プレスリリース

「 希少な免疫細胞の好塩基球がアトピー性皮膚炎治療薬の標的細胞であると判明 」【三宅健介 特任助教】

公開日:2023.10.13
「 希少な免疫細胞の好塩基球がアトピー性皮膚炎治療薬の標的細胞であると判明 」
― PDE4阻害薬のターゲットの一つとして好塩基球の産生するIL-4が浮上 ―

ポイント

  • ホスホジエステラーゼ4(PDE4)※1阻害薬のジファミラスト軟膏はアトピー性皮膚炎の治療薬として2021年に承認されましたが、炎症を改善させる詳細なメカニズムはわかっていませんでした。
  • 研究グループは、マウスモデルを解析することで、ジファミラスト軟膏が希少な免疫細胞である好塩基球※2からのインターロイキン4(IL-4)※3産生を阻害することでアトピー性皮膚炎を改善していることを明らかにしました。
  • ジファミラスト軟膏の作用機序の一端を解明した本研究は、臨床におけるジファミラスト軟膏の適用を考える上でも重要な知見です。
  • ジファミラスト軟膏の標的細胞の一つに好塩基球が存在することが明らかになったことで、好塩基球を標的とした新規アトピー性治療戦略の開発へとつながることが期待されます。
 東京医科歯科大学 高等研究院 炎症・感染・免疫研究室の髙橋和総大学院生、三宅健介特任助教、伊藤潤哉大学院生、烏山一特別栄誉教授と人体病理学分野の大橋健一教授の研究グループは、北里大学医学部免疫学単位の島村雛乃大学院生、末永忠広教授との共同研究により、アトピー性皮膚炎の治療薬であるジファミラストが希少な免疫細胞である好塩基球からのインターロイキン4(IL-4)産生を阻害することで、マウスのアトピー性皮膚炎症状を改善していることをつきとめました。この研究の一部は、大塚製薬株式会社からの委託研究としておこなわれたほか、文部科学省科学研究費基金・補助金、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、かなえ医薬振興財団、大山健康財団、東京医科歯科大学 次世代研究者育成ユニット、東京医科歯科大学 重点領域研究、JST次世代研究者挑戦的研究プログラムの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米国・欧州研究皮膚科学会学術誌である国際科学誌Journal of Investigative Dermatologyに、2023年10月10日にオンラインにて発表されました。

研究の背景

 アトピー性皮膚炎は慢性的、持続的なかゆみや湿疹を特徴とする慢性皮膚疾患です。特に30歳台までの有病率が約10%と高く、患者のQOL低下や医療費負担の増加が社会的に問題となっています。アトピー性皮膚炎の病態には未だ数多くの不明点が残されていますが、最近の研究からIL-4などの2型サイトカインが皮膚炎症状に大きく関与していることが明らかになってきました。アトピー性皮膚炎の治療は、保湿剤などを用いたスキンケア、抗ヒスタミン薬の内服、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などを用いた抗炎症療法が中心でしたが、最近になって炎症に関わる原因分子そのものを標的とした医薬品による治療が可能になってきました。
 PDE4は細胞の機能を制御するサイクリックAMPの分解酵素です。PDE4阻害薬であるジファミラストは、細胞内でPDE4によるサイクリックAMPの分解を阻害することで、細胞内のサイクリックAMPの濃度を上昇させ、炎症細胞からの炎症性サイトカインの分泌を抑える作用を持つと考えられています。特にアトピー性皮膚炎では臨床研究の結果、軽症から中等症のアトピー性皮膚炎患者に対するPDE4阻害薬の有効性が認められ、2021年にジファミラストが治療薬として承認されました。しかし、アトピー性皮膚炎においてPDE4阻害薬がどのような細胞を標的として治療効果を示しているのかはよくわかっていません。そこでアトピー性皮膚炎マウスモデルを用い、ジファミラストの標的細胞について検討を行いました。

