プレスリリース

「 お口のメインテナンスが脳心血管病(CVD)と感染症のリスクを下げる可能性 」【三上理沙子 特任助教】

公開日:2024.7.10
 
「 お口のメインテナンスが脳心血管病(CVD)と感染症のリスクを下げる可能性 」
― 人工透析を受けている方における歯科治療の重要性 ―

ポイント

  • 人工透析を受けている方は年間粗死亡率※1が高く、脳心血管病と感染症が主要な死因です。
  • 10,873名の人工透析患者の診療報酬明細書(レセプト)データ※2を分析したところ、歯科未受診の方と比べてメインテナンスを受けている方は脳心血管病や感染症発生のリスクが低いことが分かりました。
  • 特に肺炎については、メインテナンスを受けている人だけでなく、むし歯治療や抜歯などの治療を受けている人も、歯科未受診の人と比べて、発生リスクが低いことが分かりました。
  • 今後さらなる研究が必要ですが、人工透析を受けている方では、適切な歯科受診が生命予後の改善に有用である可能性が考えられます。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野の三上理沙子特任助教、東京医科歯科大学統合教育機構の石丸美穂特任助教、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授らの研究グループは、順天堂大学との共同研究で、人工透析患者では歯科を受診している方は未受診の方と比較して脳心血管疾患や感染症の発生リスクが低いことを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2024年5月29日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 人工透析を受けられている方は年間粗死亡率が高く、主要な死因は脳心血管病と感染症です。これまでに、歯周病やむし歯などの口腔疾患が人工透析患者さんの死亡率に影響を与える可能性が報告されています。また、歯周病治療が人工透析患者さんの脳心血管病や感染症を抑制することが報告されていますが、歯周病治療以外の歯科治療の効果については研究されていませんでした。一般的に、歯周病治療だけのために歯科医院に通院する方は少なく、むし歯治療、入れ歯の治療、抜歯なども含めた様々な治療が行われることが多く、またそれらの治療が完了した後はメインテナンスのために定期的に通院される方も多いです。そこで我々は人工透析患者さんの中で、むし歯治療、歯周病治療、入れ歯治療などを含めた一般的な歯科治療のために歯科受診をしている方(歯科治療群)、予防的なメインテナンスのために歯科受診している方(メインテナンス群)では、全く歯科を受診していない方(歯科未受診群)と比較して、脳心血管病や感染症といった致命的な合併症の発生率は異なるのではないかと仮説をたて、本研究ではその検証を目的としました。

研究成果の概要

 本研究は、日本のレセプトデータベースを用いて行われました。人工透析を受けられている10,873名の方を対象とし、歯科受診状況により6,152名が「歯科未受診群」、2,221名が「歯科治療群」、2,500名が「メインテナンス群」に割り当てられました。脳心血管病の発生は急性心筋梗塞、心不全もしくは脳梗塞の発生と定義し、感染症は肺炎もしくは敗血症の発生と定義し、歯科受診状況の違いによる脳心血管病や感染症の発生リスクの違いを検討しました。
 分析の結果、メインテナンス群では脳心血管病の発生(調整ハザード比:0.86、95%信頼区間:0.77–0.96)と感染症の発生(調整ハザード比:0.86、95%信頼区間:0.76–0.97)が歯科未受診群と比較して有意に低いことがわかりました。特に、肺炎についてはメインテナンス群(調整ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.61–0.88)だけでなく歯科治療群(調整ハザード比:0.80、95%信頼区間:0.66–0.96)も歯科未受診群と比較して、ハザード比が有意に低いことが分かりました。

【図】 歯科受診状況別脳心血管病と感染症の無発生率の推移

研究成果の意義

 本研究により、適切な歯科受診は人工透析を受けられている方の脳心血管病や感染症という致死的な合併症の発生を抑制し、生命予後の改善に有用である可能性が示唆されました。人工透析を受けられている方は、飲水量の制限や唾液の減少などにより口腔内の環境が悪化しやすいにも関わらず、歯科受診率が低いことが知られています。人工透析治療に関わる医療従事者は口腔環境の重要性を認識し、口腔ケアや歯科受診を促すような対策を講じる必要があると考えられます。

用語解説

※1 粗死亡率:一定期間中の死亡者数を同じ期間の患者数で割って算出した割合のこと。 
※2 診療報酬明細書(レセプト)データ:保健医療機関が医療行為に対する診療報酬を保険者に請求するための情報。病名や行った診療内容が記録されている。
 

論文情報

掲載誌: Scientific Reports

論文タイトル: Preventive dental care reduces risk of cardiovascular disease and pneumonia in hemodialysis population: a nationwide claims database analysis

DOI:  https://doi.org/10.1038/s41598-024-62735-3

研究者プロフィール

三上 理沙子 (ミカミ リサコ) Mikami Risako
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 特任助教
・研究領域
歯周病学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 三上 理沙子(ミカミ リサコ)
E-mail:mikami.peri[@]tmd.ac.jp
 

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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