プレスリリース

「 膵臓がん内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が膵臓がんの予後と関係があることを世界で初めて発見 」【絹笠祐介教授 徳永正則准教授 奥野圭祐助教】

公開日:2023.9.5
膵臓がん内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が膵臓がんの予後と関係があることを世界で初めて発見
今後の膵臓がんの発癌機序の解明や新規治療薬の開発に期待

ポイント

  • 近年の研究から、皮膚や腸内の常在真菌であるマラセチア・グロボーサは腸内から膵臓に移行し、膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されています。
  • 本研究では、膵臓がんの手術組織検体を用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が、膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発リスクと関係していることを世界で初めて明らかにしました。
  • 本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの解明や、マラセチア・グロボーサをターゲットにした新規治療薬の開発が期待されます。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化管外科学分野の絹笠祐介教授、徳永正則准教授、奥野圭祐助教の研究グループは、米国シティオブホープ ナショナルメディカルセンター ベックマン研究所のAjay Goel(アジェイ・ゴエル)教授、米国トランスレーショナル・ゲノミクス研究所のDaniel Von Hoff(ダニエル・ファン・ホッフ)教授との共同研究で、膵臓がんの腫瘍内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が、膵臓がん患者の生命予後や術後再発と関係していることを世界で初めて明らかにしました。この研究は米国国立がん研究所助成金、米国国立衛生研究所助成金等のもとにおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Gastroenterology(ガストロエンテロロジー)に2023年4月28日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 おおよそ220~390万種の真菌(カビ)が人間の皮膚や体内に常在しており、人間の栄養や代謝、免疫、様々な身体器官の生理機能などに大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきています。近年、がん患者で真菌が多く検出されることなどから、真菌と発がんやがんの進行との関係が注目されています。最新の研究では、皮膚や腸内の常在真菌であるマラセチア・グロボーサ※1が腸管内から膵臓に移行し、様々な経路を介して膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されています。また、がん患者の真菌量は、がん患者の診断や予後を予測する分子バイオマーカー※2になる可能性も示唆されており、膵臓がんを含む様々ながんで盛んに研究が行われています。
 本研究では、実際に手術を受けられた膵臓がん患者の手術組織検体を用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量を測定し、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発と関係していることを明らかにしました。本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの更なる解明や、マラセチア・グロボーサをターゲットにした、膵臓がんに対する新規治療薬の開発が期待されます。

研究成果の概要

 本研究では、180人の膵臓がん患者の手術組織検体からDNAを抽出し、真菌マラセチア・グロボーサのリボソームDNA※3が検出されるかをPCR法を用いて検討しました。このPCR法を用いた検討では、180例中78例(43.3%)の手術検体からマラセチア・グロボーサのリボソームDNAが検出され、残りの102例からは検出されませんでした(図1)。
 また、マラセチア・グロボーサDNAが検出された膵臓がん患者78人(マラセチア・グロボーサ陽性群)と検出されなかった102例(マラセチア・グロボーサ陰性群)の術後3年生存率と再発率を比較したところ、マラセチア・グロボーサ陽性群が有意に生存率が悪く、再発率が高いことがわかりました(図2)。

研究成果の意義

 本研究では、膵臓がん患者の手術組織検体から抽出したDNAを用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量をPCR法で測定し、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発リスクと関係していることを明らかにしました。本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの更なる解明や、マラセチア・グロボーサをターゲットにした、膵臓がんに対する新しい治療薬の開発が期待されます。

用語解説

※1マラセチア・グロボーサ
14種類あるマラセチア(癜風菌)という真菌(カビ)の1種。常在真菌で、通常は脂漏性皮膚炎や癜風、マラセチア毛包炎などの原因となる。近年の研究で、膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されている。

※2分子バイオマーカー
組織や体液内に含まれる特定の分子や細胞の有無、もしくは存在量を指標とするもので、疾患の診断、状態の評価や予測、医薬品開発などに利用される。

※3リボソームDNA
細胞内でたんぱく質の合成を行っている小器官であるリボソームをコードしているDNA。全ての細菌が有しているDNAであり、真菌を含む微生物の同定に利用されることが多い。

論文情報

掲載誌Gastroenterology

論文タイトル:Intratumoral Malassezia globosa Levels Predict Survival and Therapeutic Response to Adjuvant Chemotherapy in Patients With Pancreatic Ductal Adenocarcinoma

DOI:https://doi.org/10.1053/j.gastro.2023.04.017

研究者プロフィール

奥野 圭祐 (オクノ ケイスケ) Okuno Keisuke
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化管外科学分野 助教
・研究領域
消化管外科学

絹笠 祐介 (キヌガサ ユウスケ) Kinugasa Yusuke
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化管外科学分野 教授
・研究領域
消化管外科学

徳永 正則 (トクナガ マサノリ) Tokunaga Masanori
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
消化管外科学分野 准教授
・研究領域
消化管外科学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
消化管外科学分野 氏名 奥野 圭祐(オクノ ケイスケ)
            絹笠 祐介(キヌガサ ユウスケ)
            徳永 正則(トクナガ マサノリ)
E-mail:okuno.srg1[@]tmd.ac.jp
            kinugasa.srg1[@]tmd.ac.jp
            tokunaga.srg1[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp


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