プレスリリース

「 Polarization-sensitive OCTを用い、生体眼内で眼球の最外層に位置する強膜の線維構造を広範囲に詳細に可視化 」【大野京子 教授】

公開日:2024.3.8
「 Polarization-sensitive OCTを用い、生体眼内で眼球の最外層に位置する    
強膜の線維構造を広範囲に詳細に可視化 」
― 病的近視など眼球変形疾患の病態解明と新規治療への貢献―

ポイント

  • 新技術のPolarization-sensitive OCTを駆使し、眼球の最外側に位置する強膜の線維構造を生体眼で初めて広範囲にわたり詳細に可視化しました。
  • 正常から病的な変化まで、強膜の層ごとの詳細な線維構造を明確に捉えることが可能になりました。
  • 形状異常を引き起こす疾患の病態解明と、強膜線維への焦点を当てた画期的な治療法の開発が期待され、これにより強膜の異常が引き起こす神経組織の損傷を未然に防ぐ可能性が広がります。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 眼科学分野の大野京子教授と五十嵐多恵助教の研究グループは、株式会社トーメーコーポレーションとの共同研究で、polarization-sensitive OCT(偏光感受型光干渉断層計 ※1)という新たな技術を用い、生体眼で広範囲の強膜の線維構造を可視化することに成功しました。研究成果は、国際科学誌JAMA Ophthalmology (ジャマ オフタルモロジー)に、2024年3月7日午前11時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

強膜は眼球の最外層にあるコラーゲン線維から成る組織で、眼球内の網膜や視神経などの神経組織を保護する重要な役割を有しています。そのため、強膜の形状に異常が生じると、失明につながる種々の合併症を引き起こしますが、これまで強膜については生体眼では厚さの測定しかされておらず、線維走行などの詳細を眼球広範囲で行うことは不可能でした。

研究成果の概要

 研究グループは、polarization-sensitive OCTという新技術を用いて、生体眼における強膜の線維構造を眼底の広範囲において可視化することに成功しました。その結果、強膜は線維構造が異なる、内層と外層に区別され、内層は視神経周囲から周辺に向けて放射状に走行していること、一方、外層は内層の線維と直行するように垂直方向に走行することが明らかになりました(図1)。強膜の形状が異常になる代表疾患であるドーム状黄斑では、内層の線維のみが黄斑部に凝集して肥厚していたものの、外層線維はむしろ圧排され菲薄化していました。正常の状態においても、強膜の内層と外層は全く異なる線維走行を有し、強膜の形状異常を来す疾患においても、どちらかの層の線維の異常が優位に関与することが示されました。

図1. PS-OCTで観察された強膜繊維の走行(視神経から放射状に走行する)

研究成果の意義

 これまで厚さというパラメータしかなかった強膜に対し、生体眼において、眼底広範囲の強膜の層別の線維構造や役割の違いを可視化することにより、神経組織の損傷を起こすような強膜の形状異常の種々の病態の病因解明や新規治療の確立につながると期待されます。

用語解説

※1Polarization-sensitive OCT (偏光感受型光干渉断層計、PS-OCT): 様々な眼疾患に対する治療方針を決定する重要な手段の一つとして、眼底の断層画像を非侵襲・非接触で測定する光干渉断層計(Optical Coherence Tomography、OCT)が眼科臨床において広く用いられている。従来のOCTは眼底へ近赤外光を照射し眼底の様々な深さから反射された光の強さを測定しており、その深さ分解能は数マイクロメートルである。強膜の主成分はコラーゲン線維であり、その集合体であるコラーゲン線維束はマイクロメートルオーダーに達するため、OCTを用いて線維束からの反射光を捉えることは従来から可能であったが、強膜内で密に折り重なった線維束の密度や方向を測定することは困難であった。一方で強膜のコラーゲン線維はナノオーダーの周期的な微細構造が集積して出来ており、このような微細構造は構造性複屈折と呼ばれる特殊な光学特性を持つことが知られている。この構造性複屈折は線維が密になるほど強くなり、その軸の向きは線維方向に直接対応する。構造性複屈折を測定するには、光の振動の偏り、すなわち偏光を測定する必要がある。本研究では従来のOCTを発展させて偏光を測定できるPS-OCTを開発し、このような強膜が持つ構造性複屈折を3次元的に測定・解析し、眼底強膜の線維走行を非侵襲・非接触で明らかにすることができた。

論文情報

掲載誌:JAMA Ophthalmology

論文タイトル:Polarization-Sensitive Optical Coherence Tomographic Imaging of Scleral Abnormalities in Eyes with High Myopia and Dome-Shaped Macula

DOI:https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2024.0002

研究者プロフィール

大野 京子 (オオノ キョウコ) Kyoko Ohno-Matsui
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 教授
・研究領域
近視・網膜疾患、眼画像診断
五十嵐 多恵 (イガラシ タエ) Tae Igarashi-Yokoi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 助教
・研究領域
近視・網膜疾患、小児眼科、眼画像診断
山成 正宏 (ヤマナリ マサヒロ) Masahiro Yamanari
株式会社トーメーコーポレーション 技術部 主幹
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 眼科学分野 非常勤講師
・研究領域
生体医用光学、光干渉断層計

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
眼科学学分野 氏名 大野京子(オオノキョウコ)
       氏名 五十嵐多恵(イガラシタエ)
E-mail:k.ohno.oph[@]tmd.ac.jp

株式会社トーメーコーポレーション 技術部
山成正宏(ヤマナリマサヒロ)
E-mail: m-yamanari[@]tomey.co.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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