「 日常生活空間における無意識での疾患スクリーニングの実現 」 【藤田浩二 講師】
国立大学法人東京医科歯科大学
慶應義塾大学
― 書く動作によって頚髄症(けいずいしょう)をスクリーニング ―

ポイント
- 初期症状が乏しく診断や治療が遅れることが多い頚髄症を、日常的に行う動作の一つである「書く」動作を人工知能によって解析することで早期に診断する技術を開発しました。
- 市販のタブレット端末の画面上に表示される簡単な図形をなぞることにより手の動きを解析し、頚髄症の有無を高い精度で判別することができました。
- 日常生活空間での無意識の動作による疾患スクリーニングにつなげ、早期発見・治療に貢献することが期待されます。
研究の背景
研究成果の概要
上記システムを用いて、頚髄症患者38名、頚髄症のない被検者66名を対象に疾患の有無を推測させた結果、感度76%、特異度76%、AUC※4 0.80 という良好な結果を得ました。これは医師による従来の身体診察法と同等以上のスクリーニング精度でした。
研究成果の意義
本システムの実装により、MRI等による高コストの検査によるスクリーニングを抑制、早期治療介入の実現による症状悪化後の治療の減少により医療費の削減にも寄与できると考えられます。また本研究グループはすでに本法で同様に手の使いづらさをきたす疾患である手根管症候群のスクリーニングにも成功しており※5、今後も手に障害をきたす他の疾患についても対象範囲を広げていく予定です。

図1. 計測方法
タブレット端末の画面上に表示される簡単な図形をスタイラスペンでなぞります。なぞっている間に筆跡と筆圧を経時的に測定します。

図2. 頚髄症の有無による筆跡の違い
頚髄症のない被検者(左)と比較して頚髄症のある患者の筆跡(右)は筆圧が小さく、ぶれが目立ちます。
用語解説
※1 頚髄症: 頚椎(首の骨)の内部を通る脊髄が圧迫されて起こる進行性の疾患。
※2 巧緻運動障害: 手や指が行う細かな作業が困難になった状態。字を書きづらい、箸がうまく使えない、ボタンをかけづらいなどが代表的である。
※3 機械学習: 人工知能(AI)の一種。コンピューターが与えられた課題を学習することで自らルールを構築し、未知のデータに対してそのルールにしたがった予測を行う仕組みである。
※4 AUC: Area Under the Curve の略。検査方法の評価項目の1つで、0 から1 の値をとり、1 に近いほど、精度の良いことを示す。
※5 Watanabe, T. et al. The accuracy of a screening system for carpal tunnel syndrome using hand drawing.
J. Clin. Med. 10, 253. https://doi.org/10.3390/jcm10194437 (2021).
論文情報
論文タイトル:A Screening Method for Cervical Myelopathy Using Machine Learning to Analyze a Drawing Behavior
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-37253-3
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器機能形態学講座 講師
・研究領域
手外科、動作解析、疾患予測

山田 英莉久 (ヤマダ エリク) Yamada Eriku
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
整形外科学 大学院生
・研究領域
手外科、人工知能

慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 准教授
・研究領域
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器機能形態学講座 藤田 浩二(フジタ コウジ)
E-mail:fujiorth[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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