プレスリリース

「HIV-1潜伏感染再活性化能を有するDAG-ラクトン誘導体の合成と評価」【玉村啓和 教授】

公開日:2023.5.19
「HIV-1潜伏感染再活性化能を有するDAG-ラクトン誘導体の合成と評価」
― HIV感染症に対する新たな治療法の可能性 ―

ポイント

  • ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)潜伏感染再活性化※1能を有する新規タンパク質リン酸化酵素C(PKC)※2リガンドであるジアシルグリセロール(DAG)-ラクトン誘導体※3を創製しました。
  • 本研究で創出された化合物は、以前同グループから報告されているYSE028 (1)※4よりも極めて高い活性を有していました。
  • HIV感染症/AIDSの有望な治療法開発への応用が期待できます。
 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループは、鹿児島大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター 抗ウイルス療法研究分野の前田賢次教授グループ、昭和薬科大学 医薬分子化学研究室の大橋南美講師、鹿児島大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センターHTLV-1/ATL 病態制御学分野の中畑新吾教授、東京都福祉保健局健康安全研究センターの吉村和久所長、国際医療研究センター研究所 難治性ウイルス感染症研究部の満屋裕明所長との共同研究で、HIV-1潜伏感染再活性化能を有する新規PKCリガンドであるDAG-ラクトン誘導体を創製しました。この研究は日本医療研究開発機構(AMED) エイズ対策実用化研究事業「HIV Cureを目指した新規作用機序を有する抗HIV薬開発研究」ならびに文部科学省科学研究費補助金、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌European Journal of Medicinal Chemistryに、2023年5月19日にオンライン版で発表されました。

図 HIV-1潜伏感染再活性化作用とDAG-ラクトン誘導体YSE028 (1)と2

研究の背景

 致死的な疾患を引き起こすヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)感染症/AIDSは、多くの治療薬の開発により治療し得る病へと抑えることに成功しました。しかしながら、既存の治療薬の使用だけではHIV-1感染症を根治できないという重大な問題があります。そのためこの問題の原因であるHIV-1潜伏感染細胞を根絶する方法の開発が望まれているのが現状です。

研究成果の概要

 本研究グループは、Shock and Killの概念に基づき、HIV-1潜伏感染再活性化剤の創製研究を行っています。これはHIV-1潜伏感染細胞を再活性化(Shock)し、プロウイルスDNAからの転写を促進し、抗HIV剤との併用により新規感染を防ぐ一方、再活性化された細胞を自己免疫システム等により細胞死(Kill)へ導き、HIV-1感染症を根治させる概念であります。本グループは最近、タンパク質リン酸化酵素C(PKC)のリガンドであるジアシルグリセロール(DAG)の環化誘導体(DAG-ラクトン)が、HIV-1潜伏感染再活性化能を有することを見いだしています。本研究では、DAG-ラクトン誘導体の側鎖構造を種々変換し、Shock作用が向上し、エステラーゼに対する安定性にも優れた新規DAG-ラクトン誘導体の創出に成功しました。また、Shock作用評価やPKC結合活性評価、代謝安定性試験等の結果から、有用なDAG-ラクトン誘導体の特徴を明らかにしました。

研究成果の意義

 玉村研究グループが創出した新規PKCリガンドであるDAG-ラクトン誘導体は、HIV-1潜伏感染細胞の再活性化(Shock)により、プロウイルスDNAからの転写を促進します。そこで、他の抗HIV剤と併用することにより新規感染を防ぎ、自己免疫システム等により再活性化された細胞を細胞死(Kill)へ導き、HIV-1感染症を根治できる可能性が示されました。また、今回得られた知見を基に、さらに化合物プロフィールが向上したHIV-1潜伏感染再活性化剤を創出できる可能性があります。

用語解説

※1 HIV-1潜伏感染再活性化: HIV-1感染者は、複数の抗HIV剤を併用して治療することにより、体内で産生されるウイルス量を検出限界以下に減らすことはできるが、患者の細胞の中に組み込まれたHIV(遺伝子)を体内から排除することはできず、潜伏感染が生じている。この潜伏感染細胞を薬剤により再活性化し、プロウイルスDNAからの転写を促進して、新しいウイルス粒子を放出する。潜伏感染細胞をなくすことにより、HIV感染症を根治できる可能性がある。
※2 タンパク質リン酸化酵素C(PKC): タンパク質リン酸化酵素C(PKC)はリン脂質とカルシウムに依存性があるセリン、スレオニンリン酸化酵素として、1977年に西塚らによって発見された。PKCは、ホルボールエステルや天然のリガンドであるジアシルグリセロール(DAG)によって特異的に活性化され、種々の情報伝達に関与している。
※3 ジアシルグリセロール(DAG)-ラクトン誘導体: ジアシルグリセロール(DAG)はPKCの天然のリガンドであるが、ホルボールエステルと比べるとPKCに対する結合活性が弱い。そこで、Marquezらは、直鎖状のDAGをガンマ-ラクトン環へ環化してコンフォメーションを固定化させた化合物であるDAG-ラクトンを創出した。DAG-ラクトンは、エントロピーペナルティを低下させることにより、PKCとの結合活性を向上させることに成功した人工のPKCリガンドである。
※4 YSE028 (1): 以前、玉村らにより創出されたDAG-ラクトン誘導体であり、HIV-1潜伏感染再活性化能を有することが報告されていた。

論文情報

掲載誌European Journal of Medicinal Chemistry

論文タイトル: Synthesis and evaluation of DAG-lactone derivatives with HIV-1 latency reversing activity

DOIhttps://doi.org/10.1016/j.ejmech.2023.115449

研究者プロフィール

玉村 啓和 (タマムラ ヒロカズ) Tamamura, Hirokazu
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 教授
・研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 玉村啓和(タマムラヒロカズ)
E-mail:tamamura.mr[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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