「 NF-kBデコイ核酸医薬による抜歯窩歯槽骨の治癒促進効果を発見 」【石田雄之 助教、小野卓史 教授】
― NF-kBデコイ核酸医薬含有PLGAナノ粒子を用いた新規歯科治療法の開発 ―
ポイント
- 抜歯した後に起こる歯槽骨吸収は、機能回復を図るための歯科治療を行う上で治療方針の制約となることが多くありますが、抜歯後短期的に起こる歯槽骨吸収を防ぐ効果的な治療法は未だ確立していません。
- 本研究では、動物実験系を用い、初期炎症を抑え創傷治癒促進に作用する乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子に封入したNF-κBデコイを投与することで、抜歯後の骨代謝機転において過剰な炎症反応および骨吸収を効果的に抑制し、早期の治癒機転を促すことを初めて発見しました。
- 本研究結果は、抜歯窩の新生骨形成を促して歯を支える歯槽骨の高さを維持するために、抜歯後の初期炎症を防ぐことが重要であることを示すとともに、抜歯後短期的に起こる歯槽骨吸収を予防し長期にわたり歯槽骨形態を維持する新規治療法の開発の嚆矢となることが期待されます。
研究の背景
今回、研究グループが着目したNF-κB経路は、炎症の発生および調節において重要であり、本研究ではNF-κB経路を安全かつ効率的にブロックすることができるNF-κBデコイ核酸、ならびに導入効率・生体吸収性に優れたPLGAナノ粒子を使用して、抜歯後歯槽骨組織における初期炎症反応の制御、治癒機序および骨代謝にどのような影響を与えるか動物実験モデルを使用して検討しました。(図1)

図1. 研究イメージ図
研究成果の概要



研究成果の意義
抜歯に伴う歯槽骨喪失は、歯科治療法の制約だけではなく、審美障害も引き起こし、長期にわたり健康な口腔機能を維持するうえで適切な対策をとるべき問題です。今回の研究で、NFkBが抜歯による炎症性歯槽骨吸収のキーファクターの一つであることが明らかとなり、今後、NFkBを標的とした新規歯科治療薬の開発が期待されます。(図5)

用語解説
※1核酸医薬・・・・・・・・遺伝情報をつかさどるDNAやRNAを構成するヌクレオチドを利用した医薬品のこと。直接mRNAなどに作用させることができるため、高い特異性と、従来の医薬品では狙いづらかった細胞内の標的分子をターゲットとすることができる。
※2 PLGAナノ粒子・・・・・・・・生体吸収性のあるポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)は安全性の高い生体材料であり、PLGAをナノ粒子化することで、生体吸収性を向上させ、薬剤のキャリアとして利用される。PLGAナノ粒子は、封入した薬剤の安定性向上、薬剤徐放性による持続的効果を発揮し、薬剤の治療効果を高めることができる。
※3NFκBデコイ・・・・・・・・核酸医薬であるNFκBデコイは細胞核内の転写因子のNF-κBと結合することにより、多くの炎症性サイトカインの発現を制御することが可能。当研究グループにより、再植治療後の歯周組織の再生に効果的であることが明らかとなり、歯科領域への応用が期待されている。
参考文献
https://doi.org/10.1097/00008505-200009020-00011.
2) Araújo, M.G.; Silva, C.O.; Misawa, M.; Sukekava, F. Alveolar Socket Healing: What Can We Learn? Periodontology 2000 2015, 68, 122–134. https://doi.org/10.1111/prd.12082.
3) Pagni, G.; Pellegrini, G.; Giannobile, W.V.; Rasperini, G. Postextraction Alveolar Ridge Preservation: Biological Basis and Treatments. Int. J. Dent. 2012, 2012, 151030. https://doi.org/10.1155/2012/151030.
4) Avila-Ortiz, G.; Elangovan, S.; Kramer, K.W.O.; Blanchette, D.; Dawson, D. Effect of Alveolar Ridge Preservation after Tooth Extraction: A Systematic Review and Meta-Analysis. J. Dent. Res. 2014, 93, 950–958. https://doi.org/10.1177/0022034514541127.
5) Couso-Queiruga, E.; Stuhr, S.; Tattan, M.; Chambrone, L.; Avila-Ortiz, G. Post-Extraction Dimensional Changes: A Systematic Review and Meta-Analysis. J. Clin. Periodontol. 2021, 48, 127–145. https://doi.org/10.1111/jcpe.13390.
論文情報
掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
論文タイトル: NF-κB Decoy ODN-Loaded Poly(Lactic-co-glycolic Acid) Nanospheres Inhibit Alveolar Ridge Resorption
DOI:https://doi.org/10.3390/ijms24043699
研究者プロフィール

小野 卓史(オノ タカシ) Ono Takashi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
咬合機能矯正学分野 教授
・研究領域
歯科矯正学、口腔生理学、睡眠医学

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
咬合機能矯正学分野 助教
・研究領域
歯科矯正学、核酸医薬、骨代謝

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
咬合機能矯正学分野 大学院生
・研究領域
歯科矯正学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
咬合機能矯正学分野 小野 卓史(オノ タカシ)
E-mail: t.ono.orts[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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