研究課題

研究課題

研究課題への取り組み
生体補綴歯科学分野は,2021年11月に部分床義歯補綴学(ぶぶんしょうぎしほてつがく)分野から名称を変更しました.歯科補綴学第一講座,摂食機能構築学分野から引き継がれてきた当分野は, これまで一貫して部分床義歯による補綴学を専攻してきました.今後は補綴材料と診療技術に関する基礎研究と臨床研究の橋渡し,およびそのための人材育成を担い,新しい技術の開発と評価を目指します.
現在,当分野で行われている研究課題は,おおまかに以下に挙げる項目に分類されます.

1.補綴治療の診断,治療学と治療効果の評価
2.補綴用生体材料の設計最適化
3.補綴装置と口腔組織に関する生物学
4.補綴臨床の教育開発学

ここでは,現在取り組んでる課題の一部をご紹介いたします.
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歯列部分欠損に対する補綴治療の効果の評価

う蝕や歯周病などにより歯が失われると,「よく噛めない」,「見た目が悪い」,「話しにくい」,「かみ合わせが不安定」など口腔の機能にさまざまな障害を生じます.部分床義歯を用いた補綴治療は,歯の喪失により低下した口腔機能の回復を目的の一つとしています.当分野では補綴治療の効果を様々な口腔機能から評価し,さらに口腔機能の回復が口腔関連QoL,脳機能,全身の状態などに与える影響についても研究を進めています.

義歯装着者の咀嚼能力と口腔関連QoLの評価

J Dent. 2020 Jan;92:103246.

私たちは,新たに開発した2色のワックスを用いて,義歯でどの程度噛めるかを簡単に測ることができるシステムを開発しました.また義歯による補綴治療が咀嚼能力口腔関連QoLの向上にどの程度寄与するかについて研究を進めています.最近では,部分床義歯装着による口腔関連QoLの臨床的最小重要差を決定し,その個人差に関わる要因を検討しました.さらに各咀嚼能力評価法における治療前後の変化の検出能力(反応性)の違いを明らかにしました.(研究代表者:笛木賢治,河野英子)

口腔内環境の変化後の脳活動の評価

J Oral Rehabil. 2017 Oct;44(10):770-778.

義歯を装着すると,患者さんによってはなかなか慣れることができない方もいらっしゃいます.私たちは口腔内環境の変化に「慣れる」過程を脳活動の変化から明らかにしました.認知神経生物学分野にご協力いただき,fMRIを用いて,脳活動の評価を行っています.
(研究代表者:稲用友佳

義歯装着が患者の栄養状態に及ぼす影響

J Oral Rehabli.2018;45(8):618-626.

近年,オーラルフレイルという言葉が注目されています.特に高齢者において,寝たきりになってしまう前段階の状態の一つと位置付けられ,適切な医学的対応によって,健全な状態に回復させることも可能であると考えられています.義歯を装着し咀嚼機能が向上することで,患者の栄養状態が改善すれば,オーラルフレイルへの対応が可能です.
(研究代表者:笛木賢治

短縮歯列の治療効果の評価

J Oral Rehabil. 2016;43:534-42.

臼歯(奥歯)を失うと咬む能力が低下することは知られています.しかし,失われた臼歯が1,2本程度に限局しているケース(SDA;短縮歯列)では,噛むことにそれほど困らない場合もあります.ヨーロッパでは,このようなケースに対して部分床義歯による治療を積極的にする必要はないという考え方が広く支持されています.日本人でもSDAの適応が妥当であるケースがあるならば,患者様に負担をかけること無く顎口腔系の健康維持を図れることになり,有益な治療の選択肢となることが期待されます.また,認知神経生物学分野のご協力をいただき,短縮歯列と脳活動の関連についてf-MRIを用いた評価を行っております.
(研究代表者:笛木賢治

歯周炎で弱体化した部分床義歯装着者の残存歯を保護する試みとその臨床評価

J Dent. 2017;63:8-13.

部分床義歯を装着することによる咬合支持の回復と,部分床義歯による残存歯列の固定(二次固定)によって,歯周炎で弱体化した残存歯を保護する,という観点で,基礎的検討および臨床研究を進めています.これまでに,模型実験や実際の患者さんに対してエックス線写真を用いたデジタルサブトラクション法のよって歯槽骨の骨密度の変化を詳細に評価し,RPDの二次固定が支台歯歯周組織に及ぼす影響を評価しています.また,歯周組織破壊の増悪因子として注目されている睡眠時ブラキシズムを有する患者の残存歯を保護するための口腔内装置(ナイトデンチャー)の効果の臨床評価を行なっています.
(研究代表者:和田淳一郎

新たな発語機能評価法の確立と部分床義歯のデザインが発語機能に及ぼす影響の評価

Folia Phoniatr Logop. 2019.12; 18 1-10.

