東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の木野志保講師と相田潤教授の研究グループは、京都大学、大阪医科薬科大学との共同研究で、生活保護受給者は治療および予防のための歯科受診率が受給していない者に比べて低いことを明らかにしました。今後の研究では、生活保護受給者が歯科受診する際の経済的要因以外の障壁を明らかにする必要があることが示唆されました。本研究成果は、国際科学誌Community Dentistry and Oral Epidemiologyにて、2023年8月9日にオンライン版で発表されています。

　生活保護受給者は、医療扶助制度により歯科医療費の支払いが免除されています。東日本大震災後の被災者への医療費無料化が歯科受診率を上昇させたことから、医療費の経済的支援が歯科受診に大きく貢献した可能性が報告されています。そこで生活保護受給者が、受給していない者と比較して歯科受診割合が高いかを検証することで、医療扶助による経済的支援が歯科医療受診の促進につながるかを明らかにすることを目的としました。

　本研究では、2019年の日本老年学的評価研究に参加した高齢者16,366名のデータを使用しました。生活保護受給と歯科受診の関連を、歯の本数、歯の痛み、歯周組織の状態、年齢、性別、同居者数、学歴、等価世帯収入、就労状況、手段的日常生活動作、既往歴、抑うつ症状、手段的支援、地理的ばらつき等を考慮し、検証しました。その結果、生活保護非受給者の半数以上が、過去6ヶ月間に何らかの理由で歯科受診をしていた一方で、受給者の37％しか歯科受診をしていなかったことがわかりました。また、非受給者の半数近くが治療のために受診をしていたのに対し、受給者は34％に留まりました。さらに、非受給者の46％は予防のために歯科を受診していましたが、受給者ではその割合は32％でした。分析結果から、非受給者と比較して、生活保護受給者は何らかの理由のための受診が24％少なく（有病率比[PR]：0.76、95％信頼区間[CI]：0.64、0.90）、治療のための歯科受診が23％少なく（PR：0.77、95％CI：0.65、0.92）、予防のための歯科受診が21％少なかったことが明らかになりました（PR：0.79、95％CI：0.65、0.95）。

　生活保護受給者は、何らかの理由のための歯科受診、治療のための歯科受診、予防のための歯科受診が受給していない者と比較して少ないことが明らかになりました。このことから、生活保護受給者が受けられる医療扶助による歯科治療費の免除という経済支援では、受給者の歯科受診の障壁を緩和できない可能性が考えられます。今後の研究では、生活保護受給者が歯科受診をする際の経済的支援以外の障壁を明らかにする必要があることが示唆されました。

　本研究はJSPS科研、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療開発機構（AMED）、OPERA、革新的自殺研究推進プログラム、笹川スポーツ財団助成金、健康・体力づくり事業財団助成金、千葉県民保健予防財団助成金、8020推進財団助成金、新見公立大学助成金、明治安田厚生事業財団助成金、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費などの支援を受けて行われました。