「エレクトロスピニング法で紡いだ酵素糸メッシュでガス成分の直接可視化に成功」【三林浩二 教授】
国立大学法人東京医科歯科大学
学校法人早稲田大学
―簡単につくれて、すぐにつかえる、バイオセンシング酵素メッシュ―
ポイント
- 高分子溶液をマイクロ・ナノ繊維化するエレクトロスピニング法でガス測定用酵素メッシュを開発しました。
- 通常は溶液中ではたらく酵素でも、乾燥したエレクトロスピニング酵素糸中では気相サンプルに対しても活性が得られ、バイオセンサへと応用できることを示しました。
- 本技術により、生体ガス計測用バイオセンサデバイスの実用化促進が期待できます。
研究の背景
一方で、生体ガスは数百種類のVOCsにて構成され、対象となるガス成分を検出するには高い選択性が必要です。そのため、生体ガスの測定には、一般的にガスクロマトグラフィー質量分析装置※2などの大型の分析装置が用いられます。そこで本研究グループでは、これまで酵素の基質特異性に着目し、生体ガスを気相サンプルとして計測する生化学式ガスセンサの開発を進めてきました。しかしながら、酵素を用いるバイオセンサの一般化に対する共通の課題として、「分子認識機能を担う酵素固定化膜の作製には時間と労力を要すること」、「酵素が機能するような温和な溶液中で用いること」などがあり、バイオセンサの製品化の障壁となっていました。
研究成果の概要
酵素糸メッシュがエタノールガスを検出する仕組みでは、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型アルコール脱水素酵素(ADH)の触媒反応を用いたバイオ蛍光法※4を用いています。カメラの前方に酸化型NAD (NAD+)およびADHを含む酵素糸メッシュを設置し、エタノールガスを負荷すると酵素反応により還元型NAD (NADH)が生じます。このNADHは波長340 nmの紫外光照射により波長490 nmの蛍光を生じ、蛍光の強度が負荷されたエタノールガス濃度と相関することからADH酵素糸メッシュ上の蛍光強度分布をカメラで撮像することで、エタノールガス濃度分布の動画像化が可能となります(図1B, C)。
研究成果の意義
また、高分子基質中でタンパク質の活性を維持しながら、気相中でも使用可能な複合材料を作製する方法を提供する点でも意義が高く、様々なタンパク質と水溶性高分子からなる複合材料の構築への展開が期待されます。

図1 (A)エレクトロスピニング酵素糸の作製方法、(B)エタノールガスをイメージングするための実験系、(C)エタノールガスを負荷した際の蛍光画像より算出したガス分布の時空間変化
本研究における各研究者の役割
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野 助教 飯谷健太・・・エレクトロスピニング酵素糸の作製手法検討、蛍光イメージング実験系構築、論文執筆、研究費獲得、等
早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 生命医科学科 (TWins) 教授 武田直也・・・タンパク質を包含するエレクトロスピニング法の提案、高分子材料の選定、実験指導、論文執筆、研究費獲得、研究統括、等
用語解説
※2ガスクロマトグラフィー質量分析装置・・・・・・・・複数の成分から成る混合気体をカラムと呼ばれる成分分離装置を介して分離し、後段の質量分析装置で濃度を定量するガス分析装置。
※3エレクトロスピニング法・・・・・・・・高分子溶液と繊維回収用コレクター電極間に数十kV程度の高電圧を印加し、溶液の表面張力よりも帯電した高分子溶液の反発力が大きくなることで引き出され、直径がナノメートルからマイクロメートルの繊維を得る手法。
※4バイオ蛍光法・・・・・・・・酵素反応の結果として増減する分子を蛍光検出することで目的となる基質分子の定量を行う分子計測手法。
論文情報
掲載誌:Biosensors and Bioelectronics
論文タイトル: Enzyme-embedded electrospun fiber sensor of hydrophilic polymer for fluorometric ethanol gas imaging in vapor phase
掲載日:2022年6月7日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0956566322004936
DOI:10.1016/j.bios.2022.114453
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野 教授
<研究領域>
分析化学
バイオセンサ
生体ガス計測

東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野 助教
<研究領域>
バイオセンサ
ガスイメージング

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 生命医科学科(TWIns) 教授
<研究領域>
バイオマテリアル
高分子材料
細胞・組織工学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学生体材料工学研究所
センサ医工学分野 三林 浩二(ミツバヤシ コウジ)
E-mail:m.bdi[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
早稲田大学 広報室広報課
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