プレスリリース

「4-フルオロベンゾチアゾール-2-カルボニル基を有するSARS-CoV-2メインプロテアーゼ阻害剤の構造活性相関研究」【玉村啓和 教授】

公開日:2023.9.28
 
「4-フルオロベンゾチアゾール-2-カルボニル基を有する
SARS-CoV-2メインプロテアーゼ阻害剤の構造活性相関研究」
― 新型コロナウイルスに対する高活性阻害剤 ―

ポイント

  • 新型コロナウイルスSARS-CoV-2※1オミクロン株にも有効な新規メインプロテアーゼ阻害剤※2を創製しました。
  • 本阻害剤は、ファイザー社のNirmatrelvir※3よりも高い抗ウイルス活性を有し、体内動態も優れています。HIV感染症/AIDSの有望な治療法開発への応用が期待できます。
  • 新型コロナウイルス感染症COVID-19の有望な治療薬候補品として期待できます。
 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループは、国際医療研究センター研究所難治性ウイルス感染症研究部の満屋裕明所長グループ、NCI/NIH Experimental Retrovirology sectionの満屋裕明ヘッドグループとの共同研究で、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の新規メインプロテアーゼ阻害剤を創製しました。この阻害剤は、オミクロン株にも有効であり、ファイザー社の薬剤Nirmatrelvirよりも約50倍高い抗SARS-CoV-2活性と優れた体内動態を有します。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新規SARS-CoV-2 Mpro/PLpro阻害剤の研究・開発と臨床応用」ならびに文部科学省科学研究費補助金、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Medicinal Chemistryに、2023年9月27日にオンライン版で発表されました。

図 SARS-CoV-2のライフサイクルとそのメインプロテアーゼを標的とした化合物TKB245 (5)/TKB248 (6)

研究の背景

 2019年末に中国・武漢で発生したCOVID-19は、世界中に甚大な災禍をもたらし、3年半以上経った今もなお、時々変異株発生の報告があります。COVID-19の治療薬は、別用途で使用されていた既存の医薬品以外に、SARS-CoV-2のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤(Molnupiravir)やメインプロテアーゼ(Mpro)阻害剤(Nirmatrelvir、Ensitrelvir)等が開発され、臨床で使用されています。しかし、これらは緊急課題として開発されたために、薬効や体内動態面等において必ずしも最適化されているわけではなく、さらに有用な治療薬の開発が望まれています。

研究成果の概要

 本研究グループは2020年春に、Nirmatrelvirと同じターゲットであるMproに着目し、創薬研究をスタートしています。Mproはウイルス RNA より翻訳された巨大なタンパク質から構成タンパク質に切断する酵素です。この酵素を阻害できればウイルスの複製を防ぐことができることから、Mpro は COVID-19 に対して有望な創薬ターゲットとなっています。本研究では、2022年に本研究グループが報告したSARS-CoVの Mpro 阻害剤をもとにして、Nirmatrelvirの分子構造と組み合わせて、ハイブリッド化し、より有用なSARS-CoV-2の Mpro阻害剤を創製しました。結果として、Nirmatrelvirよりも約50倍高い抗ウイルス活性を有する阻害剤TKB245 (5)やTKB248 (6)が創出されました。また、小動物での薬物動態も優れており、祖先株だけでなくオミクロン株にも有効性が示されました。さらに、今回創出したTKB245 (5)やTKB248 (6)は、SARS-CoV-2のMpro阻害剤としてCOVOD-19の有用な治療薬候補品であります。

研究成果の意義

 玉村研究グループが創出したSARS-CoV-2の Mpro阻害剤は、COVID-19治療薬として臨床で使用されているファイザー社のMpro阻害剤Nirmatrelvirと比べ、約50倍高い抗SARS-CoV-2活性を有し、小動物での体内動態も優れています。今回得られた知見は、さらに薬効、体内動態面等のプロファイルが向上したCOVID-19治療薬の創出へつながる可能性があります。

用語解説

※1新型コロナウイルスSARS-CoV-2: 2020年に世界中でパンデミックをもたらした「新型コロナウイルス感染症」COVID-19という疾病を引き起こす原因ウイルスの名称がSARS-CoV-2であり、一般には、「新型コロナウイルス」と呼ばれている。SARS-CoV-2は2019年11月に中国武漢市で発見され、瞬く間に世界中に感染拡大した。2023年9月までに世界で6億9千万人以上が感染、690万人以上が死亡しており、以前の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS)とは伝播性と病原性において明らかに異なるウイルスである。オミクロン株は、 新型コロナウイルスの変異株の一つであり、主に5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類される。現在も、オミクロン株の新たな変異株「BA.2.86系統」が見つかっている。

※2メインプロテアーゼ阻害剤: コロナウイルスは一本鎖RNAをゲノムとして有し、宿主の細胞に感染するとRNAから前駆体タンパク質が翻訳される。この前駆体タンパク質が切断されると、構造タンパク質や酵素が生成し、ウイルスの複製に機能する。この前駆体タンパク質を切断する酵素が、メインプロテアーゼ(Mpro)(別名: 3CLプロテアーゼ)およびパパイン様プロテアーゼである。Mproの切断活性を阻害すれば、ウイルスの増殖を抑制できると考えられ、COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2が同定されると、世界中でMpro阻害剤の探索研究が進められた。ファイザー社のNirmatrelvirや塩野義製薬のEnsitrelvirは、現在臨床で使用されているMpro阻害剤である。

※3 Nirmatrelvir: ファイザー社が開発したMpro阻害剤であり、現在COVID-19治療薬として臨床で使用されている。商品名はPaxlovid (Ritonavirとの合剤)である。日本では2022年2月に特例承認された。

論文情報

掲載誌Journal of Medicinal Chemistry

論文タイトル: Structure–Activity Relationship Studies of SARS-CoV-2 Main Protease Inhibitors Containing 4-Fluorobenzothiazole-2-carbonyl Moieties

DOIhttps://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.3c00777
 

研究者プロフィール

玉村 啓和 (タマムラ ヒロカズ) Tamamura, Hirokazu
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 教授
・研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 玉村啓和(タマムラヒロカズ)
E-mail:tamamura.mr[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

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