プレスリリース

「手作りの胃ろう食が小児の腸内細菌叢と口腔内細菌叢の組成に寄与する」【片桐さやか 准教授、芝多佳彦 助教、吉見佳那子 助教】

公開日:2023.8.28
「手作りの胃ろう食が小児の腸内細菌叢と口腔内細菌叢の組成に寄与する」
―胃ろうから手作りの食事で楽しく健康に―

ポイント

  • 胃ろうから手作りのミキサー食を注入する方法は「胃ろう食」と呼ばれています。
  • 胃ろう食を摂取する子どもの腸内細菌叢は、主に市販の経腸栄養剤を摂取する子どもよりも、菌の多様性が増し、より複雑なネットワーク構造を形成していました。
  • 胃ろう食の有用性を細菌学的に証明することができました。
  • 口から食べることが難しい場合でも、胃ろうからの栄養管理による健康増進が期待できます。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病分野の片桐さやか准教授、大杉勇人助教、同分野助教/ハーバード大学歯学部 口腔内科・感染・免疫学分野 歯周病学講座の芝多佳彦客員助教、摂食嚥下リハビリテーション学分野の吉見佳那子助教、中川量晴准教授、戸原玄教授の研究グループは、胃ろう食の有用性を細菌学的な観点から証明しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにロッテ財団奨励研究助成の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Frontiers in microbiologyに、2023年8月23日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 さまざまな疾患や障害により、日常的に人工呼吸器や経管栄養※1などの医療ケアが必要な児(医療ケア児)の数は日本全国で2万人ほどと報告されています。口から十分な栄養を摂取することが難しい場合は経管栄養による栄養管理が行われます。通常は既製の経腸栄養剤※2を注入することが多いですが、普段の食事をミキサーにかけたり、ミキサー食を作って注入する方法もあり「胃ろう食」と呼ばれます。
 ママと子の胃ろう食推進委員会は、在宅で療養する医療ケア児や嚥下障害患者とその家族で作られたコミュニティで、胃ろう食に関する情報の共有や発信をしています。胃ろう食を始めてから体調が良くなった、便通が良くなったなどの報告はいくつかありますが、胃ろう食の効果を学術的に調査した研究はありませんでした。そこで研究グループでは、ママと子の胃ろう食推進委員会の協力のもと、経管栄養を受ける小児を対象として、胃ろう食の摂取と腸内細菌叢との関連を細菌学的に検討しました。

研究成果の概要

 経管栄養による栄養管理を受ける8歳から17歳までの男女11名を対象に研究が行われました。主に既製の経腸栄養剤を使用している6名と、主に胃ろう食を摂取している5名の2つのグループに分けました。対象者の唾液と便を採取し、次世代シークエンサー※3を用いて、口腔内および腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係、その細菌叢の予測される機能(機能遺伝子)を解析しました。その結果、経腸栄養剤と胃ろう食の摂取では、細菌の組成が異なることが明らかになりました。また、胃ろう食を摂取することにより、グループの腸内細菌叢では、シャノン指数※4、Chao1※5が有意に増加しており、腸内細菌叢が多様化していました。加えて、Proteobacteria門、Gammaproteobacteria綱、Escherichia-Shigella属の相対量が有意に低く、Ruminococcus属の相対量は有意に高い値を示しました。胃ろう食により腸内細菌叢の組成が変化することが示されました。遺伝子の機能性を予測するメタゲノム解析では、胃ろう食を摂取するグループで口腔および腸内細菌叢の遺伝子機能が増加し、細菌のもつ代謝経路も増加していました。さらに、菌同士の相関関係を示すネットワーク構造もより複雑に構築されていることを発見しました。

研究成果の意義

 本研究グループは、口から食べることが困難で経管栄養管理を受ける児が胃ろう食を摂取することで、口腔内と腸内の細菌叢の組成を変化させ、さらに腸内細菌叢の多様性を増加させ、細菌ネットワークにも影響することを示しました。胃ろう食は、家族が子どもに食べさせたいもの、一緒に食べたいものを注入でき、食の楽しみを皆で共有できるメリットもあります。胃ろうからの食事によって腸内細菌叢が変化することで、全身の健康にも良い効果を得られる可能性を細菌学的に示しました。今後の経管栄養管理において、学術的・社会的に意義のある成果といえます。
 胃ろう食の社会的な認知度を高めるためにも、ママと子の胃ろう食推進委員会 代表:久保詩織さんの了承を得てFacebookの情報を掲載いたします。
ママと子の胃ろう食推進委員会(代表:久保詩織さん)
Facebook: https://www.facebook.com/groups/287441055002445/

用語解説

※1経管栄養
チューブやカテーテルなどを使い、胃や腸に必要な栄養を直接注入すること。

※2経腸栄養剤
カロリーや水分量、さまざまな栄養素が調整された栄養剤で、腸から消化吸収される。

※3次世代シークエンサー
遺伝子配列を高速で読み出せる装置。

※4シャノン指数
検出された菌種の数と均一性(均等度)を示す指数。

※5 Chao1
検体中に存在する菌種の数の推定値で、種の豊富さを示す指数

論文情報

掲載誌:Frontiers in microbiology

論文タイトル: Homemade blenderized tube feeding improves gut microbiome communities in children with enteral nutrition

DOI:https://doi.org/10.3389/fmicb.2023.1215236

研究者プロフィール

片桐さやか (カタギリ サヤカ) Sayaka Katagiri
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 准教授
・研究領域
歯周治療系歯学
口腔科学
大杉勇人 (オオスギ ユウジン) Yujin Ohsugi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 助教
・研究領域
歯周治療系歯学
口腔科学
芝多佳彦 (シバ タカヒコ) Takahiko Shiba
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 助教
・研究領域
歯周治療系歯学
口腔科学
吉見佳那子(ヨシミ カナコ) Kanako Yoshimi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 助教
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション
 
戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション                                    
口腔周囲筋と全身の関わり

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 片桐 さやか (カタギリ サヤカ)
E-mail:katagiri.peri[@]tmd.ac.jp
歯周病学分野 芝多佳彦(シバ タカヒコ)
E-mail:shiba.peri[@]tmd.ac.jp
摂食嚥下リハビリテーション学分野 吉見佳那子(ヨシミ カナコ)
E-mail:k.yoshimi.gerd[@]tmd.ac.jp


<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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関連リンク

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  • 「手作りの胃ろう食が小児の腸内細菌叢と口腔内細菌叢の組成に寄与する」