プレスリリース

「口腔の健康と健康状態・ウェルビーイングとの関連の網羅的な検証研究」【木野志保 講師】

公開日:2023.9.20
「口腔の健康と健康状態・ウェルビーイングとの関連の網羅的な検証研究」
― アウトカムワイド・アプローチを用いた縦断研究による解明 ―

ポイント

  • アウトカムワイド・アプローチを用いて、口腔の健康状態と複数の健康・ウェルビーイングの指標との関連を同時に網羅的に検証したことにより、口腔の健康状態と死亡が最も頑健な関連性を示すことが明らかになりました。
  • 歯の喪失を予防すること、また歯を失ってしまった場合には歯科補綴治療でこれを回復することにより、死亡率や機能障害の減少、知的能力の維持、外出頻度、食生活の改善と関連する可能性があることが示唆されました。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の木野志保講師と相田潤教授の研究グループは、東北大学、千葉大学、ボストン大学、国立保健医療科学院の研究者と共同し、アウトカムワイド・アプローチを用いて、2013年の口腔の健康と2019年の35の健康やウェルビーイングの指標との関連を同時に網羅的に検証しました。その結果、さまざまな健康状態やウェルビーイングの指標の中で、口腔の健康状態と死亡が最も頑健な関連性を示すことが明らかになりました。口腔の健康を増進すること、また歯を失っても歯科補綴治療でこれを回復することによって、死亡率、身体的機能障害リスクの低減、知的能力の維持、外出頻度、食生活の維持に寄与する可能性があることが示唆されました。この研究成果は、Journal of Prosthodontic Researchにて、2023年8月11日にオンライン版で発表されています。

研究の背景

 口腔の健康とさまざまな全身の健康およびウェルビーイングとの関連は、これまでに数多く報告されていますが、ほとんどの研究では口腔の健康状態と単一の健康状態との関連を検証したものでした。また、これまでの研究では結論が一致しないことがあり、意見が分かれる傾向にありました。本研究では、アウトカムワイド・アプローチを用いて、口腔の健康状態と複数の健康・ウェルビーイングの指標との関連を同時に網羅的に検証することを目的としました。

研究成果の概要

 本研究では、2010、2013、2019年の日本老年学的評価研究の15,905名分の縦断データおよび日本老年学的評価研究と紐づけた32,827名分の2019年の介護保険データを使用しました。口腔の健康状態は、20歯以上、10~19歯で歯科補綴あり、0~9歯で歯科補綴あり、10~19歯で歯科補綴なし、0~9歯で歯科補綴なし、の5つに分類しました。2010年の人口統計学的情報等を考慮した上で、2013年の口腔の健康状態と、2019年の身体・認知・精神的健康、主観的ウェルビーイング、利他的行動、健康行動などを含む35の健康とウェルビーイングの指標との関連を検証しました。その結果、歯が20本以上ある人に比べ、20本未満の人は6年後の死亡リスクが10~33%高く、身体的な機能障害のリスクが6~14%高いことがわかりました。さらに、歯が20本未満の人は、外出の頻度が少なく、野菜や果物を食べる量が少ない傾向にありました。また、残存歯が0~9本で歯科補綴を使用していない人は、重度の身体的な機能障害を有する可能性が高く(リスク比(RR):1.17、95%信頼区間(CI):1.05~1.31)、知的活動が少なく(標準化差:0.17、95%CI:0.10~0.24)、絶望感を感じる割合が高いことが明らかになりました(RR:1.21、95%CI:1.04~1.41)。

研究成果の意義

 口腔の健康増進は、死亡率、身体的機能障害リスクの低減、知的能力の維持、外出頻度、食生活の維持に寄与する可能性があることが明らかになりました。歯の喪失を予防し、また失ってしまった場合には歯科補綴治療でこれを回復することで、死亡率や機能障害の減少、知的能力の維持、外出頻度、食生活の改善と関連する可能性があることを示唆しています。

表:口腔の健康に関する健康状態・ウェルビーイングの35指標の関連
(矢印の数はP値(結果の確からしさ)に基づく。矢印3つ(p<0.0014)は、より確かな関連を示し、矢印2つ(p<0.001)、矢印1つ(p<0.05)と順に結果の確からしさが弱くなることを意味している。また、矢印の向きは指標の確率の方向性を示している。例えば、0-9歯の者は死亡する割合が有意に高く、口腔の健康状態が悪い者ほど果物野菜摂取頻度が有意に低いことを示している。)

図:口腔の健康と死亡のリスク比との関連

謝辞

 本研究はJSPS科研、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)、OPERA、革新的自殺研究推進プログラム、笹川スポーツ財団助成金、健康・体力づくり事業財団助成金、千葉県民保健予防財団助成金、8020推進財団助成金、新見公立大学助成金、明治安田厚生事業財団助成金、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費などの支援を受けて行われました。

論文情報

掲載誌:Journal of Prosthodontic Research

論文タイトル: Exploring the relationship between oral health and multiple health conditions: An outcome-wide approach

DOI:https://doi.org/10.2186/jpr.JPR_D_23_00091

研究者プロフィール

木野 志保 (キノ シホ) Kino Shiho
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 講師(キャリアアップ)
・研究領域
社会疫学、口腔保健学、社会福祉学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 木野志保 (キノ シホ)
E-mail:shiho.kino.ohp[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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プレス通知資料PDF

  • 「 口腔の健康と健康状態・ウェルビーイングとの関連の網羅的な検証研究 」