プレスリリース

「 水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm高いと子どものう蝕が3%少ない 」【松山祐輔 准教授】

公開日:2023.5.24
「 水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm高いと子どものう蝕が3%少ない 」
― 日本の出生コホート研究で明らかに ―

ポイント

  • う蝕はいまだに多く、日本の小学生の3人に1人以上にう蝕罹患経験があります。
  • フッ化物によるう蝕予防は長い歴史をもち、海外では水道水フロリデーション※1(水道水のフッ化物濃度を適正(気温や他のフッ化物応用法の普及度により異なるが、0.7–1.0 ppm 程度)調整する施策)により安全で効果的なう蝕予防が行われています。
  • 日本では水道水フロリデーションは実施されていませんが、水道水にはフッ化物がもともと含まれており、水道法の上限の範囲で地域によりばらつきがあります。
  • 今回の研究により、水道法の上限の範囲で、水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm高くなるごとに、う蝕治療経験を有する子どもが3%少なくなることがわかりました。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の松山祐輔准教授らの研究グループは、日本の出生コホートデータを分析し、水道水天然フッ化物濃度が高い地域の子どもは、う蝕が少ないことを明らかにしました。個人・家庭・地域の要因を考慮した分析で、水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm高くなるごとに、う蝕治療経験を有する子どもが3%少なくなることがわかりました。この研究は文部科学省科学研究費補助金と公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Community Dentistry and Oral Epidemiologyに、2023年2月13日にオンライン版で公開されました。

図. 水道水中の天然フッ化物濃度とう蝕治療の関連

研究の背景

 水道水フロリデーションは長い歴史をもち、う蝕予防効果と安全性が科学的に証明され、アメリカなどで広く実施されているポピュレーションアプローチです。日本では水道水フロリデーションは実施されていませんが、水道水にはもともと天然のフッ化物が含まれ、土壌などの違いによりその濃度に地域差があります。本研究は水道水中の天然フッ化物濃度と子どものう蝕の関連を明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

 日本の子どもを対象とした追跡調査のデータを解析しました。保護者の回答により、5.5歳から12歳までの各年における子のう蝕治療経験の有無を得ました(34,998人から202,517件の回答)。各年の居住市区町村の水道水フッ化物濃度は水道統計から得ました。平均所得や歯科医院密度を含む個人・家庭・地域レベルの共変量を調整し、Cross-classified multilevel Poisson回帰分析で分析しました。分析の結果、水道水中の天然フッ化物濃度は平均0.0887 ppm(標準偏差 = 0.0422)でした。う蝕治療を受けた子どもの割合は7歳(40.3%)で最も高く、12歳(24.9%)で最も低く、フッ化物濃度の高い市区町村に住む子どもはう蝕治療を受ける割合が低いという結果でした(0.10 ppm未満, 0.10-0.19 ppm, 0.20-0.29 ppm, 0.30 ppm以上の市区町村でそれぞれ35.0%, 35.4%, 33.4%, 32.3%)。すべての共変量を調整後、水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm増加するごとに、う蝕治療を受ける子どもの割合が3.3%低下しました(有病率比 = 0.967, 95%信用区間: 0.939,0.996)。

研究成果の意義

 う蝕は世界でもっとも多い病気で、日本でも子どもの3人に1人以上がう蝕に罹患しています。諸外国では水道水フロリデーションが実施され、約60カ国の4億人以上がその恩恵を受けています。日本では現在、フッ化物配合歯磨剤が広く普及している一方で、水道水フロリデーションは実施されていません。今回の研究により、現在の日本でも水道水中のフッ化物濃度の高低がう蝕の多さに関連することが明らかになりました。これは見方を変えると、水道水中のフッ化物濃度の違いが、う蝕の地域差の原因のひとつになっているとも言えます。水道水フロリデーションは、経済的困窮などに左右されずに恩恵がある健康格差の縮小にも有用な施策であり、このようなう蝕予防のポピュレーションアプローチが日本でも推進されることが望まれます。

用語解説

※1水道水フロリデーション:自然環境下で水道水中には微量のフッ化物イオンが含まれ、この濃度の高低がう蝕の発生に影響することが知られている。水道水フロリデーションは、気温や他のフッ化物応用の普及度を考慮し安全にう蝕予防ができる濃度(気温や他のフッ化物応用法の普及度により異なるが、0.7–1.0 ppm 程度)に水道水中のフッ化物イオン濃度を調整する施策で、効果と安全性が科学的に証明され、米国やオーストラリアなど諸外国では広く実施されている(米国歯科医師会. 2018)。

論文情報

掲載誌Community Dentistry and Oral Epidemiology

論文タイトル:Tap water natural fluoride and parent-reported experience of child dental caries in Japan: Evidence from a nationwide birth cohort survey

DOIhttps://doi.org/10.1111/cdoe.12847

研究者プロフィール

松山 祐輔 (マツヤマ ユウスケ) Matsuyama Yusuke
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 准教授
・研究領域
歯科公衆衛生学、社会疫学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 松山祐輔(マツヤマ ユウスケ)
E-mail:matsuyama.ohp[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 「水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm高いと子どものう蝕が3%少ない」