プレスリリース

「 アレルギーを抑えるマクロファージが誘導される過程を解明 」【三宅健介 特任助教】

公開日:2024.3.12
「 アレルギーを抑えるマクロファージが誘導される過程を解明 」
― 皮膚アレルギーを抑える新たな治療法の開発に期待 ―

ポイント

  • 皮膚アレルギーを抑えるマクロファージの存在はわかっていましたが、マクロファージによるアレルギー抑制の仕組みはよくわかっていませんでした。
  • 研究グループは、マウス慢性皮膚アレルギーモデルを1細胞RNAシーケンス※1手法により解析することで、アレルギーを抑えるマクロファージの分化・誘導経路を解明しました。
  • アレルギーを抑えるマクロファージは速やかに死んだ細胞を除去することで、皮膚炎症の終焉を導いていることを突き止めました。
  • 本知見をさらに発展させることで、アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギーの新規治療法の開発へとつながることが期待されます。
 東京医科歯科大学 高等研究院 炎症・感染・免疫研究室の三宅健介特任助教、伊藤潤哉大学院生、髙橋和総大学院生、烏山一特別栄誉教授と教養部の中林潤教授の研究グループは、順天堂大学、東京理科大学、ケープタウン大学との共同研究により、皮膚アレルギー炎症局所の1細胞RNAシーケンス解析をおこない、皮膚にやってきた炎症性単球※3がアレルギーを抑制するマクロファージへと変化していく仕組みを解明しました。この研究は、文部科学省科学研究費基金・補助金、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、かなえ医薬振興財団、大山健康財団、東京医科歯科大学 次世代研究者育成ユニット、東京医科歯科大学 重点領域研究、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム、JST ACT-X「生命現象と機能性物質」(課題番号:JPMJAX232I)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Nature Communicationsに、2024年2月23日にオンラインにて発表されました。

研究の背景

 我が国においてアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患の罹患者数は非常に多く、患者のQOL低下や医療費負担の増加が社会的に問題となっています。しかしながら、アレルギーの病態には未だ数多くの不明点が残されており、その病態の解明が求められています。
 研究グループは以前、慢性皮膚アレルギー炎症のモデルマウスを開発し、抗体の一種であるIgEと希少な免疫細胞である好塩基球※2がアレルギーの本アレルギーモデルの誘導に重要であることを明らかにしてきました。さらに、本アレルギーモデルマウスにおいて、末梢血を循環する炎症性単球が皮膚へとやってきて炎症収束型のマクロファージへと変化することで、アレルギー炎症を抑制することを解明しました。しかしながら、この炎症収束型のマクロファージが、どのような経路で誘導され、さらにどのようにアレルギーを抑制しているのか、その仕組みはよくわかっていませんでした。

研究成果の概要

 アレルギーモデルマウスにおいて炎症を抑えるマクロファージの性質を調べるため、研究グループは、アレルギーが起こっている現場に存在する1つ1つの細胞の遺伝子発現を網羅的に調査できる手法である1細胞RNAシーケンス解析を用いて、アレルギーが起こった皮膚の細胞を解析しました。その結果、血中を循環する炎症性単球が皮膚に入ってきたのち、まず中間型のマクロファージへと変化したのち、最終的に炎症抑制型のマクロファージへと変化していくことが分かりました。さらなる解析から、好塩基球の産生するインターロイキン-4(IL-4)が炎症性単球に作用することで、炎症性単球から炎症抑制型のマクロファージへの変化を、惹き起こしていることが明らかになりました。さらに詳細に炎症抑制型のマクロファージの性質を調査したところ、このマクロファージは死細胞や炎症分子を食べこむ能力が非常に高いことがわかりました。反対に、炎症性単球が皮膚に入り込めないマウスであるCCR2欠損マウスでは、炎症現場において炎症抑制型マクロファージの数が極端に減少し、除去されないまま残った死んだ細胞が炎症性分子(インターロイキン-1α)を分泌することで、アレルギー炎症が悪化し、アレルギー症状が長引いてしまうことを発見しました。
 以上のように、本研究では炎症性単球が皮膚に入った後に段階的に炎症収束型マクロファージに変化していく過程を、1細胞RNAシーケンス解析を用いて精密に解析することで解き明かしました。さらに、炎症収束型マクロファージが速やかに死んだ細胞の除去を行うことで、アレルギーが悪化しないように抑えていることを発見しました。

図:炎症性単球が炎症収束マクロファージへと段階的に変化し、速やかに死んだ細胞を取り除くことで、アレルギー炎症を収束へと導く

研究成果の意義

 本研究において、「炎症を悪化させる細胞(炎症性単球)」が「アレルギーを抑制する細胞(炎症抑制マクロファージ)」に変化していく過程を追跡することに成功しました。さらに、アレルギーを抑制するマクロファージが炎症性単球から誘導される仕組みをより詳しく解析することで、アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー炎症を効率的に抑制できる有望な治療標的の開発につながることが期待されます。

用語解説

※11細胞RNAシーケンス・・・・・・・・一つ一つの細胞に含まれるRNAを、次世代シーケンサーを用いて配列決定し、細胞内に存在するRNAの量と種類を網羅的に解析する技術。RNAの発現パターンから細胞集団を複数のグループに分類することや、ある細胞が別の細胞へと変化する過程を予測することが可能である。
※2好塩基球・・・・・・・・血中を流れる白血球のなかで0.5%ほどしか存在しない希少な免疫細胞であるが、寄生虫感染に対する防御やアレルギーの原因として注目されている。IgE刺激やインターロイキン3、インターロイキン33など様々な刺激によって活性化し、IL-4を分泌し、アレルギー炎症を引き起こす原因となることが明らかになっている。
※3炎症性単球・・・・・・・・血中を流れる白血球の1つである単球のなかでも主要なグループの1つ。もとは炎症を惹き起こす細胞と考えられていたためこのように名付けられたが、最近は炎症性単球が炎症抑制型マクロファージへと変化することも報告されている。皮膚などの末梢組織に入り込んだのちに、マクロファージや樹状細胞へと変化し、末梢組織の免疫反応に関与する。
※4インターロイキン(IL)・・・・・・・・免疫細胞が産生、放出するタンパク質の1つであり、30種類以上の存在が確認されている。IL-4は外部からの刺激によって好塩基球が多量に産生する代表的なタンパク質であり、寄生虫感染やアレルギー炎症に関与する分子である。IL-4の受容体を標的とした抗体医薬がアトピー性皮膚炎に奏功することが明らかになり、治療薬として用いられている。

論文情報

掲載誌:Nature Communications

論文タイトル:Single-cell transcriptomics identifies the differentiation trajectory from inflammatory monocytes to pro-resolving macrophages in a mouse skin allergy model

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-46148-4

研究者プロフィール

三宅 健介 (ミヤケ ケンスケ) Miyake Kensuke
東京医科歯科大学
高等研究院 炎症・感染・免疫研究室 特任助教
・研究領域:免疫学、アレルギー
烏山 一 (カラスヤマ ハジメ) Karasuyama Hajime
東京医科歯科大学
高等研究院 炎症・感染・免疫研究室 特別栄誉教授
・研究領域:免疫学、アレルギー

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 高等研究院 卓越研究部門
炎症・感染・免疫研究室 三宅 健介(みやけ けんすけ)
E-mail:miyake.mbch[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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