プレスリリース

「非定型的ゴーハム病における原因遺伝子変異の同定」【稲澤譲治 特任教授、江面陽一 非常勤講師】

公開日:2023.7.3
「非定型的ゴーハム病における原因遺伝子変異の同定」
― Gasdermin D遺伝子カスパーゼ切断部位のミスセンス変異 ―

ポイント

  • 謎であったゴーハム病の原因の1つに、ガスダーミンD遺伝子の変異があることをつきとめました。
  • ゴーハム病の病型分類および病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科 運動器外科学分野の江面陽一非常勤講師(研究当時・難治疾患研究所 フロンティア研究室・骨分子薬理学 准教授)と、同・難治疾患研究所 Daniela Tiaki Uehara (ダニエラ チアキ ウエハラ)特任助教(研究当時)、村松智輝助教(研究当時)ならびに統合研究機構 リサーチコアセンター長の稲澤譲治特任教授の研究グループは、JA長野厚生連「佐久総合病院グループ」の佐久医療センター整形外科の福島和之部長および東京理科大学薬学部の早田匡芳教授の研究グループとの共同研究で、非定型的ゴーハム病の原因が、ガスダーミンD遺伝子のミスセンス変異によることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに東京医科歯科大学難治疾患共同研究拠点の支援により得られたものです。今回、その研究成果は国際科学誌JBMR-Plusに、2023年6月29日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 骨消失病変を特徴とする極めて稀な骨系統疾患「ゴーハム病」(厚生労働省:指定難病277)は、若年者に発症する症例の多くにリンパ管腫を伴いやすいことから、本邦ではリンパ管腫症とともに厚生労働省が特定する指定難病として扱われていますが、その病因・病態は明らかにされていません。従来、本疾患には遺伝的要因は関与しないとされてきましたが、近年、「ゴーハム病」にはいくつかの病型のあることも指摘されるようになり、遺伝的要因関与の可能性も浮かび上がってきました。

研究成果の概要

 研究グループは、長野県の佐久医療センターでゴーハム病と診断された1症例が、従来報告されてきた典型的なゴーハム病の症例とはやや異なる臨床的特徴をもつことに気づきました。発症年齢、リンパ管腫の有無、外傷既往の有無などの相違に加えて、本症例の両親はいとこ婚であったことが判明しました。遺伝子変異等の関与が想定されるため、本症例とご兄弟の血液検体をもとに全エクソン配列解析を行ったところ、Gasdermin D遺伝子内にホモ接合性の遺伝子変異が同定されました。この変異はアミノ酸置換を伴うものであり、単球・マクロファージ系細胞内におけるGasdermin D蛋白質が病原体感染などの刺激に反応したカスパーゼによって切断される部位に一致していました。この切断によって、単球・マクロファージ系細胞における炎症性サイトカイン放出を誘導する細胞死がもたらされることが知られていますが、本症例から採血した単球においてはこの切断が起らないことが実験的に証明されました。

研究成果の意義

 このような遺伝子変異はゲノムワイドな大規模遺伝子多型のデータベースを探索しても、欧米人での登録はありませんでしたが、アジア系人種を元に探索されたデータベースでは0.03%程度の頻度で存在していました。ただし、この変異をホモ接合性に保有する個人はこれまで報告されておらず、我々はそのような変異がヒトにおいて特徴的な骨病変を生じることを初めて見出したことになります。
 単球・マクロファージ系細胞における感染誘発性の細胞死と炎症性サイトカインの大量放出が起らないことと、骨消失病変形成の因果関係は必ずしも連結できるものではありませんでした。ところがごく最近、海外の研究グループが、成熟間近の破骨細胞内においてGasdermin D蛋白質が2か所で切断されることにより生じた分子断片が破骨細胞の最終分化を抑制することを、遺伝子改変マウスを用いて明らかにしました(2022年10月Developmental Cell誌)。この結果は、我々の知見を消失性骨病変形成の原因として裏付けるものであり、Gasdermin D遺伝子変異に基づく新たな病型のゴーハム病が存在することが初めて示されたと言えます。

用語解説

※1 Gasdermin D (ガスダーミンD): 炎症性細胞応答の鍵をにぎるインフラマソーム蛋白質のひとつとみなされる細胞内分子。分子内切断を受けた蛋白質断片が重合して細胞膜に穴をあけ、細胞死を誘導する。

※2 カスパーゼ: 細胞死や炎症を含む多くの細胞プロセスで重要な役割を果たす一群の蛋白質分解酵素。

論文情報

掲載誌JBMR-Plus

論文タイトル:Identification of a Biallelic Missense Variant in Gasdermin D (c.823G > C, p.Asp275His) in a Patient of Atypical Gorham-Stout Disease in a Consanguineous Family

DOIhttps://doi.org/10.1002/jbm4.10784

研究者プロフィール

江面 陽一 (エヅラ ヨウイチ) Ezura Yoichi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器外科学分野 非常勤講師
帝京平成大学 健康メディカル学部 作業療法学科 教授
・研究領域:基礎整形外科学、骨代謝学、整形外科病理学、骨生理学

Daniela Tiaki Uehara (ダニエラ チアキ ウエハラ)
東京医科歯科大学大学 難治疾患研究所
分子細胞遺伝分野 特任助教(研究当時)
・研究領域:人類遺伝学

稲澤 譲治 (イナザワ ジョウジ) Inazawa Johji
東京医科歯科大学 統合研究機構 研究基盤クラスター
リサーチコアセンター センター長・特任教授
難治疾患研究所 分子細胞遺伝分野 教授 (研究当時)
・研究領域:分子細胞遺伝学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器外科学分野  
非常勤講師 江面陽一(エヅラ ヨウイチ) 
E-ail:ezura.mph[@]mri.tmd.ac.jp

東京医科歯科大学 統合研究機構 
リサーチコアセンター
センター長  稲澤譲治(イナザワ ジョウジ)
E-mail:inacgen[@]mri.tmd.ac.jp
  
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
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