プレスリリース

「生物進化の観点からみる骨再生と骨粗鬆症」【中村美穂 非常勤講師】

公開日:2023.9.7
「生物進化の観点からみる骨再生と骨粗鬆症」

ポイント

  • バイオインフォマティクス手法を用いて、骨マトリックス非コラーゲン性タンパク質についてのデータベースを構築しました。
  • 本データベースは、30種類の脊椎動物から同定した255種類の骨マトリックス非コラーゲン性タンパク質を含みます。
  • 骨再生、骨粗鬆症および関連する分野の研究において貴重な情報源となることなり、分子メカニズムと新しい薬物標的の特定に大きく貢献することが期待されます。
 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 無機材料分野の中村美穂非常勤講師らの研究グループは、トゥルク大学(フィンランド)、ルビラ イ ビルジリ大学(スペイン)のPere Puigbò博士の研究グループとの国際共同研究で、骨マトリックス非コラーゲン性タンパク質についてのデータベースを構築しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにSigrid Jusélius Foundation の支援のもとで行われたもので、その成果は、Bone Researchに、2023年8月15日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 骨粗鬆症※1は、高齢化社会で最も大きな問題の一つです。年間約900万件の骨折が骨粗鬆症によって引き起こされており、平均して3秒に1つの骨折が発生しています。これは先進国における罹患率と死亡率に大きく影響しています。世界的に平均寿命が延びていることから、骨粗鬆症は生活の質に重大な影響を与える問題となっています。骨粗鬆症を予防できたり、万が一骨折してしまっても治癒を早期化することができれば、私たちの生活の質が改善することが期待されます。
 骨マトリックス※2は構造的および調節的な役割を果たすため、非コラーゲン性有機成分は骨の調節において重要な機能を持ちます。現在、オステオポンチンなどのごく一部の非コラーゲン性タンパク質が骨形成において重要な役割を果たすことが知られています。骨マトリックスには数百の非コラーゲン性タンパク質が含まれていますが、それらがどのように骨再生と骨粗鬆症に関連しているかは明らかにされていません。 

研究成果の概要

 研究グループは、生物が海から陸上での環境に適応するための「生物進化※3」に着目しています。PhyloBoneプロジェクトでは、生物進化の系統学(Phylogenetic analysis)的手法を用いて骨の研究(Bone research)を行っています。プロジェクトの新しい研究では、進化生物学の原則に基づいた新しいアプローチを利用して骨マトリックスを研究し、30種類の脊椎動物から255種類のタンパク質を同定し、データベースを構築し、無料で一般公開(https://phylobone.com/)しました。このデータベースは、骨形成と再生において調節的な役割を果たす可能性がある骨マトリックス内の数百の非コラーゲン性タンパク質を含みます。この成果は、骨再生と骨粗鬆症の研究において、新たな薬物標的の特定、新たな治療法や予防策を見出す可能性を示唆しています。 

研究成果の意義

 PhyloBoneプロジェクトのデータベースはBone Research誌に掲載されました。このSigrid Jusélius Foundationと日本学術振興会によって資金提供された国際共同研究プロジェクトは、ヒトおよびモデル生物の骨マトリックスタンパク質の最も包括的な情報源を提供し、骨再生、骨粗鬆症、力学および生物学の研究分野に影響を与えると考えられます。我々の研究成果は、いくつかの非コラーゲン性タンパク質が骨形成と骨再生を調節するための重要な因子であることを示しています。プロジェクトの今後の展開では、いくつかの骨マトリックスタンパク質について、骨再生と骨粗鬆症における調節的な役割について実験的な証拠を得ることを期待しています。このプロジェクトは、骨再生、骨粗鬆症、および関連する分野の研究において貴重な情報源となることを目指しています。
 

生物進化の系統学的手法を用いた骨の研究
PhyloBoneプロジェクトは、骨細胞外マトリックスの255のタンパク質グループ(28はコラーゲン性、227は非コラーゲン性)のデータベースを構築しました。このデータベースは、骨形成と骨再生の研究においてロバストなツールを提供し、新たな疾患メカニズムを標的とした新規療法開発に寄与し、将来的には骨粗鬆症の新たな治療戦略を提供することを目指します。

用語解説

※1骨粗鬆症
骨量(骨密度)が減る、または骨の質が低下することで骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。いま現在、骨折や、腰・背中の痛みがなくても、骨が弱っていると骨粗鬆症と診断されます。(公益財団法人骨粗鬆症財団HPより)

※2骨マトリックス
骨を構成する細胞外成分で、ビルに例えると、鉄筋に相当するコラーゲン線維とコンクリートに相当するミネラル成分から構成される複合マテリアルです。

※3生物進化
生物が長い時間をかけ、何度も世代を経る間に変化すること。生物の遺伝的特徴に伴い、形態・生理・行動が変化し、生息する環境に適応する。

論文情報

掲載誌:Bone Research

論文タイトル: Phylobone: A comprehensive database of bone extracellular matrix proteins in human and model organisms

https://www.nature.com/articles/s41413-023-00281-w

DOI:https://doi.org/10.1038/s41413-023-00281-w
 

データベース

研究者プロフィール

中村美穂 (ナカムラ ミホ) Nakamura Miho
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 非常勤講師
トゥルク大学 グループリーダー・非常勤教授(フィンランド)
ペレ プッチボPere Puigbò
senior researcher at Eurecat, Technology Center of Catalonia 
Rovira i Virgili University (ルビラ イ ビルジリ大学) 准教授(スペイン)
University of Turku (トゥルク大学) 非常勤教授(フィンランド)

・研究領域
骨再生
バイオマテリアル

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 非常勤講師
トゥルク大学 グループリーダー・非常勤教授
中村美穂(ナカムラ ミホ)
E-mail:miho.bcr[@]tmd.ac.jp, miho.nakamura[@]utu.fi 

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

プレス通知資料PDF

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