プレスリリース

「 薬剤師による抗菌薬適正使用プログラム導入による歯科外来における 内服抗菌薬処方の質の変化 」【田頭保彰 講師】

公開日:2023.5.15
「 薬剤師による抗菌薬適正使用プログラム導入による歯科外来における
内服抗菌薬処方の質の変化 」
― 継続的なフィードバックで経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方が減少―

ポイント

  • 病院薬剤師が歯科外来において、抗菌薬適正使用プログラムを導入することによって薬剤耐性アクションプランで削減目標となっていた経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方が著明に減少しました。
  • 薬剤師主導の活動は日本国内、アジアではまだ多いとは言えず、今後、抗菌薬適正使用プログラムにおける発展となる取り組みです。
  • 歯科における抗菌薬適正使用プログラムに関しては、日本からの査読論文への報告は初めてです。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 統合臨床感染症学分野の田頭保彰講師、東京医科歯科大学病院 薬剤部の沖畠里恵薬剤主任、大学院医歯学総合研究科 顎口腔腫瘍外科学分野の道泰之准教授、歯学部の砂川光宏非常勤講師らの研究グループは、東京医科歯科大学病院歯科外来において、経口抗菌薬に対する抗菌薬適正使用プログラムを導入し、歯科医師に対してフィードバックを継続的に行いました。この活動は薬剤師主導で行い、薬剤耐性アクションプランで削減が必要であった経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方を大幅に減少することができ、抗菌薬選択の改善に貢献したと考えます。
 この研究成果は、Journal of Hospital Infection に、2023年4月23日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 歯科外来診療では感染症治療や抜歯などの手術・処置後の感染予防を目的として抗菌薬が処方されます。抗菌薬は治療目的に応じた適切な薬剤を選ぶ必要があり、近年では耐性菌の発生を抑えるために、各学会等から抗菌薬の適正使用ガイドラインが整備されています。歯科領域における抗菌薬は「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」でペニシリン系が第一選択薬であることが推奨されています。「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」(2015年8月)でも歯科における抗菌薬の選択について記載されており、経口第3世代セフェム系抗菌薬は推奨されていません。しかし、東京医科歯科大学病院の歯科外来では第3世代セフェム系抗菌薬が非常に多く処方されている現状がありました。2016年に厚生労働省から薬剤耐性アクションプランが発出されたことを受けて、本研究グループでは薬剤師主導の抗菌薬適正使用プログラムを計画しました。経口第3世代セフェム系抗菌薬使用の削減や適切な抗菌薬の選択および用量に関するフィードバックを歯科医師に対して行う必要があると考え、2017年度から歯科全診療科に対して多面的な介入を導入しました。

研究成果の概要

 2015年度から2021年度の抗菌薬の外来処方件数データを収集し、全抗菌薬の100受診件数あたりの処方件数およびDOT※1の推移を解析しました。また、抗菌薬を表1のようにグループ化して介入前後の処方率の比較を解析しました。

表1. 採用抗菌薬とグループ化した抗菌薬の対応表

 多面的な介入の主な内容は、外来にて院内処方の入力があった時点で直接処方医に電話をしてフィードバックを、直接フィードバックできない院外処方箋については、電子カルテを利用した文書によるフィードバックを行いました。また、歯学部学生に対しても抗菌薬についてミニレクチャーを行いました。
 介入前後で経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方割合が有意に低下し、研究期間最後の1年は平均1%台で推移しました。対照的にペニシリン系抗菌薬の処方割合は有意に増加し研究期間最後の1年は平均93%となりました(図1)。それ以外の広域抗菌薬についても低下傾向を認め、ペニシリンアレルギー時の代替薬としてクリンダマイシンの処方割合が増加しました。
 

図1. 100抗菌薬処方あたりに占めるペニシリン系抗菌薬及び第3世代セフェム系抗菌薬の処方割合

研究成果の意義

 歯科医師に対する直接的かつ迅速なフィードバックは、抗菌薬処方に関する知識や問題意識を改善し、行動変容に繋がった可能性があること、また、学生に対するレクチャーはAMR※2やASP※3に関する知識を持つことに貢献した可能性があります。そして、薬剤師による継続的なフィードバックにより、AMRアクションプランで削減が求められていた経口第3世代セフェム系抗菌薬の処方が大きく減少し、歯科診療における抗菌薬選択の改善に貢献したと考えます。

用語解説

※1DOT:Day of Therapy 「抗菌薬使用日数」:抗菌薬使用量の指標で、抗菌薬が患者に投与された日数を集計する方法。
※2AMR:Antimicrobial Resistance 「薬剤耐性」:特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物薬が効きにくくなること、または効かなくなること。
※3ASP:Antimicrobial Stewardship Program「抗菌薬適正使用支援プログラム」:主治医が抗菌薬を使用する際、感染症治療を最適化する目的で、感染症専門の医師や薬剤師、臨床検査技師、看護師が主治医の支援を行うこと。

論文情報

掲載誌Journal of Hospital Infection,136 (2023) 30-37.

論文タイトル: Pharmacist-led multi-faceted intervention in an antimicrobial stewardship programme at a dental university hospital in Japan

DOIhttps://doi.org/10.1016/j.jhin.2023.04.006

論文URLhttps://authors.elsevier.com/a/1h1DKiVO0BBLi

研究者プロフィール

田頭 保彰 (タガシラ ヤスアキ) Tagashira Yasuaki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
統合臨床感染症学分野 講師
・研究領域
 感染症疫学
 抗菌薬適正使用

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
統合臨床感染症学分野 田頭保彰(タガシラヤスアキ)
E-mail:tagashira1134.cid[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 「薬剤師による抗菌薬適正使用プログラム導入による歯科外来における内服抗菌薬処方の質の変化」