補綴治療は本来,機能回復を目的としていますが,咀嚼機能の回復を目的として部分床義歯を装着したために発語機能に悪影響が生じる場合があります.発語機能は本来,相手に伝わるかどうかが重要であり,話者が喋りづらいと感じていても問題なく会話が成立している場合も少なくありません.従来の発語機能評価は,評価者の主観に左右されたり大掛かりな装置が必要でしたが,我々は東芝DME社との産学連携共同研究で,チェアサイドで簡単に客観評価が可能な発語機能評価システムを開発し,臨床応用を目指しています.また本システムは発語障害の検出力が高く,部分床義歯のデザインが発語機能に及ぼす影響を従来よりも詳細に解析しています.
(研究代表者:和田淳一郎

生体と歯科補綴装置の応力解析による設計の最適化

部分床義歯は,失われた歯の代わりに残っている歯や顎骨などと協調して働きます.しかし,咀嚼(そしゃく)機能の回復を十分に達成するためには,義歯が口腔内の様々な組織と良好な「力関係」を実現できるように設計されなければなりません.そうでなければ,一部の歯や粘膜に大きな「負担過重」を生じたり,義歯の破損を引き起こします.生体と生体材料にかかる力の負担は,それぞれの内部に生じる「応力」や「歪み」を分析することで正確に推定できます.この分析は,三次元的な力学モデルを用いたシュミレーション解析(FEM)により行います.私たちは,特にモデルによる演算が困難な接触問題,粘弾性,疲労,材料非線形など,難度の高い非線形解析に重点的に取り組んでおり,複雑な歯の動きや粘膜内部の微小歪みの分析を世界に先駆けて発表しています.

熱可塑性樹脂クラスプ形状の最適化

J Prosthodont Res. 2019 Jul;63(3):303-308.

補綴装置と生体にかかる力の負担は,それぞれの内部に生じる「応力」や「歪み」を分析することで推定できます.私たちは,三次元的な力学モデルを用いたシュミレーション解析(FEM)により,口腔内に装着される補綴装置の複雑な動きや,歯の動きを再現し分析を行っています.新規材料の物性や疲労特性を材料試験で評価し,前述のシュミレーション解析を併用することで,耐久性の優れた・生体為害性の小さい補綴物の設計をめざしています.

(研究代表者:村上奈津子山崎俊輝

歯科用セラミック及びコンポジットレジンの摩耗挙動の解析

J Oral Sci. 2017 Dec 27;59(4):589-596.

新たに開発される高強度のCAD/CAMセラミックスは咬む合う歯を削るリスクがあります.また,その摩耗は噛み合う歯を修復する材料の種類によって大きな影響を受けます.生体材料にかかる力の負担を,それぞれの内部に生じる応力や歪みを分析し,摩耗量との関係を評価しました.このような分析から摩耗を予測することで,補綴治療において,より安全な材料選択ができるように取り組んでいます.
(研究代表者:村上奈津子

新規歯科材料やデジタル機器の開発と高機能化に関する研究 

補綴治療には金属材料,セラミックス,レジンなど様々な材料が使用されています.また近年ではCAD/CAM技術が広く応用されており,新たな機器の開発が盛んに行われています.我々は補綴治療がより安全に行われることを目指し,各種歯科材料の物性の高機能化やCAD/CAM機器の評価に関する研究を行っています.

歯科用CAD/CAMシステムの臨床応用に関する研究

J Prosthodont Res. 2018 Jul;62(3):347-352.

近年、補綴治療に際して光学印象・咬合採得することが一般的となってきています.しかしながら,その客観的な性能について不明な点が多く残っています.私たちは光学的な咬合採得法の再現性について検証を行っています.その成果はより再現性の高い光学的咬合採得法•CADソフトの開発に役立てられます.また,部分床義歯による治療においては,支台歯の前処置付き歯冠修復物(もしくはアタッチメント)と高精度に適合する義歯側の支台装置をCAD/CAMを用いてチェアサイドで同時に製作することで,より不自由な期間を短縮し効果的な治療が実現できると考えられます.
(研究代表者:若林則幸

新規インプラント材料の開発と評価

J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 2018 Jan;106(1):73-79.

現在インプラント材料はチタンが主体ですが,同族元素であるジルコニウムを添加すると,機械的強度が飛躍的に向上します.我々は先行研究において,ジルコニウム濃度を段階的に変化させた実験を行い,30mol%のジルコニウムを添加すると,最も高い引張強度をもつ合金になることを示し,これによりインプラントの破折リスクを減少させられる可能性を報告しました.本研究は次段階として,機械的性質に加え,生体親和性を耐食性の点から評価しました.その結果,表面酸化膜はチタン単体でも非常に安定していることが知られていますが,ジルコニウムを添加すると,その安定性がより増加することを証明しました.この一連の研究は,これまで検討されてこなかった,合金に対する最適なジルコニウム濃度を提示することを目的としていますが,順調に必要な結果を積み上げてきていると思われます.
(研究代表者:上野剛史

チタン表面の化学的因子と生物学的活性の関連

J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 2018 Jul;106(5):1869-1877.

