「 研修開始時点での抑うつ症状を緩和する非認知スキルの解明 」 【赤石雄 助教、山脇正永 教授】
― 初期研修医のGritと抑うつ症状の関連について ―
ポイント
- 社会に多大な影響を与えた新型コロナウイルスの流行は、初期研修医を含む医療提供者にも大きい心的負荷を与えました。
- 新型コロナウイルス流行下の研修開始時点の初期研修医において、非認知能力の一つであるGrit(やり抜く力)が高いことは、抑うつ症状の発生の予防に有効であることが証明されました。
- 非認知能力を高める取り組みが有益であることが分かり、研修医や医学生等学修者の非認知能力の育成をより意識した大学のカリキュラムや講義構成の重要性を示す根拠の一つになる可能性があります。
研究の背景
研究成果の概要
最終的に、221名(2020年70名、2021年88名、2022年63名)の研修医を対象にデータの解析を行い、対象者の平均年齢は25.1歳で、性別は男性134名、女性87名でした。研修開始時点に、抑うつ症状を有していたのは28名(12.7%)でした。抑うつ症状を有しないグループのGrit-Sの点数は3.4で、抑うつ症状を有するグループの同点数は3.0であり、この差が解析にて大きいことが分かりました(P=0.005)。また、Grit-Sの下位尺度※5である根気尺度の点数において、抑うつ症状を有しないグループと有するグループ間で大きい差がありました(抑うつ症状なし群3.7 vs抑うつ症状あり群3.2、 P=0.003)。
多変量解析の結果、Grit-Sのスコアが1点上昇すると、年齢や性別などの複数の因子を調整した後に、抑うつ症状を有するオッズが63%下がることが分かりました(オッズ比0.37、95%信頼区間0.19-0.74)(表1)。
研究成果の意義
また、Gritは非認知能力の一つとされていますが、このような非認知能力を高める取り組みを研修中や研修前の学生時代に行うことが有益であるとも言えます。この発見が、今後、非認知能力の育成をより意識した大学でのカリキュラムや講義構成の重要性を示す根拠の一つになる可能性があります。
用語解説
※1 Grit
アンジェラ・ダックワースによって提唱された“やりぬく力”という非認知能力の一つです。各方面の成功に大きく貢献していることが報告されおり、近年注目を集めています。12項目の質問で構成されています。
※2 抑うつ症状とうつ病
抑うつ症状は、うつ病と診断する上での重要な症状の一つですが、うつ病の診断には、他にもいくつかの症状を伴っている必要があります。
※3 Grit-S
8項目からなる質問で構成されているGritの短縮版ですが、精度(妥当性)が高いことが報告されています。最高点が5点で、最低点が1点となるようにできています。
※4 CES-D(うつ病自己評価尺度)
20項目の質問から構成されていて、うつ症状の有無のスクリーニングに役立ちます。
※5 下位尺度
Gritは「根気尺度」と「一貫性尺度」という2つの尺度から構成されていて、この2つを下位尺度といいます。これは、Gritの質問の中で、「根気尺度」を測定する質問群と「一貫性尺度」を測定する質問群に分かれているということです。
参考論文
2. 西川一二、奥上紫緒里、雨宮俊彦.日本語版Short Grit(Grit-S)尺度の作成.パーソナリティー研究. 2015;24(2):167-9.
論文情報
論文タイトル:Association between Grit and depressive symptoms at the timing of job start among medical residents during the COVID-19 pandemic in Japan: a cross-sectional study
DOI: https://doi.org/10.1080/10872981.2023.2225886
研究者プロフィール
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
臨床医学教育開発学分野 助教
・研究領域
医学教育学、内科学
山脇 正永 (ヤマワキ マサナガ) Masanaga Yamawaki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
臨床医学教育開発学分野 教授
・研究領域
医学教育学、神経科学、内科学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 准教授
・研究領域
公衆衛生学、社会疫学、医学教育学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
臨床医学教育開発学分野 赤石 雄 (アカイシ ユウ)
山脇 正永 (ヤマワキ マサナガ)
TEL 03-5803-5948 FAX 03-5803-0281
E-mail:osuishi.fmed[@]tmd.ac.jp(赤石)myammerd[@]tmd.ac.jp(山脇)
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。