「 生物学的製剤の投与時にHTLV-1感染の確認は必要か? 」【鴨居功樹 講師】
― IL-6阻害薬投与における眼科学的視点からの安全性の検証 ―
ポイント
- HTLV-1は、世界に3000万人以上、日本に100万人前後の感染者が存在し、血液・神経・眼疾患を引き起こすため、世界保健機関(WHO)から全世界で取り組むべき重要な感染症と位置付けられています。
- 近年、炎症性疾患の治療に生物学的製剤の使用が増加しています。結核や肝炎ウイルスなどの感染者に対しては感染病原体の再活性化などのリスクがあるため、投与前に感染の有無の確認がされています。
- 一方、HTLV-1感染者への生物学的製剤の使用の安全性はまだ明確になっていません。
- 眼科学の視点から、代表的な生物学的製剤であるIL-6阻害薬の安全性を評価しました。その結果、HTLV-1感染による主要な病態である眼炎症を引き起こすリスクが低いことがin vitroで確認されました。
研究の背景
また、HTLV-1潜伏感染者(キャリア)は、無症状のため、関連疾患を発症した際の検査で初めて感染が判明することが多く、HTLV-1感染に気づかず暮らしている人が大半です。
生物学的製剤は、これまで抗炎症治療として主要な薬剤であったステロイド・免疫抑制薬に代わり、近年、世界中で多く使用され、難治性炎症性疾患に対する光明となりました。しかし、結核や肝炎ウイルスなどの感染症罹患者に対する生物学的製剤の使用は、感染病原体の再活性化などのリスクがあるため、投与前に感染の有無の確認が必要です。
一方で、これまで、HTLV-1感染者に対する生物学的製剤の投与に関しては情報が少なく、投与前にHTLV-1感染の確認をするべきか明らかではありませんでした。本研究では、日本で開発され、現在多くの炎症性疾患に使用されている生物学的製剤であるIL-6阻害薬に着目し、HTLV-1感染者における使用の安全性を、眼科学的な視点からin vitroで検証しました。
研究成果の概要
まず、細胞毒性の評価を行なったところ、IL-6阻害薬投与によって、HTLV-1感染者の眼内環境における網膜色素上皮細胞の生存率に低下はみられませんでした。(図1)
研究成果の意義
用語解説
※1HTLV-1: Human T-cell Lymphotropic (Leukemia) Virus type-1の略。世界保健機関(WHO)をはじめ、世界中から注目を集めている感染症。日本に多くの感染者が存在し、成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎などの疾患を引き起こす。
※2シグナル伝達経路: 細胞が外部からの信号を受け取り、それを細胞内で伝達し、適切な応答を引き起こす仕組み。
※3STAT3 phosphorylation: IL-6が受容体と結合すると、STAT3がリン酸((活性化)され、特定の遺伝子の発現を促進し、細胞増殖・分化、免疫応答に関与する。
※4サイトカイン: 細胞から分泌され、細胞の増殖や分化などに関与する。
※5ケモカイン: 白血球の遊走と活性化に関わるサイトカイン。
論文情報
掲載誌: International Immunopharmacology
論文タイトル: Evaluating tocilizumab safety and immunomodulatory effects under ocular HTLV-1 infection in vitro
研究者プロフィール
鴨居 功樹 (カモイ コウジュ) Koju Kamoi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 講師
・研究領域
HTLV-1関連眼疾患
眼炎症、眼感染症
眼科手術
張 晶 (チョウ ショウ) Zhang Jing.
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 大学院生
・研究領域
HTLV-1関連眼疾患
眼炎症、眼感染症
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 教授
・研究領域
近視
網膜疾患
眼画像診断
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 鴨居 功樹(カモイ コウジュ)
E-mail:koju.oph[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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