「 共有結合型キナーゼ結合性リガンドを有する高親和性二価型Plk1阻害剤の創製 」【辻耕平 准教授】
― がん関連タンパク質Plk1のより深い理解を目指して ―

ポイント
- がん関連タンパク質polo-like kinase 1 (Plk1)※1に対する高親和性二価型阻害剤を創製しました。
- 今回開発した二価型阻害剤は、Plk1の酵素活性部位 (キナーゼドメイン)※2に不可逆的に結合するリガンド構造を有しており、非常に高い標的親和性に加え、Plk1への強固な結合を示しました。阻害剤としてだけでなく、有望な分子プローブとして、Plk1のさらなる機能解明研究への展開が期待されます。
- これまで解明されていなかった全長Plk1の構造解析研究※3などへの応用が期待できます。

図. Plk1二価型阻害剤およびPlk1のモデル構造と今後期待される成果.
研究の背景
研究成果の概要
Plk1は基質のリン酸化を行う酵素活性部位 (キナーゼドメイン) に加え、そのキナーゼドメインとの分子内タンパク質–タンパク質相互作用によりPk1の活性や局在を調整するポロボックスドメインを有します。ポロボックスドメインはPlkファミリーに特異的な領域であり、その機能阻害も酵素活性阻害同様に抗がん活性を示します。キナーゼドメインは生体内で500種類以上存在するキナーゼ間で高度に保存されているため、しばしばその選択性が問題となります。一方、ポロボックスドメインを有するPlkファミリーは現在までに5種類しか確認されていないため、酵素活性部位を標的としたキナーゼ阻害剤よりも選択性を獲得しやすいと考えられます。以前より本研究グループは、Plk1のポロボックスドメインを標的とした阻害剤の創製研究を行っており、これまでに多くの阻害剤を開発してきました。その中で、キナーゼドメインとポロボックスドメイン双方を標的とした二価型阻害剤の創出に成功しており (図中、二価型阻害剤のキナーゼドメイン結合性リガンドとしてBI2536を有する化合物)、本剤はこれまでに開発した最も高親和性の阻害剤 (図中、ポロボックスドメイン結合性リガンド) からさらに100倍高いPlk1親和性を有することを明らかにしました。本研究では、この二価型阻害剤戦略に基づき、キナーゼドメインと不可逆的な共有結合を形成するリガンド部位として真菌由来の代謝産物であるWortmanninを有する新たな二価型阻害剤を開発しました。今回開発された二価型阻害剤は以前の二価型阻害剤と同様に非常に高いPlk1親和性を有していました。さらに透析操作による遊離化合物の除去実験を行った結果、これら二価型阻害剤は単剤に比べ、強固に標的タンパク質に結合していることが明らかとなりました。
研究成果の意義
用語解説
※2 酵素活性部位 (キナーゼドメイン): リン酸化酵素 (キナーゼ) はATPを利用してその基質となるタンパク質をリン酸化する。そのため、キナーゼはATP結合部位と基質結合部位を有しており、多くのキナーゼにおいてATP結合部位は高度に保存されている。
※3 構造解析研究: X線や核磁気共鳴 (NMR)、クライオ電子顕微鏡などの分析手法を用いて、合成化合物やタンパク質、核酸またはその複合体の構造情報を得る研究分野である。標的分子と化合物の相互作用情報を可視化することにより、構造情報を基にした新たな化合物の合理的な設計が可能となる。
論文情報
掲載誌: RSC Chemical Biology
論文タイトル: Affinity enhancement of polo-like kinase 1 polo box domain-binding ligands by a bivalent approach using a covalent kinase-binding component
DOI: https://doi.org/10.1039/d4cb00031e
研究者プロフィール

辻 耕平 (ツジ コウヘイ) Tsuji Kohei
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 准教授
・研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 辻 耕平(ツジ コウヘイ)
E-mail:ktsuji.mr[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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