「 歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisがオートファジーを抑制することにより心筋梗塞後リモデリングの悪化を促進する分子メカニズムを解明 」【前嶋康浩 准教授】
― 歯周病に起因する他臓器疾患に対する治療法を開発する端緒として期待 ―

ポイント
- 歯周病原菌細菌Porphyromonas gingivalis(P.g.)※1の感染が心血管系に悪影響を及ぼすことは知られていましたが、その詳しい分子メカニズムについてはこれまで解明されていませんでした。今回、前嶋康浩准教授と渡辺由佳非常勤講師の研究グループは、心筋細胞に寄生したP.g.から放出されるジンジパインプロテアーゼがオートファゴソームとリソソームの融合を阻害することによりオートファジーを抑制していることを発見しました。
- P.g.の感染が心筋細胞に悪影響を及ぼすことを分子生物学的に解明することができたため、歯周病と心血管疾患の関わりについての研究の更なる発展への寄与が見込まれます。
- 本研究成果は、P.g.の感染が心血管系のみならず全身臓器に悪影響を及ぼす病態の解明を促進し、新規治療法の開発研究に寄与するものと期待されます。
研究の背景
オートファジー※2は細胞内の不要物の分解やアミノ酸のリサイクルを担当する細胞内機構です。かつて、オートファジーは非選択的な細胞内分解システムと考えられていましたが、近年、ダメージを受けた細胞内の小器官など特定の物質を選択的に分解する「選択的オートファジー」というメカニズムが存在することが分かってきました。このうち、細胞内に侵入した病原体を選択的に除去する役割を担っているのがゼノファジーです。P.g.が歯周組織に常在することができる理由の一つとして、P.g.がゼノファジーを回避するメカニズムを持っている可能性が示唆されてきました。このメカニズムとしてオートファゴソームとリソソームとの融合を阻害することによって自らが分解を受けるのを回避している可能性が想定されていましたが、その詳しい分子メカニズムについては未解明でした。このメカニズムは健全なオートファジーを妨げ、殊に非分裂細胞である心筋細胞などの生存性を脅かす可能性が高く、種々の歯周組織以外の傷害をもたらす重大な病原因子であると考えられています。
このような背景を踏まえて、私たちはP.g.によりオートファジーを抑制する分子メカニズムを解明し、さらにP.g.の感染が心筋梗塞後の心筋に及ぼす影響について検討いたしました。
研究成果の概要

図:P.g.が放出するジンジパインがリソソームに存在するVAMP8を切断し、
オートファゴソームとリソソームの融合を阻害することでオートファジーを阻害する
研究成果の意義
用語解説
※1Porphyromonas gingivalis(P.g.)・・・・・・・・歯周病原細菌の中で最も歯周病の発症と強く関連し、かつ重度の歯周炎に影響を及ぼしているRed Complexに分類される3菌種(P.gingivalis、T.fosythensis、T.denticola)のひとつ。菌体の有する線毛、莢膜、リポ多糖の他にP.g.の産生するシステインプロテアーゼであるジンジパインが強い病原性を発揮する。P.g.は歯周病の病巣局所から分離されるだけでなく動脈硬化症病変などからも分離されていることから、本菌は歯周病原性細菌であると同時に全身疾患にも関与していると考えられている。
※2オートファジー・・・・・・・・全ての真核生物(核を持つ細胞)に備わっている細胞内成分の分解機構。脂質二重膜構造をもつオートファゴソームと加水分解酵素に富むリソソームの働きによって細胞内蛋白質や小器官を分解し、細胞の恒常性を維持する役割を担っている。
※3クリック電子顕微鏡法・・・・・・・・アルキン基とアジド基を持つ2つの有機化合物を、銅イオンの存在下で簡単にかつ安定して結合させる反応であるクリック反応を応用して微細な物質をナノ金粒子でラベリングすることにより、電子顕微鏡を用いて標的物質の細胞内局在を同定する方法。本研究では、アルキン基を導入した細胞壁の成分N-アセチルノイラミン酸を取り込ませたP.g.を培養心筋細胞に感染させて、アジド基を導入した金コロイドとクリック反応を誘導することでP.g.をラベリングした。
論文情報
論文タイトル:Porphyromonas gingivalis, a periodontal pathogen, impairs post-infarcted myocardium by inhibiting autophagosome–lysosome fusion
DOI:https://doi.org/10.1038/s41368-023-00251-2
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 准教授
・研究領域
循環器疾患(心不全、心筋症、動脈硬化症、大型血管炎)の基礎/臨床研究

渡辺 由佳 (ワタナベ ユカ) Shiheido-Watanabe Yuka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 非常勤講師
日本学術振興会 特別研究員RPD
(ラトガース・ニュージャージー医科大学 細胞生物学講座 出向中)
・研究領域
循環器疾患(心不全)と歯周病の関わりについての基礎/臨床研究
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 氏名 前嶋 康浩(マエジマ ヤスヒロ)
E-mail:ymaeji.cvm[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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