プレスリリース

「 HIV-1潜伏感染再活性化剤としての高活性DAG-ラクトン誘導体の創出 」【玉村啓和 教授】

公開日:2024.5.22
 
「 HIV-1潜伏感染再活性化剤としての高活性DAG-ラクトン誘導体の創出 」
― HIV-1の根絶を目指して ―

ポイント

  • ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)感染者の体内からHIV-1を根絶することを目的として、高いHIV-1潜伏感染再活性化※1能を有するジアシルグリセロール(DAG)-ラクトン誘導体※2を創製しました。
  • 今回見出したDAG-ラクトン誘導体は、以前同グループより報告されている化合物と比べて、HIV-1潜伏感染再活性化作用や生体内安定性、タンパク質リン酸化酵素C(PKC)※3の膜への移動作用等に優れていました。
  • HIV感染症/AIDSの根治を目指した治療法開発の可能性があります。
 東京医科歯科大学生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループは、鹿児島大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター抗ウイルス療法研究分野の前田賢次教授グループ、広島大学大学院医系科学研究科(薬)創薬標的分子科学研究室の野村渉教授、昭和薬科大学医薬分子化学研究室の大橋南美講師、東京都福祉保健局健康安全研究センターの吉村和久所長、国立国際医療研究センター研究所難治性ウイルス感染症研究部の満屋裕明理事・所長との共同研究で、高いHIV-1潜伏感染再活性化能を有する効果的なPKCリガンドである新規DAG-ラクトン誘導体を創出しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業「HIV Cureを目指した新規作用機序を有する抗HIV薬開発研究」ならびにAMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌ACS Infectious Diseasesに、2024年5月21日にオンライン版で発表されました。

図 HIV-1潜伏感染再活性化作用(Shock)と新規DAG-ラクトン誘導体9aと26

研究の背景

 ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)感染症/AIDSは、昔は致死的な疾患であると恐れられていましたが、多数の治療薬が開発されたことにより治療可能な疾病となりました。しかし、治療薬の服用ではHIV-1感染症の根治ができないという課題が残っています。すなわち、感染者の体内には必ずHIV-1が潜伏感染しています。そこで、このHIV-1潜伏感染細胞を根絶する方法の開発が望まれています。

研究成果の概要

 以前から本研究グループは、Shock and Killの概念に基づき、HIV-1潜伏感染再活性化剤の創製研究を行っています。Shock and Killは薬剤によりHIV-1潜伏感染細胞を再活性化(Shock)し、プロウイルスDNAからの転写を促進するが、再活性化された細胞は免疫システム等により細胞死(Kill)へ導き、抗HIV剤を併用することにより新規感染を防ぎ、HIV-1感染症を根治する戦略であります。本グループは以前、タンパク質リン酸化酵素C(PKC)の天然のリガンドであるジアシルグリセロール(DAG)の環化誘導体(DAG-ラクトン)にHIV-1潜伏感染再活性化能があることを報告しています。本研究では、DAG-ラクトン誘導体の構造を最適化し、Shock作用やエステラーゼに対する安定性、PKCの膜への移動活性等にも優れた新規DAG-ラクトン誘導体の創出に成功しました。

研究成果の意義

 玉村研究グループが今回創出した新規DAG-ラクトン誘導体は、高いHIV-1潜伏感染細胞の再活性化(Shock)作用を有しており、潜伏感染細胞を感染者の体内から排除できる可能性、ひいては、HIV-1感染症/AIDSを根治できる可能性が示唆されました。また、このDAG-ラクトン誘導体を使用する方法は、HIV-1感染症/AIDSの新しい治療法へと発展すると期待されます。

用語解説

※1 HIV-1潜伏感染再活性化: HIV-1の感染者は、いくつかの治療薬を併用することにより、体内で産生されるウイルス量を検出限界以下に減らすことができるが、患者の体内の細胞の中に組み込まれたHIV-1(遺伝子)を排除することはできず、潜伏感染が続いている。この潜伏感染細胞を特有の薬剤により再活性化し、プロウイルスDNAからの転写を促進して、新しいHIV-1粒子を放出する。潜伏感染細胞を根絶しないと、HIV-1感染症/AIDSは根治できない。
※2 ジアシルグリセロール(DAG)-ラクトン誘導体: ジアシルグリセロール(DAG)はタンパク質リン酸化酵素C(PKC)の天然のリガンドである。しかし、DAGはホルボールエステルよりPKCに対する結合活性が格段に低いので、Marquezらは、コンフォメーションを固定化するために直鎖状のDAGをガンマ-ラクトン環へ環化したDAG-ラクトンを創出した。DAG-ラクトンは、ホルボールエステルに匹敵するPKC結合活性を有するPKCリガンドである。
※3 タンパク質リン酸化酵素C(PKC): タンパク質リン酸化酵素C(PKC)は、西塚らによって1977年に発見された、リン脂質とカルシウム依存性のセリン、スレオニンリン酸化酵素である。PKCは、ジアシルグリセロール(DAG)やホルボールエステル等によって特異的に活性化され、さまざまな情報伝達に関与する。

論文情報

掲載誌: ACS Infectious Diseases

論文タイトル: Discovery of potent DAG-lactone derivatives as HIV latency reversing agents

DOI: https://doi.org/10.1021/acsinfecdis.4c00194

研究者プロフィール

玉村 啓和 (タマムラ ヒロカズ) Tamamura Hirokazu
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 教授
・研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 玉村 啓和(タマムラ ヒロカズ)
E-mail:tamamura.mr[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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  • 「 HIV-1潜伏感染再活性化剤としての高活性DAG-ラクトン誘導体の創出 」