「 日常生活空間における疾患スクリーニングを目指して」【藤田浩二 講師】
慶應義塾大学
―スマートフォン1台で頚髄症(けいずいしょう)のスクリーニングと重症度推定―

ポイント
- 頚髄症は、早期に発見し適切な介入を行うことが予後改善のために重要であり、簡便で正確な検査方法の開発が望まれていた。
- スマートフォンカメラで、手指の動きを撮影、解析することで、非常に良好な精度で頚髄症患者を判別できた。
- 日常生活空間など、専門医のいない環境でも利用可能なシステム構築を目指し、疾患の早期発見を行うことが出来る機会の創出につなげる。
研究の背景
研究成果の概要
上記手法を用いて疾患の有無を判別した結果、頚髄症患者22名、頚髄症がない被験者17名を対象とし、感度90.9%、特異度88.2%、AUC※50.93という非常に良好な結果を得ました。さらに、疾患の重症度の予測に関しても相関係数0.67-0.79という良好な結果を得ました。過去に同グループが特殊な機器を用いて行った報告※6の判別精度(感度84%、特異度60.7%、AUC 0.85)よりも、簡便な機器でさらに高い精度で判別することが可能となりました。
研究成果の意義
今後、本システムが社会実装されれば、専門医の診断に依存することなく、地域の非専門医のみならず患者自身が日常生活空間で頚髄症のスクリーニングを行うことが可能になると考えます。誰にでも手の届くツールが出来あがることで、当初の目的である頚髄症の重症化前のスクリーニングを達成でき、必要な時期に必要な医療を提供する機会の創出につながります。さらに症状悪化後の治療を減らすことによる医療費の削減にも寄与出来ます。また、本手法は手の運動に特徴的な変化をもたらす他の疾患にも応用できる可能性があり、頚髄症に限らない簡便で正確なツールとして幅広い医療への貢献が見込まれます。
参考図

図1. 計測方法
スマートフォンの上に手をかざし、腕を伸ばしたまま、10秒間可能な限り速く手指を開閉(グー・パー)する動作を繰り返します。

図2. 手指の動きの検知
MediaPipe Handsを用いることで、図のように手指の21点の位置を推定します。この情報を基に手指の運動情報を取得します。
用語解説
※1頚髄症(けいずいしょう):頚椎(首の骨)の中で脊髄が圧迫されて起こる疾患である。正式には、発生の仕方により、頚椎症性脊髄症や頚椎後縦靭帯骨化症といった病名で診断される。
※2ミエロパチーハンド:頚髄症患者にみられる手指の巧緻運動障害の特徴的な症状であり、3~5指の内転が障害され、さらに進行すると伸展も障害され、手指の素早い把握動作とその解除(いわゆるグー・パー)が行えなくなる状態を指す。
※3 MediaPipe Hands:Google社が開発した、AIを用いて任意の画像中から手指の21部位の位置を推定する技術である。
※4機械学習:与えられた課題に対し、コンピューターが学習し、自動的に結果を計算する仕組みである。
※5 AUC:Area Under the Curveの略。検査方法の評価項目の1つで、0から1の値をとり、1に近いほど、精度の良いことを示す。
※6 Koyama T, Fujita K, Watanabe M, Kato K, Sasaki T, Yoshii T, Nimura A, Sugiura Y, Saito H, Okawa A. Cervical Myelopathy Screening with Machine Learning Algorithm Focusing on Finger Motion Using Noncontact Sensor. Spine (Phila Pa 1976). 2022 Jan 15;47(2):163-171. doi: 10.1097/BRS.0000000000004243. PMID: 34593737.
論文情報
論文タイトル:Screening for degenerative cervical myelopathy with the 10-second grip-and-release test using a smartphone and machine learning: A pilot study
DOI:https://doi.org/10.1177/20552076231179030
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器機能形態学講座 助教
・研究領域
リハビリテーション

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器機能形態学講座 講師
・研究領域
手外科、動作解析、疾患予測

慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 准教授
・研究領域
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
運動器機能形態学講座 藤田 浩二(フジタ コウジ)
E-mail:fujiorth[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
慶應義塾 広報室
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