「 最近の成功を活かして適切な行動を選択する脳の仕組みを解明 」【アライン・リオス助教 礒村宜和教授】
― 成功への期待が大脳基底核の活動を高める ―
ポイント
- ラットで成功(報酬)への期待が高いほど、行動に関わる大脳基底核の黒質と線条体の活動が高まることを見つけました。
- 大脳基底核の黒質のドーパミン細胞も線条体の直接路・間接路細胞も広範に活動が高まりました。
- 従来説に基づく黒質から線条体へのドーパミン作用だけでは広範な活動の高まりを説明できません。
- 適切な行動を学べない精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待されます。
研究の背景
研究成果の概要
研究成果の意義
私たちの日常生活では、過去の行動と結果に基づいて現時点で最適と思われる行動を選択すべき場面が数多くあります。行動の最適化を担う脳の仕組みが損なわれてしまうと、例えば特定の行動に拘りすぎ、行動の切り替えがうまくできなくなってしまいます。今回の研究果は、そのような精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待されます。
用語解説
※1大脳基底核
線条体、淡蒼球、黒質などの神経核(神経細胞の集まり)から構成される。大脳皮質や視床や脳幹と結び付いて、運動調節、学習、動機づけなどの機能を担っている。
黒質から線条体へはドーパミン細胞が出力している。線条体から淡蒼球や黒質へは直接路と間接路と呼ばれるGABA 作動性の連絡がある。
線条体の直接路と間接路はほぼ1:1の割合で存在する淡蒼球や黒質(網様部)への出力経路である。直接路は大脳皮質の活動を亢進する「アクセル」、間接路は大脳皮質の活動を抑制する「ブレーキ」のような拮抗的な働きがあると考えられている。
※2ドーパミン
中枢神経系に存在する神経伝達物質のひとつで、運動調節、学習、意欲、ホルモン分泌調節などに関わる。黒質の緻密部に分布するドーパミン細胞は線条体の背側部(背側線条体)の直接路と間接路の出力細胞にシナプスを直接形成し作用する。ドーパミンはドーパミンD1 受容体を介して直接路細胞を活性化させ、ドーパミンD2 受容体を介して間接路細胞を不活性化すると考えられている。パーキンソン病では黒質のドーパミンが枯渇している。
※3マルチリンク解析
多チャンネル電極で多数の神経細胞の活動(スパイク、活動電位)信号を記録し、それらの出力先を同定する新技術。自発的な順行性スパイクと人為的な逆行性スパイクを軸索上で衝突させるスパイク衝突試験の原理を応用している。
論文情報
論文タイトル:Reward expectation enhances action-related activity of nigral dopaminergic and two striatal output pathways
DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-023-05288-x
研究者プロフィール
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細胞生理学分野 助教
・研究領域
神経生理学
大脳基底核・大脳皮質
野々村 聡 (ノノムラ サトシ) Satoshi Nonomura
京都大学 ヒト行動進化研究センター
特定助教
・研究領域
神経生理学
大脳基底核・大脳皮質
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細胞生理学分野 教授
・研究領域
神経生理学
大脳基底核・大脳皮質
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
細胞生理学分野 氏名 Alain Rios (アライン リオス)
氏名 礒村 宜和 (イソムラ ヨシカズ)
E-mail:aardphy2[@]tmd.ac.jp
isomura.phy2[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。