「 日本の労働者における日常生活のストレスと口腔の健康の関係性 」【相田潤 教授】
公開日:2023.3.30
「 日本の労働者における日常生活のストレスと口腔の健康の関係性 」
― 日常生活のストレスと口腔の健康の問題との間には、明確な用量反応的な関係が認められた ―
ポイント
- ストレスは、口腔の健康や健康格差に大きな影響を与えていると考えられますが、人を対象とした研究は少なく、詳細は明らかではありません。
-
そこで274,881名の労働者の広範な日常生活のストレスと口腔の健康の関連を分析しました。
- 様々な背景要因の違いを考慮し推定した、口腔の健康の問題を持つ人の割合は、ストレスのない人で2.2%、ストレススコアが最大(7点以上)の人で14.4%でした。
- 日常生活のストレスが多いほど、口腔の健康の問題を持つ人が多くなるという、明確な関係が認められました。
ストレスは様々な健康問題を引き起こしたり、健康格差を拡大する要因といわれていますが、口腔の健康との関連はあまりわかっていません。東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授、青木仁大学院生らの研究グループは、国が実施した国民生活基礎調査の二次解析から、日常生活のストレスと口腔の健康との間には明らかな関係があることを明らかにしました。研究成果は、Journal of Epidemiologyに、2023年1月14日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
労働者の心理的なストレスは、さまざまな精神的および身体的な健康上の問題を引き起こすことが報告されています。ストレスと口腔の健康の関連に関するこれまでの研究は、ストレスの測定項目の範囲が狭く、一貫した結果が報告されていません。本研究では、労働者の広範な日常生活のストレスと口腔の健康の関連を調査することを目的としました。
研究成果の概要
本研究は、国が実施した2013年の国民生活基礎調査の匿名化された個票データを分析して行いました。日常生活のストレス、口腔の健康の問題(「歯が痛い」、「歯ぐきのはれ・出血」、「かみにくい」のいずれかの項目が1つ以上ある場合を問題ありとする)、および各共変量について、自記式質問票の情報から得ました。共変量には性別、年齢、配偶者の有無、職業分類、教育歴、喫煙習慣、飲酒習慣、健康のための活動、健診の受診、健康上の問題での日常生活の影響、歯科以外の治療中の主な疾患(15疾患)を用いました。多項ロジスティック回帰分析を用いて、日常生活のストレスと口腔の健康の問題との関連を推定しました。そして、拡張逆確率重み付け法(augmented inverse probability weighting method:AIPW法)を用いて、口腔の健康の問題の有病率を推定しました。
対象者274,881名(平均年齢は47.0(SD=14.4)歳、男性152,850名(55.6%)、女性122,031名(44.4%))のうち、4.0%に口腔の健康の問題が認められました。口腔の健康の問題の有病率は、ストレスのない者で2.1%でしたが、ストレススコアとともに増加し、最大のストレススコア7点以上)の者では15.4%に達しました(表1)。ストレスのない者と比較した最大のストレススコアの者の調整オッズ比は9.2(95%信頼区間(CI)=8.2-10.3)倍でした(表2)。AIPW法で各共変量にて調整した口腔の健康の問題の推定有病率は、ストレスがない者が2.2%(95%CI=2.1-2.3)であり、最大のストレススコアの者で14.4%(95%CI=12.1-16.7)でした(図1)。個別の口腔の問題についてもストレスが増えるほど症状を有する人が増えるという関係が見られました(図2)。
対象者274,881名(平均年齢は47.0(SD=14.4)歳、男性152,850名(55.6%)、女性122,031名(44.4%))のうち、4.0%に口腔の健康の問題が認められました。口腔の健康の問題の有病率は、ストレスのない者で2.1%でしたが、ストレススコアとともに増加し、最大のストレススコア7点以上)の者では15.4%に達しました(表1)。ストレスのない者と比較した最大のストレススコアの者の調整オッズ比は9.2(95%信頼区間(CI)=8.2-10.3)倍でした(表2)。AIPW法で各共変量にて調整した口腔の健康の問題の推定有病率は、ストレスがない者が2.2%(95%CI=2.1-2.3)であり、最大のストレススコアの者で14.4%(95%CI=12.1-16.7)でした(図1)。個別の口腔の問題についてもストレスが増えるほど症状を有する人が増えるという関係が見られました(図2)。
研究成果の意義
労働者の日常生活のストレスと口腔の健康の問題との間には、明確な用量反応的な関係が認められました。本研究の長所は、労働者の仕事以外の広範な日常生活のストレスを考慮したことです。さらに、分析の対象者が多数であり、日本全国を代表するサンプル分析とAIPW法の使用を可能にし、ストレスと口腔の健康の間の用量反応的な関係を示すことを可能にしました。現在、ストレスに起因する口腔の健康の問題は、産業衛生の分野のみならず歯科分野では十分に考慮されておらず、根底にある機序を明らかにし、ストレス軽減を通じて口腔の健康を向上するための介入プログラムを開発していくことが必要であると考えられます。
論文情報
掲載誌:Journal of Epidemiology
論文タイトル: Association of Stressful Life Events with Oral Health Among Japanese Workers
DOI:https://doi.org/10.2188/jea.JE20220225
研究者プロフィール
相田 潤 (アイダ ジュン) Aida Jun
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 教授
・研究領域
社会疫学、歯科疫学
青木 仁 (アオキ ジン) Aoki Jin
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 大学院生
・研究領域
歯科疫学、産業衛生学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 大学院生
・研究領域
歯科疫学、産業衛生学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 相田 潤 (アイダ ジュン)
E-mail:aida.ohp[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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