プレスリリース

「 膵神経内分泌腫瘍における治療効果予測マーカーの解明 」【小野宏晃 講師】

公開日:2023.5.23
「 膵神経内分泌腫瘍における治療効果予測マーカーの解明 」
― ストレプトゾシン療法におけるMGMT遺伝子の意義 ―

ポイント

  • 膵神経内分泌腫瘍に対するストレプトゾシン療法の治療予測マーカーが解明されました。
  • MGMT遺伝子陰性の膵神経内分泌腫瘍ではストレプトゾシン療法の良好な治療効果が示されました。
  • MGMT遺伝子は腫瘍Gradeの上昇にともなって発現頻度が低下することがわかりました。
  • MGMT遺伝子を標的とした治療予測マーカーの確立が期待できます。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 肝胆膵外科学分野の小野宏晃講師、八木宏平大学院生、田邉稔教授の研究グループは、進行性の膵神経内分泌腫瘍で用いられるストレプトゾシン療法の治療効果予測マーカーとしてMGMT遺伝子の重要性を明らかにしました。この研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2023年5月9日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 膵神経内分泌腫瘍は希少疾患として知られていますが、近年その発生率は増加しています。膵神経内分泌腫瘍に対する根治治療としては外科手術が行われます。しかし、外科切除不能な場合には薬物療法などが行われますが治療方法は決して多くはありません。アルキル化剤であるストレプトゾシン(STZ)※1による化学療法は、特にKi-67指数※2が高く、進行した膵神経内分泌腫瘍に有効であることが報告されています。しかし、その背景となる膵神経内分泌腫瘍の病態は明らかとはなっていません。
 本研究ではMGMT(O6-メチルグアニン-DNAメチル化酵素)遺伝子※3に着目し、手術によって切除された膵神経内分泌腫瘍において免疫組織化学染色を用いてMGMT遺伝子の発現解析をしました。さらに、MGMT遺伝子発現とSTZ療法の治療効果との関連性を評価しました。

研究成果の概要

 研究グループは手術を施行した膵神経内分泌腫瘍142症例におけるMGMT遺伝子レベルを免疫組織化学染色によって評価しました。MGMT発現は142例中97例(68.3%)で陽性であり、陰性は45症例(31.7%)でした。腫瘍Gradeに関しては、MGMT陽性97例はNET-G1:71例、NET-G2:21例、NET-G3:5例でした。MGMT陰性45例の中ではNET-G1:9例、NET-G2:35例、NET-G3:1例でした。注目すべき点として、NET-G1(9/80例、11.2%)よりもNET-G2(35/56例、62.5%)においてMGMT陰性の頻度が有意に上昇していることです(図1)。いままで膵神経内分泌腫瘍におけるGradeに応じたMGMT発現解析は行われておらず、本研究によって初めて明らかとなりました。
 膵神経内分泌腫瘍のMGMT発現解析が評価された142例のうち、特に進行病変である19例においてSTZ療法が行われました。STZ治療効果との関連においては10例がMGMT陽性、9例がMGMT陰性でした。MGMT発現陽性の膵神経内分泌腫瘍ではSTZ療法が効果を示さず、4例(40%)が100日以内に病変の進行を認めました。しかし、MGMT発現陰性の膵神経内分泌腫瘍の多くは、STZ療法が治療効果を示し1年以上の長期にわたって病勢コントロールが可能な5例(55.6%)を含む良好な治療成績が認められました。STZを投与したMGMT陽性10例のうち、6例が病状が進行することなく病勢安定(SD)、4例が治療効果を認めず病変進行(PD)でした。一方でMGMT陰性9例では、5例がSTZ療法が効果を示し部分奏効(PR)、4例が病状が進行することなくSDであることが分かりました。このようにMGMT陰性例でSTZ療法において治療効果が有意に優れていることが示されました(p=0.009)(図2)。

 無増悪生存期間(PFS: Progression-free survival)※4によるMGMT発現とSTZ治療成績の関係については、Kaplan-Meier解析によりMGMT発現陽性はSTZベースの治療レジメンの予後不良と有意に関連していることが明らかになりました(p=0.042)(図3)。PFS中央値は、MGMT陰性例で20.8か月、MGMT陽性例で9.4か月でした。MGMT発現とSTZ療法に対する治療成績との関連を初めて明らかにしました。

研究成果の意義

 本研究では、MGMT陰性の膵神経内分泌腫瘍において、腫瘍の悪性度が有意に高く、特にNET-G1よりもNET-G2で有意にMGMT陰性の頻度が高いことを明らかにしました。さらに、MGMT発現が陰性の膵神経内分泌腫瘍に対してはSTZ療法の治療成績が良好であることを示しました。以上のことから、NET-G2において特にSTZ療法の治療効果が期待されます。MGMT発現は膵神経内分泌腫瘍に対するSTZ療法の治療効果予測マーカーであり、今後はMGMT発現に応じてSTZ治療を選択する「コンパニオン診断」※5となることが期待されます。

用語解説

※1ストレプトゾシン(STZ)・・・・・・・・膵神経内分泌腫瘍で用いられるアルキル化剤に分類される抗がん剤です。アルキル化剤の作用機序は、DNAのグアニンを架橋化してミスマッチ修復機構を活性化し転写や複製を阻害して抗腫瘍効果を生じます。

※2Ki-67指数・・・・・・・・腫瘍細胞の分裂スピードを示す指標です。膵神経内分泌腫瘍ではWHO分類によって
Ki-67指数や核分裂像を用いて高分化な膵神経内分泌腫瘍をNET-G1/G2/G3に分類します。

※3MGMT(O6-メチルグアニン-DNAメチル化酵素)・・・・・・・DNAの脱アルキル化を通じてアルキル化剤の作用を抑制すると考えられています。

※4無増悪生存期間(PFS: Progression-free survival)・・・・・・・治療中に病気が進行せず病態が安定した期間のことです。この指標は、進行したがん患者さんにおける抗がん剤の治療効果を見るときによく使用されます。

※5コンパニオン診断・・・・・・・治療薬の効果や副作用などを治療前に臨床検査によって評価することをいいます。あらかじめ検査をすることで治療薬が有効かどうかを判断することが可能となります。

論文情報

掲載誌Scientific Reports

論文タイトル:MGMT is frequently inactivated in pancreatic NET-G2 and is associated with the therapeutic activity of STZ-based regimens

DOIhttps://doi.org/10.1038/s41598-023-34666-y

研究者プロフィール

小野 宏晃 (オノヒロアキ) Hiroaki Ono
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
肝胆膵外科学分野 講師
・研究領域
腫瘍外科学 肝胆膵外科学 消化器外科学

八木 宏平 (ヤギコウヘイ) Kohei Yagi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
肝胆膵外科学分野 大学院生
・研究領域
肝胆膵外科学 
田邉 稔 (タナベミノル) Minoru Tanabe
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
肝胆膵外科学分野 教授
・研究領域
肝胆膵外科学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
肝胆膵外科学分野 氏名小野宏晃(オノヒロアキ)
E-mail:ono.msrg[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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関連リンク

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