プレスリリース

「 日本人の高血圧に健康格差が存在。格差は拡大傾向 」【相田潤 教授】

公開日:2024.4.24
 
「 日本人の高血圧に健康格差が存在。格差は拡大傾向 」
― 肥満、飲酒、喫煙、運動不足が格差を一部説明 ―

ポイント

  • 健康格差の解消は国の政策「健康日本21(第二次、三次)」の主要な目標。
  • 2009~2015年に特定健診・特定保健指導(メタボ健診)に参加した40~74歳、延べ1億人を超えるデータを分析。
  • 所得が低い人ほど高血圧が多いという健康格差および格差の経年的な拡大傾向を確認。
  • 格差を説明する要因として、男性では飲酒と肥満が、女性は肥満が大きな役割。
  • 運動不足は経年的に格差を説明する割合を増加、降圧薬を服用している女性では喫煙が格差を説明する割合が比較的大きかった。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の相田潤教授の研究グループは、京都大学、大阪国際がんセンターとの共同研究で、ビッグデータを用いて日本人の高血圧の健康格差とそれを説明する行動について分析を行いました。その結果、経年的な高血圧の格差の拡大傾向や、肥満などが格差に寄与する修正可能なリスク要因として重要であることが明らかになりました。本研究成果は、国際科学誌Hypertension Researchに、2024年3月5日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 健康格差は所得などによる健康の差異で、健康格差の解消は国の政策である「健康日本21(第二次および三次)」の基本的な方向の1番目に健康寿命の延伸と並んで位置づけられています。高血圧は、心血管疾患、脳卒中、認知症、慢性腎臓病の主要なリスク要因である上、有病率が非常に高いため、公衆衛生上の大きな問題です。健康行動の格差は、高血圧の健康格差に寄与している可能性がありますがこのことを調べた研究は近年は特に少なく、解析方法も古典的です。本研究では、健康格差の解消方法を探るため、修正可能なリスク要因が、高血圧の所得による健康格差をどの程度説明するかを検討しました。

研究成果の概要

 2009年から2015年までのレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の特定健診・特定保健指導(メタボ健診)に参加した40~74歳、延べ1億人を超えるデータを繰り返し横断研究として解析に用いました。健診受診場所の市町村の平均所得を、社会経済状況の指標として用いて分析をしました。

図.所得と修正可能な要因の関係

 男性延べ68,684,025人の平均年齢は54.7歳(SD=9.6)、女性延べ59,118,221人の平均年齢は56.7歳(SD=10.0)でした。高血圧の有病率は、高所得者層(男性33.3%、女性21.5%)よりも低所得者層(男性48.6%、女性40.2%)の方が高いという健康格差が認められました。健康格差は経年的に増加する傾向がありました。高血圧の定義を血圧だけとして、降圧薬の有無で層別した分析も実施したところ、降圧薬を使用していない人の方が健康格差が大きかったです。図のように所得が低いほど不健康な行動や肥満が多いという傾向にありました。ただし、女性においては所得が高いほど喫煙や飲酒が多かったです(図では、年齢などを考慮していない単純な関係性を見ています)。修正可能なリスク要因は、所得と高血圧の関連を男性で10.6%、女性で15.1%説明しました。男性では、飲酒と肥満が高血圧の格差をそれぞれ8.8%と5.5%を説明しました。女性では肥満が18.8%を説明しました。運動不足(1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施にいいえと回答)は経年的に格差を説明する割合を増加させていました。降圧薬を服用している女性では、喫煙が5.5%を説明し比較的高かったです。

研究成果の意義

 日本人成人における高血圧には健康格差が存在し、修正可能なリスク要因は格差を部分的に説明しました。このことは、これらのリスク要因を改善することで、高血圧の健康格差が縮小することを示唆しています。一方で、高血圧の健康格差が経年的に増加していたことから、格差への対策が求められます。
 健康格差は、さまざまな環境により生じており、自己責任で解消するものではないことが知られています。そのため、肥満予防や禁煙の健康教育といった方法の効果は低く、むしろ経済的に豊かで余裕がある人の健康だけを改善して、貧しい人の改善には寄与しないことが多いです。職場での健康的な食事の提供や、禁煙や禁酒につながる税制、運動する余裕ができる勤務時間など、人々を取り巻く環境へのアプローチが大切です。

論文情報

掲載誌: Hypertension Research

論文タイトル: Modifiable risk factors of inequalities in hypertension: analysis of 100 million health checkups recipients

DOI:  https://doi.org/10.1038/s41440-024-01615-9

謝辞

 本研究は厚生労働科学研究費補助金等(H28-Jyunkankinado-Ippan-008, 19FA2001, 22FA2001)の補助を受けて行われました。

研究者プロフィール

相田 潤 (アイダ ジュン) Aida Jun
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 教授

・研究領域
公衆衛生学、社会疫学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 相田 潤(アイダ ジュン)
E-mail:aida.ohp[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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