プレスリリース

人工透析患者の死亡リスクを高めるMIA症候群に歯周炎が関与している可能性【水谷幸嗣 講師、三上理沙子 助教】

公開日:2023.8.3
人工透析患者の死亡リスクを高めるMIA症候群に歯周炎が関与している可能性
― 歯周炎が人工透析患者の低栄養と炎症に加担 ―

ポイント

  • MIA症候群※1は人工透析患者の生命予後の大きなリスクファクターであることが知られています。
  • 歯周炎※2がMIA症候群と関連することが世界で初めて明らかになりました。
  • 重度歯周炎は特に人工透析患者の低栄養状態と炎症状態に関与していました。
  • 今後さらなる研究が必要ですが、適切な口腔ケアや歯科治療は人工透析患者さんにとってMIA症候群の改善も含めて有用である可能性が考えられます。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病分野の三上理沙子助教、水谷幸嗣講師、岩田隆紀教授、順天堂大学 腎臓内科学講座の合田朋仁准教授の研究グループは、埼友草加病院、神奈川歯科大学との共同研究で、人工透析を受けられている末期腎不全の患者さんにおいて、歯周炎がMalnutrition-inflammation-atherosclerosis(MIA)症候群と呼ばれる、生命予後の大きなリスクファクターとなる病態に関与していることを明らかにしました。この研究の一部は日本学術振興会科学研究費助成(20K18497、19K10125、20K08617)、三島海雲記念財団、8020推進財団(採択番号:22-2-08)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィックレポーツ)に、2023年7月21日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 人工透析を受けられている方では、低栄養状態、炎症状態の亢進は生命予後の大きなリスクになることが知られています。低栄養状態、炎症状態の両者を呈している方では動脈硬化性病変を高頻度に発症することから、この病態はMalnutrition-inflammation-atherosclerosis (MIA)症候群と呼ばれています。一方で、歯周病は成人の8割が罹患していると言われる疾患で、抜歯の最大の原因となります。人工透析患者さんでは健常者と比較して歯周病が重症化しており残存歯数も少ないため、栄養摂取の効率が下がり低栄養につながっている可能性が考えられます。さらに、歯周病は歯肉の炎症を引き起こすだけでなく、全身の炎症状態も亢進させ、動脈硬化性病変のリスクとなることが報告されています。これらのことから、人工透析患者さんにおいて歯周病はMIA症候群に関与するのではないかと仮説をたて、本研究ではその検証をすることを目的としました。

研究成果の概要

【図】歯周炎とMIA症候群の関り

 本研究は、人工透析クリニックに通院する254名(男性167名、女性87名、平均年齢67.4±12.1歳)を対象として行われました。MIA症候群の3要素(低栄養、炎症、動脈硬化性病変)はそれぞれGeriatric Nutritional Risk Index (GNRI)、血清中のC反応性タンパク、血管イベントの既往により定義し、該当する要素の数(0-3)を算出しました。188名(74.0%)が少なくとも1つ以上のMIA症候群の要素に該当しました。共変量で調整した結果、重度歯周炎はMIA症候群の要素数の増加と統計学的に有意な相関(調整オッズ比:2.64、 95%CI: 1.44-4.84、p=0.002)があることがわかりました。さらに、重度歯周炎はMIA症候群の3要素のなかでも、炎症と低栄養と強く関与していることが分かり、それぞれの調整オッズ比は2.47 (95%CI:1.16-5.28、 p=0.020)、3.46(95%CI:1.70-7.05、p=0.001)でした。

研究成果の意義

 MIA症候群は生命予後のリスクファクターでありながら、その原因は多岐にわたるため、抜本的な治療方法は確立されていません。MIA症候群における低栄養は、栄養摂取量の低下だけではなく慢性的な炎症状態によるタンパク質の分解促進や合成抑制などが大きな原因となります。そのため、炎症の除去を目的として透析条件の再設定や炎症の原因になっている疾患の治療などが行われますが、併存疾患の存在などから炎症の原因疾患の改善が難しいことも多くあります。本研究では重度歯周炎とMIA症候群の関連が示されました。今回の結果は、歯周炎を治療することがMIA症候群治療の一助となる可能性が示唆され、透析患者さんの口腔ケアや歯科受診を促す一つの論拠になると考えられます。

用語解説

※1Malnutrition-inflammation-atherosclerosis (MIA) 症候群: 低栄養状態と慢性炎症状態が合併し、動脈硬化性病の進展を助長する病態。

※2歯周炎: プラーク(歯垢)が原因となり歯肉に炎症が生じ、歯を支える骨が吸収されている状態。近年では糖尿病や循環器疾患など全身との関わりも示されている。

論文情報

掲載誌Scientific Reports

論文タイトル:Malnutrition- inflammation- atherosclerosis (MIA) syndrome associates with periodontitis in end-stage renal disease patients undergoing hemodialysis: a cross-sectional study

DOIhttps://doi.org/10.1038/s41598-023-38959-0

研究者プロフィール

三上理沙子 (ミカミ リサコ) Risako Mikami
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 助教
・研究領域
歯周病学
水谷幸嗣 (ミズタニ コウジ) Koji Mizutani
東京医科歯科大学病院 歯周病科 講師
・研究領域
歯周病学


 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 水谷 幸嗣(ミズタニ コウジ)
       三上 理沙子(ミカミ リサコ)
E-mail:mizutani.peri[@]tmd.ac.jp 

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 人工透析患者の死亡リスクを高めるMIA症候群に歯周炎が関与している可能性