研究成果の概要

 研究グループは、まずアトピー性皮膚炎マウスモデルに対するジファミラスト軟膏の効果を検討しました。マウスの耳にハプテン※4であるオキサゾロンを毎日塗布することでアトピー性皮膚炎を引き起こしました。炎症が顕著となった時点(炎症誘導の4日後)からジファミラスト軟膏を毎日塗布したところ、肉眼像が改善され、皮膚における炎症細胞の数も減少していました(図1)。以上から、ジファミラスト軟膏はアトピー性皮膚炎マウスモデルに対して治療効果を持つことが解明されました。
 さらに研究グループは、ジファミラストの塗布により炎症を起こした皮膚におけるIL-4の量が減少することを見出しました。そこで、ジファミラスト軟膏の治療効果は皮膚におけるIL-4産生を抑制することによるためではないかと考え、IL−4欠損マウスを用いた実験を行いました。その結果、ジファミラスト軟膏の治療効果はIL-4欠損マウスでは見られなくなることが分かりました。さらに、本モデルにおけるIL-4の産生細胞を検討したところ、希少な免疫細胞である好塩基球が、皮膚における主要なIL-4産生細胞であることが分かりました。そこで、好塩基球を除去したマウスや好塩基球特異的にIL-4を欠損したマウスを用いてジファミラストの効果を検討したところ、これらのマウスでもジファミラストの治療効果は認められないことが分かりました。以上から、ジファミラストは好塩基球からのIL-4産生を抑制することでアトピー性皮膚炎への治療効果を示すことが解明されました。
 最後に、研究グループはジファミラストが好塩基球によるIL-4の産生を直接阻害するのかを試験管内で検討しました。その結果、ジファミラストは様々な刺激により活性化した好塩基球からのIL-4産生を抑制することが明らかになりました。さらに、RNAシーケンス解析により、ジファミラストを添加した好塩基球の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、ジファミラストはERKシグナル経路を一部抑制することで好塩基球からのIL-4産生を抑制することが示唆されました。

研究成果の意義

 研究グループは、ジファミラストが好塩基球からのIL-4の分泌を阻害することでアトピー性皮膚炎を改善していることをマウスモデルを用いて解明しました(図2)。本研究はマウスモデルを用いた知見ですが、実際のアトピー性皮膚炎患者の皮膚でも、好塩基球が浸潤していることが報告されていることから、患者においても今回の研究と同様のメカニズムによってジファミラストの皮膚炎症が改善されている可能性が十分考えられます。本研究から、ジファミラストによる治療効果に希少細胞である好塩基球が関与する可能性が提示されました。このことは、臨床におけるジファミラストの適用を考える上でも重要な知見となると考えられます。さらに、本研究から、好塩基球や好塩基球の産生する分子がアトピー性皮膚炎の有望な治療標的となることが示唆され、今後の開発の伸展が期待されます。

用語解説

※1ホスホジエステラーゼ4(PDE4)・・・・・・・・細胞内の機能を制御するサイクリックAMPを分解する酵素の1つである。PDE4を阻害することで、細胞内のサイクリックAMPの濃度を上昇させ、炎症性メディエーターの分泌を抑えることができると考えられている。

※2好塩基球・・・・・・・・血中を循環する白血球のなかで0.5%ほどしか存在しない希少な免疫細胞であるが、寄生虫感染に対する防御やアレルギーの原因として注目されている。抗原・IgE刺激やインターロイキン3、インターロイキン33など様々な刺激によって活性化し、IL-4を分泌し、アレルギー炎症を引き起こすことが明らかになっている。

※3インターロイキン(IL)・・・・・・・・免疫細胞が産生、放出するタンパク質の1つであり、30種類以上の存在が確認されている。IL-4は外部からの刺激によって好塩基球が多量に産生する代表的なタンパク質であり、寄生虫感染やアレルギー炎症に関与する分子である。IL-4の受容体を標的とした抗体医薬がアトピー性皮膚炎に奏功することが明らかになり、治療薬として用いられている。

※4ハプテン・・・・・・・・低分子量の物質で単体では免疫反応を起こせないが、高分子量のキャリアタンパク質と結合することで免疫反応を起すようになる物質を指す。オキサゾロン(4-Ethoxymethylene-2-phenyl-2-oxazolin-5-one)はハプテンの1つ。

論文情報

掲載誌Journal of Investigative Dermatology

論文タイトル:Topical application of a PDE4 inhibitor ameliorates atopic dermatitis through inhibition of basophil IL-4 production

DOIhttps://doi.org/10.1016/j.jid.2023.09.272

研究者プロフィール

髙橋 和総 (タカハシ カズフサ) Takahashi Kazufusa
東京医科歯科大学
高等研究院 炎症・感染・免疫研究室
大学院医歯学総合研究科 人体病理学分野 大学院生
・研究領域:免疫学、アレルギー

三宅 健介 (ミヤケ ケンスケ) Miyake Kensuke
東京医科歯科大学
高等研究院 炎症・感染・免疫研究室 特任助教
・研究領域:免疫学、アレルギー

烏山 一 (カラスヤマ ハジメ) Karasuyama Hajime
東京医科歯科大学
高等研究院 炎症・感染・免疫研究室 特別栄誉教授
・研究領域:免疫学、アレルギー

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学高等研究院卓越研究部門
炎症・感染・免疫研究室 三宅 健介(みやけ けんすけ)
E-mail:miyake.mbch[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 「希少な免疫細胞の好塩基球がアトピー性皮膚炎治療薬の標的細胞であると判明」