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発達期病態が脊髄小脳失調症の発症後予後に関与する ― YAPdeltaCによる治療法開発にむけて ― (2017)

脊髄小脳失調症1型は代表的な神経変性疾患の一つであり、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など他の神経変性疾患と同様に、根本的な治療法(病態修飾治療法: Disease Modifying Therapy: DMTとも言う)は確立されていない。また、遺伝子変異によって引き起こされる病態についても、多くの知識が蓄積されてきているものの、どの時期からどのような病態が生じているのか、いつからどのような病態を標的に治療をすれば良いのか、については明確になっていない。例えば、アルツハイマー病ではアミロイド凝集除去を目的としたアミロイド抗体を用いた多くの臨床試験が行われてきたが、アミロイド除去には成功したものの、臨床症状の改善には至っていない。この事例は、どのような時期に如何なる不可逆的病態に至るかを明らかにすることが非常に重要であることを示している。

私達は、先行研究(Hoshino et al, JCB 2006)で岡澤グループが発見した非典型的ネクローシス (TRIAD)における制御分子YAPdeltaCの脊髄小脳失調症1型における機能解明を目指して、YAPdeltaCのTet-ONマウスと Ataxin1-KIマウスを交配し、YAPdeltaCの時期特異的発現がAtaxin1-KIマウスの症状と生存期間にどのような影響を与えるかを検討した。その結果、胎児期から生後8週までのYAPdeltaC発現が症状と生存期間を顕著に改善するものの、それ以後のYAPdeltaC発現は効果がほとんど見られないことが分かった。
さらに、YAPdeltaCは正常型Ataxin1と協調して発達期の小脳神経細胞における遺伝子発現調節に重要な役割を果たすことが知られているRORalphaの機能を高める転写補助因子として働くこと、変異型Ataxin1はYAPdeltaCをRORalphaから切り離してしまうため、小脳神経細胞の成熟に必要な遺伝子発現を阻害することが明らかとなった。YAPdeltaCを強制的に発現することでRORalphaとの結合を増やし、結果として小脳成熟に必要な遺伝子の発現量を回復することも分かった。

Tet-ON YAPdeltaC system

Lifespan

アルツハイマー病では、発症前の治療開始の効果を検討する臨床試験が米国で行われており、日本においても同様な臨床試験が計画されている。本研究は、脊髄小脳失調症モデルマウスにおいてYAPdeltaCを用いて発達期の小脳成熟関連遺伝子の発現量を回復させることが発症後予後の改善につながることを示した。したがって、遺伝子診断が可能な脊髄小脳失調症では、発症前にYAPdeltaCの量を増やすことで、予防的治療あるいは病態修飾治療法を開発できる可能性がある。本研究は、アルツハイマー病のみでなく、神経変性疾患一般に、発症前の早期治療が必要であることを示した一例と考えられ、同時に、その際の治療標的分子を示した点で、大きな意義を持つと考えられる。

神経病理学分野