/59179_ext_05_28.jpg)
戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野
齋木 章乃 (サイキ アキノ)
戸原 玄 (トハラ ハルカ)
E-mail:a.saiki.swal[@]tmd.ac.jp
h.tohara.swal[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。