「 アントラサイクリン誘発性心筋症に対する小胞体選択的オートファジーの心保護作用を解明 」 【前嶋康浩 准教授】
― がん治療関連心筋障害を克服する端緒として期待 ―
ポイント
- 心臓における小胞体選択的オートファジーの機能や役割は、これまで解明されていませんでした。今回、前嶋康浩准教授、中釜瞬大学院生、笹野哲郎教授らの研究グループは、アントラサイクリン誘発性心筋症の動物モデルを用いた実験系で小胞体選択的オートファジーが心保護効果を発揮していることを発見しました。
- 心筋細胞における小胞体選択的オートファジーをモニタリングする方法を確立することができたため、今後の心臓におけるオートファジー研究の更なる発展への寄与が見込まれます。
- 本研究成果は、がん治療の深刻な合併症のひとつであるアントラサイクリン誘発性心筋症の病態解明を進め、新規治療法の開発研究に寄与するものと期待されます。
研究の背景
細胞内に存在する不要物の分解やアミノ酸のリサイクルを担う細胞内機構であるオートファジー※3のうち、「選択的オートファジー」はダメージを受けた細胞内小器官を分解するという重要な役割を果たしています。例えば、ミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)は大量のミトコンドリアを含む心筋細胞においてミトコンドリアの品質管理を担うことで心保護作用を発揮していることが知られています。一方、小胞体選択的オートファジー(ERファジー)は過度な傷害を受けたERを分解・除去するメカニズムですが、心筋細胞におけるERファジーが果たす役割の詳細については未解明でした。
このような背景を踏まえて、今回研究グループはドキソルビシン誘発性心筋症の病態にERファジーによるERの品質管理機構が関与している可能性が高いと考え、ERファジーを介した小胞体品質管理がドキソルビシンに起因する心毒性に及ぼす影響について検討いたしました。
研究成果の概要
研究成果の意義
用語解説
※1ドキソルビシン・・・・・・・・アントラサイクリン系抗がん剤の一種で、乳がんや悪性リンパ腫をはじめとする様々な悪性腫瘍に対する標準的薬剤として使用されている。用量依存的に心毒性を引き起こすことが知られており、一定数の患者様で抗がん剤関連心筋症を発症するという問題点がある。現時点では、治療の中止以外の有効な治療法がなく、新規治療薬や予防薬の開発が待たれている。
※2小胞体・・・・・・・・真核細胞の小器官の1つで、蛋白質や脂質の合成、カルシウムイオンの貯蔵庫としての機能を持つ。心筋細胞の収縮・弛緩には、カルシウムイオンの制御が中心的な役割を果たしており、心収縮機能の維持にとって小胞体は重要な働きを持つ。
※3オートファジー・・・・・・・・全ての真核生物(核を持つ細胞)に備わっている細胞内成分の分解機構。脂質二重膜構造をもつオートファゴソームと加水分解酵素に富むリソソームの働きによって細胞内蛋白質や小器官を分解し、細胞の恒常性を維持する役割を担っている。
論文情報
論文タイトル:Endoplasmic Reticulum Selective Autophagy Alleviates Anthracycline-Induced Cardiotoxicity
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaccao.2023.05.009
研究者プロフィール
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 准教授
・研究領域
循環器疾患(心不全、心筋症、動脈硬化症、大型血管炎)の基礎/臨床研究
中釜 瞬 (ナカガマ シュン) Nakagama Shun
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 大学院生
・研究領域
循環器疾患(心不全、心筋症)の基礎研究
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
循環制御内科学分野 氏名 前嶋 康浩(マエジマ ヤスヒロ)
E-mail:ymaeji.cvm[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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