プレスリリース

東京医科歯科大学とマジックシールズの共同研究「転倒衝撃吸収床材 『ころやわ』の骨折予防効果の解明」が日本骨折治療学会 学会賞を受賞

公開日:2023.8.28
国立大学法人東京医科歯科大学
株式会社Magic Shields


 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 整形外傷外科治療開発学講座の王耀東講師が、2023年6月29日から7月1日の3日間にわたって静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ(静岡市)で開催された第49回日本骨折治療学会学術集会において、国立大学法人 東京医科歯科大学(以下、東京医科歯科大学)と株式会社Magic Shields(以下、マジックシールズ)が行った共同研究(研究責任者:王耀東)の成果「転倒衝撃吸収床材の脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果を検証するCT有限要素解析モデルの開発と改良」を発表し、令和5年度の日本骨折治療学会 学会賞を受賞しました。
 この共同研究は、経済産業省商務情報政策局 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課(以下、ヘルスケア産業課)主催のヘルスケア系ビジネスコンテストであるジャパンヘルスケアビジネスコンテスト(以下、JHeC)と、同じくヘルスケア産業課が運営するヘルスケア系ベンチャー企業などのワンストップ相談窓口であるHealthcare Innovation Hub(以下、InnoHub)を介した産学“官”連携の取り組みです。

共同研究の背景

 大腿骨近位部骨折は日本において年間約20万件発生しており、高齢化社会の進行に伴い今後さらに増加することが予想されています。高齢者が大腿骨近位部骨折を受傷する問題点としては、機能障害を生じ生活の質(以下、QOL)が低下しやすいこと、生命予後が不良であること、二次骨折リスクが高いこと(脆弱性骨折の「ドミノ現象」と呼ばれます)などが挙げられます。高齢者の大腿骨近位部骨折に関する高額な医療費・介護費は年間約2兆円にも達するとされており、医療経済的にも大きな社会問題となっております。
 高齢者の脆弱性大腿骨近位部骨折の予防には薬物療法(骨強度の改善)、運動療法(転倒予防)、ヒッププロテクターが有効と報告されております。転倒時の衝撃を軽減する目的で用いられるヒッププロテクターはコンプライアンス(装着率)が低く、介護施設でのみ有効と報告されているため、代替策として衝撃吸収スポンジマットがしばしば用いられますが、スポンジが柔らかすぎるため歩行・車椅子移動時には不安定であり耐久性も脆いという課題があります。そこでマジックシールズは、転倒による脆弱性骨折を予防することで高齢者とその家族を守り、最期まで尊厳を持って生きられる社会を実現することを目的に、歩行時や車椅子移動時の安定性と転倒時の衝撃吸収性を両立する荷重特性を構造で実現した、普段は硬く、転んだ時には柔らかくなる置き床「ころやわ」を開発しました(図1)。JHeC2021にてマジックシールズがグランプリを獲得したことをきっかけに「ころやわ」は大きな注目を集めましたが、医学的エビデンスの構築が必要と考えられ、InnoHubサポーター団体である東京医科歯科大学が紹介されたところ、骨折治療と生体力学解析の専門家である整形外傷外科治療開発学講座の王耀東講師が共同研究の意思を示し、2021年7月27日に共同研究契約が締結されました。

図1. 転倒などの強い衝撃時につぶれ、クッション効果を示す「ころやわ」

 この共同研究の予備試験結果は、2022年2月17日に、ヘルスケア産業課が取り組む新たな産業の創出のためのヘルスケア・ライフサイエンス分野のエコシステムの構築政策の好事例として、ヘルスケア産業課主催の第二回新事業創出ワーキンググループで紹介されました(https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220304-1/)。また、過去には、スイスに拠点を置く骨折治療に関する世界有数の学術的組織で世界各国20,000人以上の整形外科医、形成外科医、口腔外科医、獣医師、手術室看護師が所属するAO Foundationが主催する5th AO Trauma Asia Pacific Scientific Conference(2022年5月28日)において、Best 10 Paperに選出されました。

共同研究成果の概要

図2. CT有限要素解析モデルによる転倒衝撃吸収床材(ころやわ、22mm厚)の脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果の
シミュレーション

