「Ⅰ型コラーゲンを介した腸上皮の炎症・再生機構の解明 」【油井史郎 准教授】
国立大学法人東京医科歯科大学
国立大学法人筑波大学
― 細胞外基質が細胞運命の転換を司る ―
ポイント
- これまで腸上皮傷害後の再生過程においてⅠ型コラーゲンが間質に沈着しリモデリングが生じることにより転写因子YAP/TAZ※1の活性が誘導され、腸上皮細胞が胎児期前駆細胞様に変容することを明らかにしてきました。
- 本研究では、再生過程における腸上皮細胞変容の背景に存在する複雑な分子ネットワークの全貌を、Ⅰ型コラーゲン内で培養した成体上皮細胞の遺伝子特性につき網羅的解析を行うことにより明らかにしました。
- 腸上皮の再生時には転写因子YAP/TAZのみならず、AP-1、 RUNX2の活性が複合的に誘導されることで胎児様形質が獲得され、Fibronectin1などの重要なハブ遺伝子※2が特定されました。
- Ⅰ型コラーゲン内で培養したヒト成体上皮細胞は、潰瘍性大腸炎の遺伝子特性と高い相同性を示し、YAP/TAZ活性化を主軸とした細胞変容が生じることが明らかになりました。本研究成果は、炎症性腸疾患の病態解明、新規治療法開発に向けて細胞外基質リモデリングの意義に対する理解が重要であることを示唆していると考えられます。
東京医科歯科大学 統合研究機構 再生医療研究センター 油井史郎准教授と同大学消化器病態学分野 小林桜子大学院生、小笠原暢彦大学院生(指導教員:消化器病態学分野 岡本隆一教授)は、腸上皮傷害後の再生過程におけるⅠ型コラーゲンを起点とした腸上皮細胞の運命転換の背景に存在する複雑な分子ネットワークの全容を解明しました。本研究は東京医科歯科大学 難治疾患研究所 発生再生生物学分野 仁科博史教授、筑波大学医学医療系 消化器内科 土屋輝一郎教授による研究協力の中、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)、東京医科歯科大学次世代育成ユニットの支援のもとで施行されました。研究成果は、国際科学誌Inflammation and Regeneration(インフラメーションアンドリジェネレーション)に、2022年11月28日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
研究成果の概要
研究成果の意義
腸上皮の再生過程においてⅠ型コラーゲンを介して複数の転写因子が複合的に誘導され、ダイナミックな腸上皮細胞の運命転換が生じることを示した本研究成果は、腸上皮細胞の細胞外基質との相互作用に着目した炎症性腸疾患に対する新規治療法開発への応用が期待されます。
用語解説
※2 ハブ遺伝子:遺伝子ネットワーク上で多数の遺伝子と結合する遺伝子。生物学的に重要な役割を果たすと考えられている。
※3 RNAシーケンス:RNAという核酸を対象とした塩基配列同定技術。細胞で多く発現している遺伝子を網羅的に解析できる。
※4 ATACシーケンス:DNAという核酸を対象とした塩基配列同定技術。細胞の核にある遺伝子をコードしているクロマチンという構造の中で折り畳まれていないオープンな領域を網羅的に同定できる。
論文情報
掲載誌:Inflammation and Regeneration
論文タイトル: Collagen Type I mediated mechanotransduction controls epithelial cell fate conversion during intestinal inflammation
DOI:https://doi.org/10.1186/s41232-022-00237-3
研究者プロフィール
油井 史郎 (ユイ シロウ) Shiro Yui
東京医科歯科大学 統合研究機構 再生医療研究センター
准教授
・研究領域
消化器再生学
小林 桜子(コバヤシ サクラコ) Sakurako Kobayashi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野 大学院生
・研究領域
消化器再生学
小笠原 暢彦(オガサワラ ノブヒコ) Nobuhiko Ogasawara
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野 大学院生
・研究領域
消化器再生学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 統合研究機構
再生医療研究センター 油井 史郎(ユイ シロウ)
E-mail:yui.arm[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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