「 単球を介した急性炎症期の新しい炎症制御機構を発見 」【樗木俊聡 教授】
― 全身炎症の新たな治療法やバイオマーカーの開発へ向けて ―
ポイント
- 敗血症※1やがん治療におけるCAR-T免疫細胞療法※2後のサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome: CRS)※3といった重篤な全身炎症は患者の生命を脅かす一因であり、重症度予測や早期介入の実現が望まれています。
- 私たちは、単球※4が急性炎症の重症度に依存して末梢組織から失われることを、敗血症のマウスモデルやCAR-T細胞療法後にCRSを発症した患者さんで発見しました。
- この末梢組織における単球の減少は、アポトーシスや遊走能の低下によって引き起こされ、炎症の重症化を軽減することが分かりました。
- 本研究の成果は、単球が炎症に対する新たなバイオマーカーや治療標的として有用である可能性を示すものであり、単球が関与する様々な炎症病態への応用が期待されます。
研究の背景
研究成果の概要
研究成果の意義
CRS患者の検体を用いた研究結果は、マウスと同様に人においても炎症強度依存的な単球減少が起こることを証明しました。また、末梢血単球の細胞数が、CAR-T細胞療法を行う前にCRSの重症度を予測するバイオマーカーとして活用できる可能性を示しました。単球数は採血によって簡便に検査することが可能であり、炎症重症度のバイオマーカーとして応用できれば、病態の早期の評価や適正な治療介入に繋がります。
用語解説
※1敗血症:感染に起因する全身炎症を伴い、臓器障害を生じている重篤な病態。世界では、毎年約5,000万人の患者が発生し、1,100万人が死亡している。
※2CAR-T細胞療法:患者自身のT細胞を遺伝子改変することで、がん細胞に反応するCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれるタンパク質を作り出せるT細胞(CAR-T細胞)を作製し、これを用いてがん細胞を除去する新しい免疫細胞療法。治療後に高頻度でCRSのような副作用が引き起こされる。
※3サイトカイン放出症候群:抗体医薬や免疫細胞療法、敗血症などでみられる血中サイトカインの放出による全身性炎症病態。重篤な場合はサイトカインストームに進展する。
※4単球:ヒトでは白血球の1-10%を占めるとされる自然免疫細胞の一種で、炎症や感染症など様々な病態に関与することが知られている。炎症性サイトカインの産生源として機能する他、さまざまな組織でマクロファージや樹状細胞に分化する能力を有する。
論文情報
掲載誌: Frontiers in Immunology
論文タイトル: An early regulatory mechanism of hyperinflammation by restricting monocyte contribution
DOI: https://doi.org/10.3389/fimmu.2024.1398153
研究者プロフィール
樗木 俊聡 (おおてき としあき) Ohteki Toshiaki
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
生体防御学分野 教授
・研究領域
免疫学、組織幹細胞学
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
生体防御学分野 博士課程4年
・研究領域
血液内科学、免疫学
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
生体防御学分野 准教授
・研究領域
免疫学、血液学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 先端分子医学研究部門
生体防御学分野 樗木 俊聡 (おおてき としあき)
金山 剛士 (かなやま まさし)
E-mail:ohteki.bre[@]mri.tmd.ac.jp, kanayama.bre[@]mri.tmd.ac.jp
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