プレスリリース

「高齢誤嚥性肺炎患者では、入院時の口腔健康状態が悪いほど、入院日数が長い」【山口浩平 講師】

公開日:2024.1.15
「高齢誤嚥性肺炎患者では、入院時の口腔健康状態が悪いほど、入院日数が長い」
―入院時の簡易な口腔・嚥下評価の重要性、より一層の医科歯科連携推進を―

ポイント

  • 入院時の口腔健康状態が不良なほど、入院日数が長いことがわかりました。
  • 入院時の経口摂取度が良好なほど、退院時の経口摂取度も良好なことがわかりました。
  • 入院時の簡易な口腔・嚥下評価が、院内転帰の有用な予測因子だと示されました。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授と山口浩平講師、順天堂大学総合診療科の内藤俊夫教授、宮上泰樹助教らの研究グループは、高齢誤嚥性肺炎患者において入院時の口腔健康状態が不良なほど入院日数が長いことを明らかとしました。この研究成果は、国際科学誌 European Geriatrics Medicineに、2024年1月12日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 誤嚥性肺炎※1は日本の死亡原因第6位であり、高齢者肺炎の実に80%が誤嚥性という報告もあります。その主たる要因は口腔内細菌の誤嚥であり、口腔ケアが誤嚥性肺炎発症予防に効果的であることはすでに医療、介護領域で浸透しています。誤嚥性肺炎の背景には摂食嚥下障害※2もあり、摂食嚥下障害が肺炎発症リスクを約10 倍にするという報告もあります。
 しかし、発症後、すなわち誤嚥性肺炎と診断された入院中患者を対象とした前向きコホート研究※3は少なく、入院時の口腔環境が院内転帰にどのように影響しうるかは十分に明らかになっていませんでした。高齢の肺炎患者を対象とした後ろ向き研究※4では(誤嚥性に限りません)、歯科介入が入院日数短縮や退院時の経口摂取確立に寄与することが報告されています。日本は超高齢社会であり、今後、高齢誤嚥性肺炎患者数は増加していくと考えられます。高齢誤嚥性肺炎患者において、口腔健康状態が治療効果に与える影響が明らかになっていけば、口腔の評価、介入の有用性がより明確となり、医科歯科連携をさらに推進することができます。
 そのため、本研究の目的は、高齢誤嚥性肺炎患者を対象に、入院時の口腔健康状態、嚥下状態がその後の院内転帰に及ぼす影響、また、口腔健康状態が入院中にどのように変化するかを前向きコホート研究にて明らかにすることとしました。
 

研究成果の概要

図1. 入院時のOHATの分布

 本研究の対象者は、2021年4月から2022年3月の間に順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターに入院し、誤嚥性肺炎と診断された65歳以上の患者89名でした(平均年齢:84.8 ± 7.9歳、性別(男性): 58.4%)。本研究期間は、特定の歯科医師が週に1度、口腔内の評価、口腔ケア、また、看護師など他職種への口腔衛生管理指導をしました。調査項目は、口腔健康状態をOral Health Assessment Tool (OHAT)、嚥下機能をFunctional Oral Intake Scale (FOIS)、その他、基本情報として年齢、性別、肺炎重症度、臨床的虚弱度を記録しました。肺炎重症度、臨床的虚弱度はそれぞれPneumonia Severity IndexとClinical Frailty Scale (CFS)という専用のスケールを用いました。対象患者の60%以上がCFS7以上、つまり、要介護の状態でした。OHATは、口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目で構成された簡易な評価法で、それぞれの項目を0、1、2の3段階で評価し、数値が高いほど口腔健康状態が不良であることを示します。OHATは歯科医師によって、週に1度、可能な限り退院まで定期的に記録しました。FOISは、経口摂取度の7段階のスケールで、7は食形態の調整が必要ない、嚥下機能良好な状態、1は経管栄養で、一切の経口摂取がない状態を示します。
本調査における、入院時OHATの中央値は7であり、高齢肺炎患者を対象とした先行研究と比較しても口腔健康状態がかなり不良であることがわかりました(図1)。