チタン表面と骨の接触率は治癒を長期間待っても30-60%程度と報告されています.今後,患者の高齢化や潜在的なリスクを考えると,いかなる条件下でも,感染のリスクとなる軟組織が介在せず,インプラント表面によく骨が形成されることが重要です.チタン表面の生物学的活性には表面化学組成が影響することが知られています.その中でも,炭素(炭化水素-有機物)の付着は,容器に密封されていても避けることはできず,実際に多種類のインプラントの表面を元素分析すると,15-75%もの炭素が表面を覆っていることが報告されています.このような状況をシミュレートし,骨芽細胞と線維芽細胞の親和性を評価したところ,炭素が多く付着すると,骨芽細胞の細胞活性が低下し,反対に線維芽細胞は上昇することがわかりました.この結果は,インプラント表面の化学的なコントロールが必要になることを示し,表面処理技術の応用や開発に寄与すると考えられます.
(研究代表者:上野剛史

レーザー積層造形法の臨床応用に関する研究

J Mech Behav Biomed Mater. 2019 Oct; 98:79-89.

歯科に用いられる金属構造物の多くは,鋳造法によって製作されていますが、現状の歯科鋳造法は技工操作が煩雑で,品質は術者の技術に依存しやすく,新たな歯科補綴物製作プロセスが求められています.
 近年,金属構造物を3Dプリンティングの技術を用いて造形するレーザー積層造形法の臨床応用が注目を集めています.我々はレーザー積層造形法により作製したコバルトクロム合金の機械的性質、耐食性,疲労強度や適合性の向上を目指した研究を続けています.
(研究代表者:高市敦士

補綴治療に影響を与える顎口腔系の様々な問題の解明

欠損補綴治療は,残存歯や顎堤の条件の他に,筋肉や顎関節の状態,噛む力や年齢・性別,全身的既往など様々な要因に影響を受ける可能性があります.例えば,口腔乾燥を有する患者においては,口腔粘膜の圧痛閾値に影響がある可能性があります.全身疾患である糖尿病は歯周炎との関連が明らかとなっており,部分床義歯を使用する患者において糖尿病の有無が支台歯歯周組織に対して影響を及ぼすことが考えられます.当分野では歯周病学分野と連携して,糖尿病の有無が支台歯に及ぼす影響を明らかにする臨床研究を計画しています.

義歯床下顎堤の吸収のメカニズムの解明

Eur J Pharmacol. 2016;782:89-97.

義歯による過度の荷重負担が床下顎堤の吸収の一因と考えられています.しかしそのメカニズムは,骨内部に生じる歪みと破骨細胞との活性との関係からは明らかにされていません.私たちは,骨内部の破骨細胞の出現とローカルストレインとの関係を明らかにし,生体の変化と骨内部の力学的変化の関係を研究しています.今後,細胞活性と歪みの関係の基礎的基盤を確立していくことで,個々の患者の画像診断の結果をもとにした補綴設計のリスク評価に役立つことが期待されています.
(研究代表者:新井祐貴

口腔乾燥症による義歯装着者の口腔粘膜圧痛閾値への影響に関する臨床的研究

Clin Oral Investig. 2019 Nov 8.

口腔乾燥は,齲蝕や歯周病だけでなく咀嚼や嚥下等の機能障害や口腔粘膜の痛みと関連すると言われています.部分床義歯を含む有床義歯は,咀嚼力の負担を顎堤の粘膜で負担する必要があり,また義歯による痛みは患者の生活にとってとても重大な問題となります.そのため本研究では,口腔乾燥と義歯を使用している患者の口腔粘膜の圧痛閾値との関連を明らかにすることを目的としました.それらの痛みに適切に対処していくことは部分床義歯での治療を成功させるために重要であると言えます.
(研究代表者:笛木賢治

筋肉の痛みと咀嚼能力の関連性の解明

J Oral Rehabil. 2016;43(9):683-691.

筋肉の痛みが咀嚼能力(物をかみ砕く能力)にどのように影響を与えるかを解明することは咀嚼能力を回復することを目的の1つとする,入れ歯や被せ物の治療の一助となります.今回は遅発性咀嚼筋痛の,主観的・客観的咀嚼能力への影響を評価しました.また,部分床義歯における床下粘膜疼痛に関連する因子の解明にも取り組んでいます.
(研究代表者:河野英子)