「 オートファジー活性測定が可能な蛍光試薬の開発 」【清水重臣 教授】
公開日:2023.7.6
「 オートファジー活性測定が可能な蛍光試薬の開発 」
― オートファジーやGOMEDの進行度を可視化できる新手法の開発 ―
― オートファジーやGOMEDの進行度を可視化できる新手法の開発 ―

ポイント
- オートファジーやGOMED※1進行度を可視化・評価できる実験系を新規開発しました。
- 開発した試薬を用い、生きたままゼブラフィッシュ※2生体内のオートファジーを可視化できました。
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物学分野の桜井一助教と清水重臣教授の研究グループは、オートファジー進行度を可視化できる蛍光試薬を、株式会社同仁化学研究所の岩下秀文研究員、石山宗孝試薬開発本部長との産学連携研究によって開発いたしました。また、開発した試薬は、通常のオートファジーの他に、ゴルジ体を利用してタンパク質分解を行うGolgi-membrane associated degradation (GOMED)も標識することを明らかにしました。これまでオートファジーやGOMEDの進行度を可視化するためには遺伝子導入が必須でしたが、本研究の成果により生体負荷の少ない手法での評価が可能になりました。また、培養細胞のみならずゼブラフィッシュにおいてもオートファジーを認識できることを見出し、今後の生体への応用が期待されます。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌iScience(アイサイエンス)に、2023年6月27日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
オートファジーは、飢餓や様々なストレスに応じて細胞が自身の成分の一部を分解する機構です。飢餓の際には、余剰な細胞成分を分解して栄養源にし、細胞がダメージを受けて損傷した際には損傷個所の分解などに関わります。さまざまな生命現象に関わっており、種々の疾患との関連性も示唆されていることから、オートファジーが広範な生命活動において影響力を持つことがうかがえます。GOMEDも、オートファジーと同様に細胞自身の一部を分解する機構ですが、オートファジーとは実行分子や分解する対象が異なり、生体内では異なる役割を担っています。
オートファジーやGOMEDが進行する時、その初期から中期において、分解対象を隔離膜とよばれる膜で包み込こんで隔離します(図A上段)。その後、後期にかけて、この隔離された構造体(オートファゴソーム)とリソソームが融合して、分解対象物がリソソーム酵素によって分解されます。オートファジーやGOMEDの多寡を評価するためには、進行過程の各ステップを定量的に評価することが必要であり、オートファジーに関しては、LC3※3と呼ばれる分子を蛍光で可視化して、その動態観察により解析を行うことができます。ただし、この解析のためには遺伝子操作が必要であり、生体での研究は困難でした。また、GOMEDに関しては、これまで適切な評価法がありませんでした。そこで我々は、遺伝子導入を必要とせずに、オートファジーやGOMEDの多寡を評価できる測定法の構築を目指しました。
オートファジーやGOMEDが進行する時、その初期から中期において、分解対象を隔離膜とよばれる膜で包み込こんで隔離します(図A上段)。その後、後期にかけて、この隔離された構造体(オートファゴソーム)とリソソームが融合して、分解対象物がリソソーム酵素によって分解されます。オートファジーやGOMEDの多寡を評価するためには、進行過程の各ステップを定量的に評価することが必要であり、オートファジーに関しては、LC3※3と呼ばれる分子を蛍光で可視化して、その動態観察により解析を行うことができます。ただし、この解析のためには遺伝子操作が必要であり、生体での研究は困難でした。また、GOMEDに関しては、これまで適切な評価法がありませんでした。そこで我々は、遺伝子導入を必要とせずに、オートファジーやGOMEDの多寡を評価できる測定法の構築を目指しました。
研究成果の概要
本研究では、まず、株式会社同仁化学研究所との産学連携研究によりオートファジーを標識可能なDAPGreen、DAPRed、DALGreenの三種の蛍光試薬を開発しました。これらの蛍光試薬がオートファジーの進行する中で、どのステージから標識することが可能であるかを詳細に調べた結果、試薬によって異なるステージから標識できることを明らかにしました(図A下段)。DAPGreenは緑色の蛍光でオートファジーの最初期から全ての構造を標識するのに対し、DAPRedはDAPGreenよりも中期寄りのステージの構造を赤色の蛍光で標識できます。DAPGreenとDAPRedを併せて使用することでオートファジー初期の構造を緑色単色で、以降の構造を赤色・緑色の混合色で検出することができました(図B)。さらに、DALGreenでは緑色の蛍光でオートファジー後期の構造だけが標識されており、DAPRedとDALGreenを併用することで中期の構造を赤色で、後期の構造を赤色・緑色の混合色で検出できることを示しました(図C)。また、GOMEDにおいても、同様に進行ダイナミクスを評価できること、生きたゼブラフィッシュの生体内のオートファジー活性も可視化・評価できること(図D)を見出しました。