 有限要素法という数値解析手法を用いて、転倒衝撃吸収床材の脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果を検証する目的で、実存する患者さんの生体データである大腿骨CT DICOMデータから大腿骨の三次元モデルをコンピューター上に作成しました。そして、転倒時エネルギーと同等の落錘式衝撃試験を再現した動解析モデルを構築し、コンクリート床の上に各種床材を設置した条件でシミュレーションを行うことで、各種床材の脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果を比較検討しました(図2)。

図3. 転倒衝撃吸収床材による大腿骨近位部骨折予防効果のデータ

 予備試験では接触部分の要素破壊により動解析が非常に不安定でしたが(王耀東ら. 骨折45巻1号:276, 2023)、骨頭と大転子の接触面に弾性材料を配置した改良モデルを新たに構築したところ、動解析が安定しました。その結果、医療・介護施設で一般的に用いられるビニルシート(2mm厚)では大腿骨近位部の骨形状が完全に破壊された一方で、歩行・車椅子移動時には硬く安定している「ころやわ」(22mm厚)が、柔らかいが歩行・車椅子移動時に不安定なスポンジマット(40mm厚)とほぼ同等の、脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果を示すことが実証されました(図3)。
 世界で初めて生体データを用いて転倒衝撃吸収床材の脆弱性大腿骨近位部骨折予防効果を示したこと、しかも被験者に危険や不利益などの直接的影響を全く与えずに検証できる生体力学解析モデルを開発したことが高く評価され、第49回日本骨折治療学会学術集会において令和5年度の日本骨折治療学会 学会賞を受賞しました。

共同研究成果の意義と今後の発展

 今後、この共同研究で得られた成果を発展させることで、現行製品の医学的エビデンスのさらなる蓄積にとどまらず、製品改良においても同様のシミュレーションを行うことが可能で、より早く、より高性能な新製品の開発につながることを想定しております。さらに、その波及効果として社会実装が広まることで、高齢者のQOL向上や医療費・介護費削減などの医療経済的効果が期待されます。
 また、この共同研究は経済産業省のJHeCやInnoHubなどの政策をもとに始まった産学“官”連携の取り組みであることも重要なポイントです。超高齢社会の日本において、ヘルスケア産業でこのような産学“官”連携の取り組みが進み、エコシステムの構築が促進されることは、社会的課題を解決していくうえで必須であると考えます。このような取り組みによる成果と明るい未来を日本から世界に発信し続けることは、日本が高齢化社会における世界のリーダーとなっていくうえで必要不可欠ではないでしょうか。

研究者プロフィール

王 耀東 (オウ ヨウトウ) Oh Yoto
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
整形外傷外科治療開発学講座 講師
・研究領域
整形外傷外科、骨折治療、生体力学解析
吉井 俊貴 (ヨシイ トシタカ) Yoshii Toshitaka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
整形外科学分野 教授
・研究領域
脊椎脊髄外科、骨再生

東京医科歯科大学について

名称 : 国立大学法人 東京医科歯科大学
所在地 : 東京都文京区湯島一丁目5番45号
代表者 : 学長 田中 雄二郎
設立年月 : 1928 年 10 月
URL : http://www.tmd.ac.jp/index.html

マジックシールズについて

名称 : 株式会社Magic Shields
所在地 : 静岡県浜松市中区鍛冶町100-1 ザザシティ浜松中央館 B1F・FUSE
代表者 : 代表取締役 下村 明司
設立年月 : 2019 年 11 月
URL : https://www.magicshields.co.jp/coroyawa/

問い合わせ先

◇ ころやわ製品に関すること
株式会社Magic Shields
URL : https://www.magicshields.co.jp/contact/

◇ 共同研究に関すること
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科整形外傷外科治療開発学講座 王 耀東
E-mail : oh.orth@tmd.ac.jp

◇ 経済産業省のヘルスケア政策(InnoHub)に関すること
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科人体病理学分野 山本 浩平
E-mail : yamamoto.pth2@tmd.ac.jp

◇ 報道に関すること
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail : kouhou.adm@tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

  • 東京医科歯科大学とマジックシールズの共同研究「転倒衝撃吸収床材 『ころやわ』の骨折予防効果の解明」が日本骨折治療学会 学会賞を受賞 【王 耀東 講師】