図2. 高OHAT群、低OHAT群の入院中OHAT経時変化

 また、中央値で2群に分けて、それぞれの群のOHATの経時変化を調査したところ、入院時高OHAT群は、週ごとにスコアが改善していき、8.3から5.3となりました(図2)。また、継続的に口腔評価できた患者内訳から、高OHAT群が占める割合は、入院時は52.8%で、その3週後の評価時は60%となり、長期入院の方は入院時のOHATが高い傾向がありました(図2)。89名のうち、75名が退院しました。入院日数の平均値は、低OHAT群35.6 ± 27.5日、高OHAT群51.7 ± 42.1日であり、かなりばらつきがあり有意差はないものの、高OHAT群が約16日も入院期間が長かったことがわかりました。より詳細な統計解析手法である重回帰分析を用いて、入院時のOHAT、FOISと院内転帰(入院期間、退院時経口摂取度)の関連を調査しました。その結果、年齢、性別、肺炎重症度などを調整しても、入院時OHATは入院期間と有意に関連し、OHATスコアが1上がると、入院日数が5.51日延びることが示されました。同様に、入院時FOISは、退院時FOISと有意に関連しました。以上より、入院時の簡易な口腔、嚥下機能評価が入院期間や退院時の経口摂取度を予測する因子となり得ることがわかりました。

研究成果の意義

 本研究の意義は、前向きコホート研究で入院時の簡易な口腔・嚥下機能評価が高齢誤嚥性肺炎患者の院内転帰の有用な予測因子であると示したことです。入院時の口腔健康状態は入院期間に有意に関連し、また、継続した口腔衛生管理で改善していきます。本研究は、高齢の誤嚥性肺炎患者治療における医科歯科連携の重要性を改めて示しています。本調査で活用したOHATは口腔衛生状態だけではなく、歯の欠損やう蝕、義歯なども含めた包括的な口腔評価でした。う蝕や義歯の状態は定期的な口腔検査、治療を受けていたかに強く依存するので、歯や義歯を良好に保つ重要性も示唆されます。誤嚥性肺炎の特徴の一つは繰り返すことで、繰り返すごとに状態は悪化します。本研究は、入院時に早期退院を目指すことはもちろん、入院前、退院後も含めて、誤嚥性肺炎に対するより効果的な医科歯科連携を模索する上でも重要な知見になると期待されます。

用語解説

※1誤嚥性肺炎・・・・・・・・口腔内などの微生物の誤嚥によって生じる、細菌性肺炎。
※2摂食嚥下障害・・・・・・・・正常な摂食嚥下(食物認知、捕食、咀嚼、嚥下など)が障害されること。
※3前向きコホート研究・・・・・・・・特定の集団に対して、将来に起こる出来事を追跡、観察する研究。
※4後ろ向き研究・・・・・・・・すでに起きた結果から遡り、暴露因子との関連を観察する研究。
 

論文情報

掲載誌:European Geriatric Medicine

論文タイトル:Effect of poor oral health status at hospital admission on in-hospital outcomes of older patients with aspiration pneumonia

DOI:https://doi.org/10.1007/s41999-023-00917-4

研究者プロフィール

山口 浩平 (ヤマグチ コウヘイ) Yamaguchi Kohei
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
摂食嚥下リハビリテーション学分野 講師
・研究領域
高齢者歯科、摂食嚥下リハビリテーション
宮上 泰樹(ミヤガミ タイジュ) Miyagami Taiju
順天堂大学総合診療科学講座 助教
・研究領域
高齢者医療、総合診療、診断学
内藤 俊夫(ナイトウ トシオ) Toshio Naito
順天堂大学総合診療科学講座 教授
・研究領域
総合診療、感染症、HIV
戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
高齢者歯科、摂食嚥下リハビリテーション

 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 
  山口 浩平(ヤマグチ コウヘイ)
E-mail:k.yamaguchi.swal[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

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