研究成果の意義
本研究の成果を応用することにより、生体における様々な現象とオートファジーとの関連を調べることが可能になりました。例えば、DAPRedとDALGreenを用いることで、① 何も蛍光が検出できなければオートファジーは活性化しておらず、② 赤色・緑色の蛍光が増強したらオートファジーが活性化していると判断できます。さらに、③ 赤色の蛍光のみが検出される場合にはオートファジー進行が途中で停止しており、オートファジー機能が部分的に障害されていることが示唆されます。遺伝子操作をせずに以上のような知見を得られる本手法を、疾患モデル動物などに応用することにより、疾患とオートファジーとの関連性を明らかにできるものと期待できます。
用語解説
※1GOMED
オートファジーが主に細胞質成分を分解するのに対し、GOMEDは分泌タンパク質や細胞膜局在タンパク質の分解に関わる。
※2ゼブラフィッシュ
脊椎動物のモデル動物。稚魚時には全身が透明なために容易に生きたまま隅々までの観察ができる。
※3LC3
オートファジーの鍵分子。オートファジー進行に伴ってタンパク質形状や特性が変化するため、オートファジー進行度を評価するためによく用いられる。
オートファジーが主に細胞質成分を分解するのに対し、GOMEDは分泌タンパク質や細胞膜局在タンパク質の分解に関わる。
※2ゼブラフィッシュ
脊椎動物のモデル動物。稚魚時には全身が透明なために容易に生きたまま隅々までの観察ができる。
※3LC3
オートファジーの鍵分子。オートファジー進行に伴ってタンパク質形状や特性が変化するため、オートファジー進行度を評価するためによく用いられる。
論文情報
掲載誌:iScience
論文タイトル:Development of small fluorescent probes for the analysis of autophagy kinetics
研究者プロフィール

桜井 一 (サクライ ハジメ) Sakurai Hajime
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
病態細胞生物分野 プロジェクト助教 (研究当時)
(現職:兵庫県立大学 理学研究科
生体物質化学Ⅱ分野 助教)
・研究領域
オートファジー、細胞生物学

岩下 秀文 (イワシタ ヒデフミ) Iwashita Hidefumi
株式会社同仁化学研究所
開発部主任
(現職:福岡大学 理学部 化学科
生物有機化学研究室 助教)
・研究領域
ケミカルバイオロジー、生物有機化学

石山 宗孝 (イシヤマ ムネタカ) Ishiyama Munetaka
株式会社同仁化学研究所
取締役 試薬開発本部長
・研究領域
オートファジー、細胞生物学
株式会社同仁化学研究所
取締役 試薬開発本部長
・研究領域
オートファジー、細胞生物学

清水重臣 (シミズ シゲオミ) Shimizu Shigeomi
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
病態細胞生物分野 教授
・研究領域
オルガネラバイオロジー、細胞生物学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
病態細胞生物学分野 教授 清水 重臣 (シミズ シゲオミ)
E-ail:shimizu.pcb[@]mri.tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。