プレスリリース

「 歯の喪失が孤独感を高める可能性が明らかに 」【松山祐輔 准教授】

公開日:2024.8.7
 
「 歯の喪失が孤独感を高める可能性が明らかに 」
― 無歯顎になると孤独感が0.31ポイント増加 ―

ポイント

  • 会話や笑顔は口腔の機能のひとつであり、口腔の健康は人と人との社会的交流に重要な役割を果たします。過去の研究では、口腔の健康と孤独感との間に関連がみられましたが、その因果関係は明らかでありませんでした。
  • 本研究では、英国の成人を対象とした追跡データを分析し、無歯顎(自分の歯が一本もない状態)が孤独感を増加させる可能性が示されました。追跡期間中に無歯顎になった人は、孤独感スコア(3点から9点の尺度)が0.31点増加しました。
  • これらの結果は、歯の喪失を予防することで孤独のリスクを軽減する可能性を示唆しています。

図. 孤独感スコア※1の変化

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の松山祐輔准教授が実施した研究により、無歯顎(自分の歯が一本もない状態)が孤独感を増やすことが明らかになりました。この研究は文部科学省科学研究費補助金のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Dental Researchに、2024年8月5日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 孤独感は、多くの健康問題のリスクを増加させることが知られています。口腔は、人と話す、笑うなどの社会的コミュニケーションを促進する重要な役割を果たします。しかし、口腔の問題が孤独感を増加させるのか、因果関係は明らかでありませんでした。本研究は、歯の喪失が孤独感を増加させるか明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

 英国の50歳以上の人を対象とした追跡データ(English Longitudinal Study of Ageing, ELSA)を分析しました。Wave 3 (2006/2007)、5 (2010/2011)、7 (2014/2015)の調査に連続して2回以上参加した人を分析に含めました(7,298人から18,682件の回答; Wave 3の平均年齢64歳)。無歯顎の人の割合は、Wave 3 (2006/2007)、5 (2010/2011)、7 (2014/2015)でそれぞれ12.7%、12.8%、10.6%でした。無歯顎になった人は、天然歯を維持した人に比べて、孤独感スコア※1が平均で0.27(95%信頼区間: 0.03, 0.52)増加しました(図)。その他の背景要因を考慮した固定効果分析の結果、無歯顎と孤独感スコアの増加との間に有意な関連※2がみられました(係数 = 0.31、95%信頼区間: 0.17, 0.46)(表)。無歯顎になることで、話す、笑うなどの口腔の社会的機能が低下し、孤独感を増加させることが考えられます。天然歯を維持することで孤独のリスクを減らすことができるかもしれません。

Model 1: 固定効果分析
Model 2: 固定効果分析; 年齢、世帯年収、就労、婚姻状況、主観的健康感、うつ症状、日常生活機能、認知機能、既往歴、喫煙状況を調整

研究成果の意義

 歯の喪失と孤独は、高齢者に広くみられる問題であり、公衆衛生上の重要な課題です。歯を失うことで、会話や食事を楽しむ機会が減少し、孤独感が増加するなどの可能性が考えられます。本研究の結果は、口腔の健康を維持することが、高齢者の孤独感を軽減するための一助となる可能性を示しています。

用語解説

※1孤独感スコア
他人から孤立していると感じる頻度など、3項目で測定。3点から9点の値をとり、数値が大きいほど孤独感を感じていることを示す。
※2統計学的に有意
データで見られた差が偶然では説明できず、何か理由があるということ。
 

論文情報

掲載誌: Journal of Dental Research 

論文タイトル: Complete loss of natural teeth and loneliness: a fixed-effect analysis 

DOI: https://doi.org/10.1177/00220345241263265

研究者プロフィール

松山 祐輔 (マツヤマ ユウスケ) Matsuyama Yusuke
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 准教授
・研究領域
疫学
歯科公衆衛生学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 松山 祐輔 (マツヤマ ユウスケ)
E-mail:matsuyama.ohp[@]tmd.ac.jp
 

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

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