プレスリリース

「歯みがきが一部の高齢者の肺炎の発症を減少させる可能性」【相田潤 教授】

公開日:2023.9.6
「歯みがきが一部の高齢者の肺炎の発症を減少させる可能性」
― 機械学習を用いた高齢者の疫学データ解析 ―

ポイント

  • 病院や施設で行われる専門的な口腔ケアと肺炎発症の関連は報告されていますが、家庭で行う日常的な口腔ケアである歯みがきとの関連は明らかではありませんでした。
  • 肺炎球菌ワクチンを未接種の高齢者では、1日3回以上歯をみがく人と比べて、1日に1回以下しか歯をみがかない人は、1.57倍肺炎の経験が高かったです。
  • 肺炎球菌ワクチンを接種していない免疫力が弱い高齢者では、口腔内細菌で肺炎を起こす可能性があり、そのため歯みがきで肺炎予防の効果が認められるという可能性が示唆されました。
  • 横断研究であるため、今後の時系列的に追跡するコホート研究などによる検証が必要です。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授、井上裕子特任研究員の研究グループは、東北大学、新潟大学、JAGESグループとの共同研究で、高齢者の人々が家庭で日常的に行う歯みがきが肺炎予防に効果があることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに厚生労働科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌The Journals of Gerontology Series Aに、2023年7月10日に紙面で発表されました。

研究の背景

 これまでの口腔ケアと肺炎の研究の多くは、病院や施設で行われる医療職種や介護職種による専門的な口腔ケアの効果を調べていました。だれもが家庭で行う日常的なセルフケアである歯みがきの肺炎予防効果は明らかではありませんでした。また、肺炎球菌ワクチン接種の有無により肺炎に対する免疫力が変わるため、それが歯みがきの効果に影響を与る可能性もありますが、我々の知る限りでは、そうした観点を考慮して検討した研究はありませんでした。そこで、本研究では、要介護認定を受けていない高齢者を対象に、肺炎球菌ワクチン接種の経験を考慮して、日常的な歯みがきと、過去1年間の肺炎経験との関係を明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

 この研究は、2016年の日本老年学評価研究(JAGES)のデータを用いた横断研究です。歯みがき回数と過去1年間の肺炎経験との関連を、過去5年以内の肺炎球菌ワクチン接種の有無によって層別化し、バイアスを低減し、従来の解析方法より信頼性のある結果が得られる機械学習を用いて分析をしました。調整変数には、性別、年齢、教育歴、等価年収、脳卒中の既往歴、口腔内の健康状態(むせ、口乾、歯の本数)、喫煙状況が含まれています。これらの情報は質問紙調査で収集しました。
 解析対象は65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者17,217人(平均年齢73.4±5.8歳,男性46.1%)でした。過去5年以内に肺炎球菌のワクチン接種を受けた人は43.4%、受けていない人は56.5%でした。全体では対象者の4.5%が過去1年間に肺炎を経験し,ワクチン接種群で4.6%、非ワクチン群では4.5%が肺炎を経験していました。
 歯みがきが1日に1回以下の人の場合、肺炎を経験した割合は、ワクチン接種群では、4.5%、非接種群では、5.3%でした(図)。機械学習を用いた分析の結果、肺炎球菌ワクチン未接種群では、歯みがき1日に1回以下の群では、1日3回以上の群と比較して、肺炎経験を有するオッズが1.57倍(95%信頼区間:1.15-2.14)となりました(表)。一方、肺炎球菌ワクチン接種を受けた群では、歯みがきの回数と肺炎経験との間には有意な関連は見られませんでした。このことから、ワクチン未接種の高齢者では、日常的な歯みがきの回数が多いことが肺炎経験の減少に影響がある可能性が示唆されました。

研究成果の意義

 これまで、口腔ケアと肺炎の関連の研究は、入院患者や施設居住者を対象とすることが多かったですが、本研究では要介護認定を受けていない自立した高齢者を対象とし、肺炎球菌ワクチン接種を考慮しました。
 本研究結果から、肺炎球菌ワクチンを接種していない免疫力が弱い高齢者では、口腔内細菌で肺炎を起こす可能性があり、そのため歯みがき回数が多い場合に肺炎予防の効果が認められるという可能性が示唆されました。ただし、本結果は、歯みがきをすれば肺炎球菌ワクチンをうたなくていいということを意味しません。肺炎球菌ワクチンを接種して、歯みがきもきちんと行うことが、肺炎や歯科疾患の予防に重要です。
 

図. 肺炎球菌ワクチン接種別の歯みがき回数と肺炎経験割合の関連

表. 肺炎球菌ワクチン接種別の、歯みがき回数と、過去1年間の肺炎の経験割合(%)
*性別、年齢、教育年数、等価年収、脳卒中の既往、口腔内の健康状態(むせ、口渇、歯の本数)、喫煙の有無の影響を考慮した解析です。

論文情報

掲載誌:The Journals of Gerontology Series A

論文タイトル:Oral self-care, pneumococcal vaccination, and pneumonia among Japanese older people, assessed with machine learning

DOI:https://doi.org/10.1093/gerona/glad161

研究者プロフィール

井上 裕子(イノウエ ユウコ) Inoue Yuko
東京医科歯科大学大学院
健康推進歯学分野 特任研究員
・研究領域
歯科疫学、公衆衛生学
相田 潤 (アイダ ジュン) Aida Jun
東京医科歯科大学大学院
健康推進歯学分野 教授
・研究領域
社会疫学、歯科疫学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 相田 潤 (アイダ ジュン) 、井上 裕子(イノウエ ユウコ)
E-mail:aida.ohp[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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